95話:ベテランだと思う
案内された応接室は、無傷とはいかなかった。
上の階で、壁と屋根が吹き飛ぶような、激しい魔法合戦が繰り広げたられていたのだ。
埃が落ち、花瓶などの飾りは倒れ、激しい地震の直後のような有り様になっている。
だがターニャはすぐに魔法を使い、それらを綺麗に片づけた。
思うに、ターニャはベテランだと思う。
得意な魔法は火魔法だろうが、湖を凍らしたことから、氷魔法もかなりの実力のはず。それにナイト・フォレストより広大な場所に魔法を展開しているのだ。その上でランスにも呪いをかけていた。そして今も風魔法を駆使し、あっという間に片づけもしてしまった。見た目では分からないが、年齢もきっと私よりうんと上のはず。経験も豊富なのだろう。
「これで暖炉もついたわね。あとは……お茶の用意ね。そう言えば、あたしのゴーレム、見なかったかしら?」
そこで巨大サイズのゴーレムの大軍に襲われ、申し訳ないが湖に沈めたことを伝えると……。
「ええ、千体近いゴーレムの大軍!? ごめんなさい。あたし、使用人としてゴーレムを使っていたけど、人ぐらいのサイズよ。しかも千体! この城にいたゴーレム十五体なのに……申し訳ないことをしたわ」
ターニャがそう言うと、ひとまず皆をソファに案内した。
ローテーブルを挟んで対面に置かれた三人掛けのソファに、ランス、私、マークが座る。
私の丁度正面にターニャが座っている。
ホークはランスの斜め左の一人掛けソファに、腰を下ろした。
そこでホークが手を上げる。
「俺がお茶の用意をしますよ。話を進めた方がいいと思うんで」
するとマークも手を上げ、こう告げる。
「自分の部下たちが、湖の対岸で待っています。彼らの元へ一度戻る必要があるので、自分から先に話をさせていただいてもいいでしょうか?」
これには異論はなく、マークが最初に話すことになり、ホークはお茶を用意することになった。厨房の場所を聞くと、ホークはもう部屋を出て行っている。
ホークは適応能力が高いし、家事も得意なので、きっとすぐに茶葉の在り処や素敵なティーセットも見つけられるだろう。
私の使い魔は優秀なのだ! エッヘン!
「では僭越ながら報告させていただきます。サラ様がその多くを湖に沈めてくださったので、我々が倒すことになったゴーレムは、そこまで多くなく済みました。二十三体を倒し切り、負傷者は十五名。重傷者は幸いなことにいません。さらにサラ様にいただいたポーションがあったので、それを飲み、負傷者も既に回復しています」
この話のついでで、第一線での火矢の件、そこで多数の獣や鳥の骨があったことも軽く私が話すと、ターニャが驚愕した。
「うちのゴーレムが人間を襲うなんて! そんな魔法をあたしがかけていたと思うと、ぞっとするわ。本当にごめんなさい。それに城の周囲に侵入を感知するための魔法を展開していますが、問答無用で火矢を放ったり、ゴーレムで排除したりするような設定にはしていないのに。ごめんなさい。今すぐ、本来のものに戻します」
ターニャはあの戦闘の時とは別人のように謝ると、一度窓のそばに行き、呪文を詠唱。
ソファに戻ると、「もうこれで無用な殺生はなくなります」と告げた上で、こんな提案をしてくれた。
「この城は無駄に広く、使っていない部屋ばかり。客間も沢山あるの。騎士団の皆さんを泊めることができるので、今日はこの城に泊まってください。すぐに船を用意させます。少しお待ちになってください」
今日も野営と思ったが、ここに泊まることができるなら、それに越したことはない。
快諾となり、ランスや私、ホークも泊めてもらうことになった。
返事を聞いたターニャは席を外し、入れ替わるように、ホークが戻って来た。
「すごいよ。最高級の紅茶の茶葉があった。それにイチジクのタルトとマロンタルトも。一人で住んでいるのにたいしたもんだな、あのターニャは」
ホークは紅茶と二種類のタルトをテーブルに並べた。
まさに配膳が終わったタイミングで、ターニャが戻ってくる。
「ゴーレムに船の準備をさせています。用意できたら呼びに来るので、マーク様はその船で仲間の騎士をこの城まで連れてきてください。船はゴーレムが操作できます」
わずか短時間の間に、かなりの数のゴーレムを作り出したようだ。
やはりターニャはベテランの魔女。
ともかくそこからは紅茶をいただき、タルトを食べながら、お互いの間に何があったのかを話すことになった。
「……そうですか。あたしと殿下は知り合いではないはずです。一体どこで出会うことになったのか……」
「僕が記憶する限り、宮殿で開かれた舞踏会で、お会いしたのが初めてです。あなたは招待状もないのに、そこにいました。そして突然、僕に話しかけてきて……。そこからです。その日以降、不意にあなたは現れ、僕に求婚を……。そしてその際、僕の周囲に女性がいると、彼女たちを次々と石像に変えたのです」
「!? 石像に!? 本当にあたしが……。申し訳ないです。石像になった女性達にかけた魔法も、すぐに解くようにします」
話しを聞くとターニャは、転移魔法でここから王都ぐらいなら、余裕で行けると言う。
これにはたまらず、私は尋ねずてしまう。
「タ、ターニャさんはどうしてそんなに魔力があるのですか!?」
「それは……サラさんはお若いから知らないのかもしれませんね。実はこの世界には東西南北を司る四人の魔女がいるんです。北を司るのはあたし、“北の魔女ターニャ”。“北の魔女ターニャ”というのは、確かにあたしですが、世襲したものです。先代“北の魔女ターニャ”がいるんですよ。もう引退されましたけどね。東西南北の魔女は四姉妹で、魔女の始祖というべき存在というか。ゆえに魔力はとても強いんです」
そこでターニャは紅茶を口に運び、話を続ける。
「もう数百年ここで生きています。いつの間にかこの峡谷を挟んで国が出来てしまい……戦争も始まって大変でした。基本的に中立を守っていたのですが……」
そこでターニャは思いがけない昔話を始めた。
お読みいただき、ありがとうございます!
次回は「第96話:昔語り」です。
今朝、間違って96話を公開しており、修正しました。
本当にごめんなさい。
95話は「公開」ではなく「削除」にしていたようで……
「編集」ボタンのそばに「管理」(削除)ボタンがあり、それを……押していたようです。
後書きが幻になってしまいました。多分、小話あったはずなのに(涙)





















































