90話:これもまた奇跡!?
「どうして殿下が魔法を使えるのですか!?」
「実はサラから毎日魔力をもらっていましたよね。でも……ごめんなさい。僕は呪いの魔力の塊を無効にするために、あまり魔力を使っていませんでした。代わりに魔力を自分に蓄えたいと思うようになっていたのです」
「えええっ、ど、どうしてですか!?」
するとランスは困ったような表情で、自身の後頭部に手を添える。
「森の中のサラの家に滞在させてもらっていた時。僕の寝室は、本来サラがポーションを作るための部屋でしたよね? 毎朝目覚めると、沢山の魔法に関する書物が詰まった本棚が目に入ります。そこで興味本位で読み始めて……。魔法を使えるわけではないのに、呪文を覚えてみたり」
そこでランスは子供のようにはにかんで笑う。
「魔法なんて使えないと分かっていたのに、覚えた呪文を一人ベッドで詠唱することもありました」
それはなんだか子供の頃の自分を思い出す。
少年漫画の主人公の決め技を覚えたら、自分も特別な力を発揮できると思っていたことがある。ランスが魔法を使えないか、ドキドキして試す様子を想像すると、なんだか微笑ましくなる。
「でも魔力がないのですから、何も起きませんでした。ですがサラから魔力をもらえると分かり……。思わず試してみたのです。すると……」
ランスが言葉の美しさで覚えていた魔法が「水魔法。水天光輝」で、それは水を夜空に散らし、光らせる魔法。水に当たる星の光を増幅させる魔法で、明かりがない時に役立つもの。そして私から魔力を得たランスはこの呪文を唱えたところ、成功したというのだ。
「その時から、覚えていた呪文を書き出し、使えるかどうか試す日々でした。先程の魔法は、火事の時に役立ちそうだと覚えていたものです。今回はサラを守ることができて良かったですよ」
「サラ、こんなことあり得るのか!? 魔女の伴侶になると、魔法使いになれるのか!?」
ホークが驚愕の表情で私を見た。
でもこれに関して、私は明確な答えを持ち合わせていない。
「正直、知らなかったわ。ランス殿下に言われ、初めてそんなことができるのかと思ってしまったもの。夢を見ているのかと思ったわ。でも実際、私は殿下に助けられたわけで……。奇跡だと思う」
私から「奇跡」と言われたことがよほど嬉しかったのだろう。
ランスが満面の笑みになる。
「ターニャは火魔法ばかり使うので、水魔法を使う方が効果的だとは分かっているのですが、私の得意な魔法が風と氷魔法なんです。咄嗟に出るのがこの二つの魔法で……。よってランス殿下が水魔法を覚えているのは、本当に奇跡ですし、有利な展開に持ち込めると思います。ですが殿下の魔力は」「サラ」
そこで不意にランスが私の腰を抱き寄せた。
そしてもう片方の手で私の頬を優しく包むと、ゆっくり顔を持ち上げる。
「僕の魔力はきっと連発して魔法を出せる程、多くはないですよね。だからこの後に備え、補充させてもらってもいいですか?」
「えっ、ここで、今、ですか!?」
「そうです。ここで、今、です」
私は目でホークに合図を送った。
何かを察知したホークがこちらに背を向けた瞬間。
もうランスにキスをされている。
まさかホークがこんなに近くにいるのに、キスをするなんて!
でもこうするしか魔力は補給できない。それにキスをしていると無防備になるから、ホークにそばにはいて欲しい。そうなると……。
こうするしかないのだ!と自分に言い聞かせた。
言い聞かせる……ことができたのはわずか数秒。
その後はランスとのキスで、思考は寸断される。
♡ ♡ ♡
「しかし殿下が魔法を使えるって……」
「ホーク、協力、ありがとうね。それで二人に伝えたいことがあります。戦闘の最中、ターニャを観察していたら、気づいたことがあるんです。実は彼女の胸には、矢が刺さっています」
私の言葉にランスとホークが目を丸くする。
「えっ!? 僕には見えませんが」
「サラ、俺も見えなかったぞ。ホーク様のこの目を以てしても!」
「あれは特殊な力で出来た矢だと思います。殺傷力はなく、なんだか印のように刺さっているように思えました。そしてあの矢を見ることができるのは、あの矢を操れる力の持ち主。もしくは魔法を使える魔女のような存在ではないかと……」
そこでランスが不思議そうに尋ねる。
「特殊な力という言い方ですと、魔法や呪いの類ではないのですか?」
「呪い……。殿下、呪いの可能性はあります!」
「サラ、その矢はどんな形をしているんだ?」
ランスとホークに次々に質問をされ、それに応えていくと――。
「サラ、俺様の記憶が正しければ、昔、この地上には天から降り立つ者がいた。それが天使。その天使にまぎれ、クピドがいた。クピドは恋愛の神であり、その矢を心臓に受けると、その直後に見た相手に恋に落ちると言われている。そしてその矢が、確か黄金で出来ているって。でもその矢に射貫かれても、痛みもなく、普通の人間では見ることができないと書かれていたぞ」
ホークは情報収集が得意で、収集した情報をよく覚えている。
そして今、話してくれたことで、私はあることを思い出すことができたのだ!
お読みいただき、ありがとうございます!
サラの気づきが突破口になる!?
次回は「第91話:発想の転換」です。