89話:魔法合戦
ものすごい圧力で体ごと後方に吹き飛ばされ、壁の代わりのガラス窓を突き破り、私の体は二階からいきなり落下した。
「「サラ!」」
ランスとホークの叫びは一瞬だけ聞こえた。
「ったく、何なんだ、あのくそばばぁ!」
ブチ切れたホークが、落下する私を地面で受け止めてくれた。
つまり瞬時に鷹の姿となり、先回りして地面へ移動。
落下する私をキャッチしてくれたわけだ。
「大丈夫か、サラ!?」
「大丈夫よ。咄嗟だったけど、風魔法を背中で展開したから、ガラスも先に魔法で砕いて落下したの。だからどこにも怪我はないわ。それよりもランス殿下を一人にしないで! 今すぐ戻って!」
「了解!」
ホークを見送り、そこでようやく息を大きく吐く。
まさに死ぬかと思った。
一応、風魔法を使い、落下の衝撃を弱めるつもりでいた。
それでも地面に転がる事態は免れないと思っていたら……。
ホークが抱きとめてくれたのだ。これには感謝しかない。
だが、重要なのはランス!
ターニャの関心はランスにあるのだ。
早く、戻らないと!
出し惜しみしている場合ではない。
すぐに転移魔法で大広間に戻ると、ターニャの悲鳴が聞こえ、ランスは突き飛ばされたのか。玉座から少し離れた場所で尻餅をつき、立ち上がるところだった。
ホークはそのランスのところへ向かい、素早く人型に戻ると、彼に手を貸した。
再びターニャを見ると、右手が分厚い氷で覆われている。
どうやら私のかけていた魔法が発動したようだ。
そう。
ランスに贈った銀河のような毛糸で編んだマフラー。
完成したマフラーには魔法を込めていたのだ。
無理矢理、ランスがつけるこのマフラーを外そうとする者がいれば、手から肘までが急速凍結状態になるように。そして今、ターニャの腕がそうなっているということは、ランスに言い寄り、マフラーを外そうとしたわけだ。
……許せない。
「氷魔法。氷柱短剣」
瞬時に氷の短剣を何本も作り出す。
「風魔法。乱舞疾風」
氷の短剣が矢のようにターニャ目掛けて放たれる。
「ふざけた真似を! 火魔法。灼熱火炎」
炎の渦が巻き起り、私の放った氷の短剣を呑み込む。
ならば!
「風魔法。渦流烈風」
逆に炎を烈風で呑み込み消し去る。
間髪を入れず、「風魔法。熱風烈風」と詠唱。
これは普段、ドライヤーで使う風魔法を攻撃型に変えたもの。
高温の熱風が激風となり、ターニャに襲い掛かった。
その間にランスを連れ、ホークが私のところへ戻ってくる。
「殿下、お怪我は!? 何かヒドイことをされませんでしたか!?」
「サラのマフラーが守ってくれたよ。ありがとう」
そう言うとランスは剣を抜く。
「忌々しい魔女め! まだひょっこの魔女のくせに、あたしの男を寝取るなんていい度胸だ!」
「「「寝取る!?」」」
三人同時で叫んでしまうが、これは仕方ないこと。
呪いが解けたのだから、そういう関係になったターニャが想像したのだろう。
実際は違うのだけど!
「火魔法。業火爆炎」
「氷魔法。永久氷結」
分厚い氷の盾でランスとホークを守り、「風魔法。逆風烈風」で飛んでくる火球をターニャに戻す。
「なんて生意気なっ!」
ここからはもう、魔法合戦で、ランスとホークは息を呑んで見守ることになる。本館と呼ばれる建物は屋根が吹き飛び、壁も砕け、もはや屋上で戦闘しているような状態になった。
その戦闘の最中、度々目が行ってしまうのが……。
ターニャの胸!
着ているローブから腕を出すことで、胸がしっかり見える状態。しかもコタルディを着る際、がっちり下着をつけていないようだ。たぷん、たぷんと胸が上下、左右と揺れる様子が見えてしまうのだ。
別に男性ではないのに!
そこまでたぷん、たぷん揺れると見てしまう。
そして見ているうちに、見えてきたのだ。
こんな風に言うと、ドレスが透過され、素肌が見えている。
そんな風に思われそうだが、そうではない。
魔女は相手の魔法を肌で感じたり、目視できたりするのだけど。
実際に知覚しているのは、魔法=魔力。
そしてターニャの胸に刺さる矢が見えたのだ。
物理的な矢ではない。
矢の形をしたなんらかの力の塊だ。
魔女の魔力ではない。
精霊の力ではない。
何の力なのか?
黄金の細かい粒子で形作られた本来見えるはずのない矢をじっとみることで、私は一瞬、反応が遅れてしまった。
「氷魔法。永久氷結」
ランスとホークを守るための盾は展開できた。
だが、ターニャは連打で火魔法を使っていたのだ。
自分の防御のための魔法が間に合わない。
そう思ったその時。
「水魔法。水勢激流」
凛とした声で、静かに魔法が詠唱される。波のような水が、炎の雨を瞬く間に呑み込んだ。
ホーク?
そう思ったが、聞こえた声はホークではない。
チラリと見るとランスが優雅に微笑む。
「えええええっ、ランス……で、殿下!?」
話したいと思った。
「ホーク」と合図すると、すぐに鷹へ姿を変える。
そこで咄嗟に転移魔法を使い、城の外へ一度転移した。
「ランス殿下ですよね!? さっき、水魔法を使ったのは!」
「そうです。ちゃんと使えてよかったです」
そこでランスにより守られたことに気づき、慌てて御礼を述べることに。
そして尋ねる。
「どうして殿下が魔法を使えるのですか!?」と。
お読みいただき、ありがとうございます!
驚きの事態に!
次回は「第90話:これもまた奇跡!?」です。