8話:お兄さん……!
「卵。そうですね。毎朝食べる目玉焼き。オムレツでもスクランブルエッグでもなく、目玉焼き。サラの手料理で初めて食べましたよ、目玉焼きは。とても気に入っています。卵、取ってきますね」
甘い笑顔から一転、それはもう秀麗な笑みを浮かべ、自称おじいさんが鶏小屋へ向かってくれる。
パタンと玄関の扉が閉まり、肩から力が抜ける。
「驚いたな。サラより若いと思うが」とホーク。
「え、なんか普通にハンサムじゃない?」とココ。
「髭だけであんなに変わらないわよね!?」と私。
やはり思ってしまう。
このままでは年齢一桁からの、いつか赤ん坊になってしまうのでは!?
なんか前世でそんな映画を見た記憶がある。
え、あれ、最後どうなっていましたっけ!?
ヒロインがおばあさんになって、立場逆転だったような!?
もしおじいさんが赤ん坊になった場合。介護経験はあっても、未婚で喪女。そして子育て経験はないのだ。つまり赤ん坊を育てるなんて、いろいろ無理だと思います!
それを踏まえても、やはりおじいさん……もうおじいさんと呼べないと思うのですが。
ともかくおじいさんには森から出て行ってもらわないと!
その決意を固め、朝食の用意をしながら、ホークとココと話すことになる。
私は真剣な表情で、ホークとココを順番に見た。
「初歩的な質問よ。この世界の人間は、老人の姿で生まれ、もしかして若返りながら成長するのかしら?」
「!? そんなわけないと思う。俺はそんな話聞いたことがないぞ! 少なくともこの森にいる動物は、みんな赤ん坊で生まれ、成獣へと育っている!」
「私も赤ん坊から大人の人間に成長すると思いますよ~。だっておじいさんのようなサイズ、妊婦さんのお腹に収まりませんよね? 人間は巨人族ではないですし。何度か街にも行きましたが、見たことないですよ、そんな人間は~」
ホークとココが言うことは尤もである。
ならばあのおじいさんは、一体全体どうなっているのかしら!?
「ともかくこのまま若返りが続いて、赤ん坊になられたら、困るわ。さすがに赤ん坊を育てる自信はない。もうおじいさんには森から出て行っても」
ガタッと音がして扉があき、卵を入れた籠を手に、おじいさんが戻って来た。
サラサラのブロンドの前髪が揺れ、初めて会った時以上に、碧眼の瞳が澄んで見える。
「今日も沢山、卵を産んでいましたよ」
「そ、そうですか。それは……良かったです」
今の会話を聞かれたのではと、ヒヤヒヤしてしまう。
ヒヤヒヤする必要は……ないのでは?
だってこの後。
朝食を食べたら、その話をするつもりだったのだし。
「サラ、煙が。パンです、パンが焦げています!」
「!」
おじいさんの言葉に慌てて竈を見る。
こーゆう時、魔法を使えばいいのに。
前世で人間だったからか。
咄嗟にフライパンを火から下ろそうと、手を伸ばしてしまう。
「火傷します!」
おじさんは私の肩を掴み、自分の胸に抱き寄せた。
左手でタオルを掴むと、フライパンの持ち手を握り締める。
そしてそのまま水場まで移動してくれた。
水場に置かれたフライパンに、ホークがすかさず水をかける。
ジューッと音が聞こえ、焦げ臭い匂いと蒸気が充満する。
「窓を開けないと!」というココの声に、我に返る。
慌てて魔法で窓を開けると、風魔法を使い、煙と匂いを外へ流す。
前世のフライパンと違い、持ち手は鉄が剥き出しだった。フライパンを掴む時は、ミトンは必須。
というか。
抱き寄せられたその胸の中が逞し過ぎて、ドキドキが止まらない。
前世でもこの世界でも。
男性からこんな風にされたことはない!
「ふうーっ、あぶなかったですね」
ハッとしておじいさんの手を見る。
タオルで掴んでいたが、おじいさんこそ火傷していないか心配だった。
「ごめんなさい。魔法を使えばよかったのに。手、大丈夫ですか!?」
そう言って両手で触れたおじいさんの手は……。
おじいさんだった頃と全然違う。
なんて綺麗な手をしているのだろう。
武器を扱うのに、指は細く長く、爪も綺麗な桜色。
形も桜貝みたいだ。
初めておじいさんがここに来た時。
割れている爪もあった。
今はもう別人だ。
うん。本当に。
おじいさんから、今はお兄さん、なのだから!
「僕はどこもケガをしていませんよ。でも心配してくださり、ありがとうございます」
そう言うと、おじいさん……お兄さんが碧眼の瞳を細め、実に素敵な笑顔になる。
が、顔面偏差値が高い人だ……!
見ていると挙動不審になりそうだった。
「そ、そうですか! で、では、卵、焼きます!」
「そうしましょう。僕も手伝って 、あ、卵……」
「大丈夫ですよ~。私がキャッチしておきました!」
咄嗟に私に駆け寄った際、卵を入れた籠を手放していたおじいさん。でもココが見事キャッチしていたのだ!
こうしてみんなで朝食の用意を再開。
今度こそ失敗せずに、目玉焼きもパンも焼くことができた。
「サラ、全部運べたわよ~」
「ありがとう、ココ。おじいさんもホークも、食べましょう」
こうして「いただきます!」と声を揃え、朝食を食べ始めた。
この朝食が終わったら、例の件をおじいさんに話さないと!
お読みいただき、ありがとうございます!
次回は「第9話:おじいさんは何者?」です。
ついにおじいさんの正体が判明する……!
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