86話:何かがありそう
森が続き、その先は雪原。
木もないような平地があり、その先に北の魔女ターニャの居城がある。
「罠がありそうですね」
ホークの報告を聞くと、ランスがすぐにそう口にした。
マークが即答する。
「確実にあるでしょう。通常は、堀や城壁を作りますが、それが難しいのであれば、土塁や石垣ぐらいは設けるかと。城自体は左右を谷に囲まれ、正面以外からの攻撃は受けにくい。地の利を生かしているものの、そこで城壁があれば完璧でしょうに。それがないとなると、罠を仕掛けている可能性が大です」
するとランスはこう分析をする。
「つまり正面突破で攻撃をすれば、左右や後方からまさに囲まれ、一斉攻撃されるということですね。とはいえ、それは大軍を率いて攻撃する場合。僕たちは少人数で行動しているので、隠密で行動できれば、城に入り込める気がします。サラはどう思いますか?」
「私は戦術や戦闘に疎いのですが、魔法を使える立場から考えると……。罠というより、先程のように侵入を検知し、魔法で迎え撃つように思えますね。よって城壁も何も関係ないと思っている気がします」
「「なるほど」」
ランスとマークが声を揃える。そしてホークは私に尋ねる。
「それにまずはターニャが引いた一線を超えるところからだよな。どうするつもりだ、サラ?」
「私がさっき使った魔法は、ターニャに検知されていると思うの。よってターニャから一線を超えたこの場所に出てきてくれると、楽なのだけど……。そうでなければ強行突破ね。火矢の攻撃は私の魔法で防ぎ、一線を超えてしまうしかないわ」
「その方法しかなさそうですね。そうなるとまずは一線を超える。でも超えた後もまた、罠というより、また侵入を検知した攻撃が待っていそうです。そうなると同じ事の繰り返しでしょうか? 強行突破、サラの魔法で攻撃を防ぐことの繰り返し」
ランスが言う通りだろう。
そうなる可能性が高いと思った。
ただこの場合、一度進行を開始すると、待ったなしになる。
かつ脱落者がいても、前進が優先されると思うのだ。
このことを話すと、ランスもマークも考え込む。
いざとなった場合。
転移魔法で一気にターニャの城まで移動すればいいと、私は考えていた。だが転移魔法で転移できるのは、二人と使い魔一体。つまりランス、私、鷹の姿になったホークで定員だ。
この考えを私から言うべき考えていると、マークが口を開いた。
「サラ様は以前、転移魔法では二人と使い魔一体なら移動できるとおっしゃっていました。実際、それで自分は転移を経験しました。つまりいざとなれば殿下とサラ様、ホークは移動ができます。それを考えると、我々騎士団がお供するのは、第一線のみがよいかと」
ハッとした表情でランスとホークがマークを見る。
「サラ様が言うような脱落者、出したくはないですが、騎士団には人数が相応にいますから。ゼロとは言えません。脱落者は出てしまうと思います。そして見捨てて進むことは……自分たちは平和な時代で騎士をしています。戦火に身を置いた経験がない。ゆえにきっと置いていくことはできないと思うのです」
その気持ちはよく分かる。
私だってそんなこと、できない。
だからこそ、ランスのことだって。
森で何度も助けることになった。
「まずは第一線を突破、そこは火矢が降り注ぐ。それはサラ様の魔法で防いでいただき、第二線を殿下たちが突破した後に現れた敵は、自分たちが請け負いましょう。彼らの目が自分たち騎士団に向いている間に次の段階を突破するか、転移魔法での移動を考えてください。転移魔法は魔力の消費も多いとお聞きしています。よって使いどころはサラ様がよくお分かりかとは思いますが……」
「マーク団長、提案ありがとうございます。サラ、君はどう思いますか?」
ランスは私がいろいろと素人だと分かっているのに、ちゃんと意見を聞いてくれた。
そのことが嬉しく、くすぐったい気分になりながら、答えることになる。
「こんな提案をいただけると思っていませんでした。むしろこの場所で待機いただくのが一番かと思っていたのですが……。ご指摘の通り、転移魔法は距離に応じて魔力を消費する大技です。城に到着してゴールではなく、そこから戦いがスタートなので、魔力消費を抑えられることは大きいです」
つまりこの提案を私はウエルカムということ。それは今の答えでランスもマークも分かってくれた。
「ではマーク団長のプランで行きましょう。サラ、騎士のみんなに魔法アイテムを渡してはどうですか?」
「それがいいと思います!」
こうして方針が決まり、マークから騎士団のみんなに方針が伝えられた。皆、この方針に異議を唱えることはなかった。それは団長であるマークを信頼しているから、その決断を信じたから。そしてこの決断が最善だと王太子であるランスが支持していると分かっているからだろう。
「ではこれからこの後の戦闘で役立つかもしれない魔法アイテムを皆さんに配ります!」
私の声を合図に、ランス、ホーク、マークが魔法アイテムを騎士達に配りながら、その使い方を説明する。私はマークと一緒に動き、レクチャーを行った。マークに渡したスカイ・フェイザーのように難易度が高いものはない。みんな、すぐに理解し、準備は整った。
「では準備はいいですか。第一線を目指し、突破します」
ランスが私を見た。
私は頷き、皆で一斉に移動を開始した。
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次回は「第87話:第一線を突破、そして――」です。
突破して、その次に待つ者は……?





















































