84話:遂にあれが完成しました!
ランスと一緒に眠るとホークとは違い、全身がぽかぽかだった。
湯たんぽというか、ランスは電気毛布みたい!
何より目覚めた時、「サラ」とあの笑顔を見ることができるのは……。
とても幸せ!
寝起きから甘々でした。
しかしその後は真剣!
だって今日は村を出て、峡谷の中へ入っていくから。
今日はまだ馬で進める。
でも明日の午後辺りでそれもお終い。
そこからは徒歩で進むことになる。
そして朝食の後、ランスが言っていた毛皮のマントが届けられた!
マントの内側がランスと同じで、毛皮になっている。しかも真っ白!
襟と袖にふわふわの白いファーも飾られており、とても愛らしい。
しかも襟元はリボンで結わくようになっており、ファーのボンボンが付いているのだ!
このボンボンはランスが特別に頼み、私のためにつけてくれたもの。
ランスのセンスは最高だった!
ちなみに外側の革は、光沢のあるシルバーグレー。
そしてその下に着ているのは乗馬服だが、スカートではない。
特別にズボンだ。
プラム色のジャケットにアイリス色のズボン、そしてグレーの革製のロングブーツを合わせている。
「サラ、昨晩は寒かっただろう? 俺がいなくて眠れたか?」
馬に乗る準備を進めていると、ホークが後ろから抱き着いてきた。
急にホークを異性として意識しそうになるが。
確かにホークは異性だが、私の家族でもあるのだ。
突然態度を変えると、寂しく思うはず。
さらに家族として大切に思う気持ちは変わらない。
だから……。
「昨晩はランス殿下が来て朝まで私のこと、温めてくれたの。もうぽかぽかで熟睡できたわ!」
明るくそう言うと「えーっ、そうなのか。でも殿下も鍛えているからな。ああ見えて意外と筋肉があるんだよ。じいさんの時はガリガリだったのにさー」と応じる。
「でもこれから馬に乗るだろう? 俺のこと」「ホーク」
その名を呼び、自然にホークの腕をほどき、そして向き合う。
「ホークが“湯たんぽ”として、この旅の道中、私を温めてくれたこと、感謝しているわ。とっても温かったから! でもね、私、気づいたの」
ホークは「何が?」と首を傾げた。
さすがに私の顔も赤くなっているだろう。
でも伝えないと!
「レヴィンウッド公爵令嬢みたいに、グラマラスではないわ、私は。でもね、一応、ほら、バストはあるのよ」
そう言って、マントの上から手で指し示す。
「でもホークを湯たんぽにすると……。その、ほら、なけなしの胸に、ね」
「あ……」
ホークの顔が瞬時に赤くなる。
これは完全に意識していなかったのだろう。
それはそうだ。
口では「俺がサラの旦那役をやるー」とか言っているが、ホークは私を間違いなく女性とは見ていない。雛の頃から一緒に育った家族という感覚だ。それが今の指摘で……。
「サラ、俺、とんでもないことに気付いたかも。……殿下に消される」
「うん? ホーク、どうしましたか?」
ランスがシルバーグレーの毛皮のマントに、厚手のウールの乗馬服姿で現れた。
「あー、殿下! わざとじゃないんだ! サラは俺にとって家族。やましい気持ちはない。今後、ゆたんぽの役目は殿下に譲る。安心してくれ、俺は殿下にとって義理の兄みたいなものだ。いや、義理の父親。そう、だから……馬に乗ろう」
そう言うとホークはくるりと回れ右をして、毛皮の黒のコートを揺らして歩き出す。あったか装備になっても、ホークの装いはやはり黒一色。そしてそれは奇しくもマーク団長ら騎士団とお揃い。ホークも見た目は黒騎士様だ。
「どうやらホークは自覚できたようですね。これで僕の憂いが一つ晴れました」
ご機嫌のランスはそう言うと、私のマントのフードを頭に被せてくれる。
「もう出発しますから」
「殿下、ちょっと待ってください」
そう言うと馬に装備したカバンからマフラーを取り出す。
銀河のような毛糸で手編みをして作ったマフラー。
隙間時間を見つけ編み続け、実は昨日完成していた。
今日から峡谷に入ることが分かっていたので、まさにこのタイミングで渡すつもりでいたのだ。
「殿下のマントの襟にはファーがないので、これで首元を温めてください。大判なので、そのまま顔の半分を覆うこともできます」
「サラ……! 遂に編み終わったのですね。魔法の特訓もあり、僕と過ごす時間もあり、忙しかったはずなのに。いつの間に編んでいたのですか!?」
それには秘密がある。
前世は派遣社員として働きながら、祖母の介護も行っていた。そうなると隙間時間でいろいろとする必要がある。そしてその隙間時間を見つけるのが、何を隠そう私は得意だった! なにせレンチン(電子レンジでチンする)している1分の間でさえ、何かできないかと考えていたのだから。
「ちょっとした隙間時間ですよ。ただ、殿下の呪いが解けた日、夕方まで眠っていましたよね。あの時に、ほぼほぼ完成まで編めていました。後は本当に短い時間で、仕上げまで行った感じです」
「嬉しいです、サラ。頑張ってくれてありがとうございます」
そう言うとランスは私をふわりと抱きしめ、頬にキスをして、そのまま耳元で甘くささやく。「愛情たっぷりのそのマフラー、つけてくれますか?」と。
「も、勿論です、殿下! 少し前傾姿勢になってください!」
こうして銀河のような色合いのマフラーをその首につけると……。
似合っている!
サラサラのブロンドとその碧眼にも。
マントと白の乗馬服にも合っていた。
「サラのおかげで心身ともにぽかぽかしました。ありがとうございます」
ランスが輝くような笑顔となり、出発となった。
お読みいただき、ありがとうございます!
次回は……天幕は殿下と一緒です♡