83話:今晩は一緒に……
「サラ、今晩は一緒に休みませんか?」
これにはドキーンとしてしまう。
ランスと私は婚約内定という状態。
この内定が覆ることはないと思う。
でもまだ正式に婚約をしていない。
まだ正式に婚約をしていないのに、一緒に休む=一線を越える……え、いいんですか!?
王侯貴族の婚姻は乙女の純潔を重視しているはずでは!?
なんだか以前もこんなことでパニックになった記憶が……。
そ、それになぜ今日なのかしら!?
明日には村を出て、遂に峡谷に足を踏み入れるから?
待って、そうではなく、えーと、えーと、えーと……。
「サラ」
「ひゃい!」
「今晩は僕を“ゆたんぽ”にしてください。ホークではなく」
「あっ……」
なるほど、なるほど。
そういうことですか!
何かとホークのことを湯たんぽ代わりにしてきたけれど、ランスはずっと……嫉妬していたのね!
思い出すと確かに「なぜホークを……」と嘆いていた気がする。
ううん、気がするではないわ。
嘆いていた!
でも。
王太子であるランスを“湯たんぽ”にしていいのかしら?
確かにランスは鍛えているので、ホーク程ではなくても筋肉がしっかりついている。よって体温も私より高いと思う。実際、ランスの胸の中にいると居心地がよく、ぽかぽかするわけで……。最高の湯たんぽだと思う。
だがそうは言っても……。
「サラ。廊下は寒いから、中へ入れてもらってもいいですか?」
「ハッ! ランス殿下、ごめんなさい。どうぞ入ってください」
ソファの方へ案内しようとすると、ランスはひょいといとも簡単に私を抱き上げる。
「もうベッドへ行きましょう。冷えますから」
「え、あ、はい、そうです……ね?」
「『ね?』。どうしましたか、サラ」
白の寝間着に濃紺の厚手のガウンを着たランスにしっかり掴まりながら、王太子であるランスをホークの代わりにしていいのかと尋ねると……。
「サラ。僕は君の夫になる身です。いくらでも僕を活用してください! むしろ、いくら家族でも、“ゆたんぽ”の役割はホークに任せることはできません。僕にしてください!」
私のことをベッドにおろしながら、ランスは力強く告げる。
これには思わず、尋ねてしまう。
「ですがランス殿下。ベッドでは確かにおっしゃる通り、湯たんぽは殿下で決定です。ただ、騎乗になると……。ホークはあのサイズですし、自らしっかり捉まってくれるので、丁度いいんですよね。本当に温かいですし……」
私はベッドに既に足を乗せ、上半身を起こして座っている。
一方のランスは、足がまだ床の方にある状態で、ベッドに腰を下ろした。
そして左手を伸ばし、私の頬を優しく包むと……。
「サラ。確かにホークは温かいのでしょうね。ですが実はマークに頼み、サラのための毛皮のローブを用意させています。明日から峡谷に入る際は、それを着用できるので、とても温かいですよ。僕のマントと同じで、内側が毛皮になっていますから」
「そうなのですね! それは嬉しいです。……殿下とお揃いなのが!」
「サラ……」
ランスは遂にベッドに乗ると、ぽすっと私を仰向けに優しく押し倒す。
そして掛布団をちゃんとかけてくれた上で、私の隣に横になる。
さらにそのままぎゅっと私を抱きしめると……。
「もっと早くに用意すればよかったですね。でもなかなか色やデザインがサラに合わなくて。ただ、厳選したので、サラも気に入ると思います」
「ありがとうございます、ランス殿下。とても嬉しいです」
「ではホークの“ゆたんぽ”は、もうなしですね」
え、もしかしてこの先ずっとダメなのかしら?
即答しない私に、ランスはこんなことを告げた。
「サラ。ホークは使い魔であり、サラの家族であると認めます。認めますが、ホークは成人男性の人型になれますよね? よってホークは僕からすると、使い魔ではあっても、僕と同じ男性の印象が強いです。そのホークが鷹の姿でサラに抱きしめられている……。その姿を見ると落ち着きません」
「え、そうなのですか? 丸くなった猫みたいで、可愛いですよ?」
顔を上げ、ランスを見て思わずそう口にすると。
「猫……。例えホークが猫や犬の姿であっても、ぎゅっと抱きしめたら……。その、サラの胸に、ホークの顔が……」
ランスは私から視線を逸らし、その陶器のような肌を、珊瑚色にぽわっと染めた。
その姿を見て、私はじわじわ理解する。
そうだ、そうです、そうでしたよ、ランス!
ホークは……そう、鷹の姿をしていても、男性だった。
お互い、人の姿でぎゅっとする時、さりげなくお互いの胸が触れないよう、少し距離をとっていた。それはお互い無自覚ながらも、これまでもずっとそうだった。本当に幼い頃をのぞいて。
でもホークが鷹の姿の時は……!
完全にそこ、意識していなかった。
そりゃあ、メリハリボディのレヴィンウッド公爵令嬢に比べたら、私の胸なんてたいしたものでは……。
ううん、ここはサイズは関係ないわ。
ともかくランスに指摘されるまで、そこに気づいていなかった自分が恥ずかしい……!
「サラ、分かってくれたようですね」
「はい……。今後は絶対に気を付けます」
「うん。そうしてくれると嬉しいです。……では今日も魔力をもらってもいいですか?」
「はい……」
鷹の姿のホークを抱きしめていた件について、もう少しモヤモヤするかと思ったのに。
ランスとのキスが始まると……。
すべて吹き飛びました!
ランスのキスは最強だった!
お読みいただき、ありがとうございます!
次回は「第84話:遂にあれが完成しました!」です。
あれといえば、あれですよ、あれ~~~
ニンニクの丸ごと一個の素揚げ……ではないですよー!
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