82話:それからの三日間
ランスの呪いが解けて三日目。
遂に北の谷に一番近い村に到着した。
移動と宿泊を繰り返した三日間で、ランスと私とホークは魔法の特訓をしている。でもそれはランスとの約束で、戦闘系の魔法の特訓三割、防御&サポートの魔法が七割だ。
やはりランスとしては、私を守りたい気持ちが強い。その一方で、いざという時に私が自分自身の魔法で身を守る必要性も、理解してくれていた。その結果が七対三の配分だった。
こうしていろいろ試して分かったことがある。
魔法より精霊から授けられたギフトで使える風と雪の力が、最強だということ。
魔法でも風を使えるが、それはドライヤー代わりや重いものを浮かべるなど、本当にちょっとしたこと。でもギフトで使える風を操る力は、竜巻や嵐さえ起こせるのだ。
雪の力だってそう。
雪を降らせるだけではなく、吹雪を起こすこともできた。風と雪の力を組み合わせれば、雪を雹に変え、竜巻の中で荒れ狂うようにでもできる。
勿論、これが精霊の力であることは、ランスにすら話していない。よってすべて魔法だと思っているランスは何度も「魔法はすごいですね、サラ」と驚嘆している。
確かに風と雪の力は最強。
とはいえ、精霊の力は影響を与える範囲も広かった。
使いどころを間違えると、周囲に被害も出かねないのだ。
何より、辿り着いた村は、村というより街に近い。
決して街に被害を出すわけにはいかないので、そこだけが要注意だった。
そう、村と言われているが、そこは街と言っても遜色がないくらいに発展していた。
なぜこんなにも栄えているのか?
それにはちゃんと理由があった。
ここは最北の村であり、北の谷には北の魔女ターニャが住んでいる。だがその峡谷の向こう側には、かつての敵国ワンカーラ帝国があるのだ。
ただ、ワンカーラ帝国と国境を巡り、争っていたのは、半世紀前のこと。
今ではワンカーラ帝国の国力が落ち、他国に侵攻する元気はない。
それでもかつての敵国がある場所。
今も最北部防衛騎士団が設置され、一万の騎士が駐屯し続けている。ゆえに村とは言うが、一万の騎士の胃袋となる飲食店、娯楽施設があり、そこで働く人々も多く暮らしていた。そして町宿ではなく、ホテルもあった。
「最北部には初めて来ましたが、ここまで充実しているとは。驚きました。いい勉強です」
ティータイム時間に村に到着すると、ランスは村の様子を観察し、感嘆している。マークも「最北なんて言うから、どれだけ寂れているかと思ったら。これなら最北部防衛騎士団に所属するのも悪くない」と騎士団の仲間と笑いながら話している。
一方のホークは「最北というが、思うほど寒くないな。雪もあまり残っていないし」と言うがまさにその通り。きちんと雪かきも頑張っているのだろう。解け残った雪が土にまみれ、塊となってあちこちにある……みたいなこともない。子供たちが作った大きな雪だるまを、見かけるくらいだった。そして気温も、そこまで寒く感じない。
だが、これは甘かった。
この地の凍てつく寒さは、夜にあったのだ!
昼間は太陽もあり、寒さはそこまでではない。
だが夜になると、渓谷から凍てつく北風が吹き下ろしてくるのだ。
ゆえにこの村では、日没前に飲食店に入ると、そのまま朝まで飲むのが当たり前。
二階を宿として提供している飲食店も多い。娼館も泊まりが基本だった。
ということを知るのは夕食の席。
でも食堂は暖炉が二か所に設置され、かなり温かく、その話を聞いても「へえ……」くらいだった。だが! 部屋に戻ると実感する。暖炉一つでは寒いと。
ならばと入浴して体を温めるが、時間が経つと寒さが身に染みる。
かくなる上は、湯たんぽホークを出動させるかと思案していると……。
「サラ、入ってもいいですか?」
「ランス殿下!」
今日はこの寒さなので、魔法の特訓はできない。
これまでは夕食後、星空を眺めながら特訓をしていたが、今日はお休み。
つまり普段より、ランスと長い時間過ごせる!
そう。
この三日間。
特訓を頑張り、入浴を終えると、ランスと一時間程、一緒に過ごしていた。
呪いの魔力が結晶化したルビーのような塊。あの魔力を相殺するため、ランスに魔力を補給する必要があった。補給は必要だったが、その方法がキスなのだ。そうなるとそのためのキス……で始まるが、次第にそうではないキスになってくる。
つまり甘い甘い恋人同士の時間になるのだけど……。
ランスはいつも余裕たっぷりに見えるのに「今日はここ迄です、サラ。僕の理性が崩壊しないように」と、いつもちゃんとセーブしていた。そしてベッドで横になり、私を抱きしめながら、魔法についていろいろ質問をする。
ココやホークは私に魔法の詳細を尋ねることはない。よって魔法についていろいろ話すのはランスが初めて。目を輝かせ、私の話を聞いてくれるランスを見ていると、なんだかくすぐったい気分になる。
自分の大切にしていることに、興味を持ってもらえること程、嬉しいことはない。
ということで今日はいつもより長い時間、ランスと過ごせると胸を高鳴らせていると……。
「サラ、今晩は一緒に休みませんか?」
お読みいただき、ありがとうございます!
次回は「第83話:今晩は一緒に……」です。
ドキドキドキ(*´艸`)