78話:ちょ、ちょっと待って!それは誤解よ
「実はさっき、ホークとマーク団長がいない時に、ランスと私は……お互いの愛を強く確認しあったの。それで呪いが解けたのだと思うの」
「え、キスで呪いが解けたのか!? ……まさかこれまで、一度もキスをしていなかったのか……? それは……殿下、可哀想だな」
ホークが信じられないという顔をしている!
ちょ、ちょっと待って! ホーク!
「ニューイヤーを迎えた瞬間に、キスぐらいしていると思ったよ。殿下も『年明けの瞬間、サラに正式なプロポーズをするから、二人きりにさせてください』とマーク団長と俺に拝んで頼んだのに。指輪だってもらったんだろう? キスの一つぐらいしてやればよかったのに」
そう言ってホークが、ランスのくれた婚約指輪をチラリと見た。
指輪は昨日からちゃんと指につけている。
というか、そうか。
どうりであの夜、ホークが絡んで来ないと思ったら……。
ランスはきっちり根回しをしていたのね。
そこは流石だわ。
ではなく!
「ホーク! 私はそこまでドライではないわ。ちゃんと殿下とは花火が打ち上がった瞬間にキスをしたわよ!」
「!? じゃあ、なんでその時に呪いは解けず、今なんだよ?」
「知らないわよ~!」
ホークは首を傾げ、私は顔を赤くしている。
だって。
私は理解できている。
カウントダウンの花火が打ち上がった瞬間にしたキス。
それ以前にもしていたランスとのキス。
そのキスは全部、ライトキスだ。
でもさっきは違う。
長く、深い、初めてのキス。
そう、だから……言わなくても分かりますよね!?
さらに。
魔女とその伴侶が結ばれると、長命になる。
つまり心身ともに結ばれた時、魔力が含まれる魔女の体液に、伴侶は触れることになる。そのことで伴侶は長命になるわけだ。
今回ランスと深いキスをすることで、ランスは私の魔力を得た。そしてその魔力がランスの体内にあったターニャの呪いを異物として捉え、排除したのでは?
でもそれだけではないだろう。
ここはターニャに聞いていないから、推測。
呪いを解く条件として、ターニャは真実の愛と定めた。
その真実の愛の定義が、お互いの体液の交換……だったのでは?
つまり心身共に結ばれた=真実の愛というわけ。
魔女の体液は特殊だから、心身共に結ばれたわけではないが、深いキスにより、それに等しいと判断された。
私の魔力の異物=呪いを排除しようとする動き、ターニャの真実の愛の定義が合致した結果。ランスにかけられた老化の呪いは解け、魔力の塊として排出された。
でもこれは完全に。
私もそうだがターニャも想定外だったと思う。
ランスがまさか自分とは別の魔女と相思相愛となり、真実の愛を結実させるとは考えていないだろう。呪いをかけられたのだ、ランスは、魔女から。魔女に対する嫌悪感はあれど、好きになるなんて思わないだろう。
それに。ターニャだって私と同じ魔女。人間の男性と魔女の相性がすこぶる悪いことは、知っていると思う。ターニャのように、自ら好きになるのは別として。魔女は人間の男性から求婚されても「長命目的でしょう」と真実の愛には至りにくい。
ましてやその結果、他の魔女の魔力により、呪いがその体から排出されることになろうとは思わないだろう。
本来、魔女の呪いは、かけた本人が解くか、死ぬか、かけられた者が死ぬ以外、解決方法がない。
ランスが魔女と相思相愛になり、ターニャの定める解呪条件を満たす。かつ体内に入り込んだ魔力が、他の魔女の魔力を異物認定して排出させるなんて。イレギュラー中のイレギュラーなこと。
私だってビックリだが、これが正解だと思う。
奇しくも戦わずして、ターニャの呪いは解けてしまった!
「ともかくランス殿下の呪いは解けたと思うわ」
「本当に? ターニャを倒していないのに?」
ホークは首を傾げる。
「まあ、確認をすればいいわ」
「確認? どんな風に?」
「それは試すしかないわね。殿下が目覚めたら試してみましょう」
そこでホークは私が持ったままの、ルビーのような正二十面体の塊に目をやる。直接触れると電撃を受けたような衝撃があるので、ハンカチに載せているのだけど……。
「ルビーみたいに見えるけど、これの正体はターニャの魔力がこもった呪い。私たち魔力を持つ者は、触れることができない。できなくはないけれど、ビリッとくるから」
「俺も試してみてもいいか?」
「ビリッとくるわよ」
それでも興味が勝ったようで、触れたホークは……。
叫びそうになったと分かったので、私は口を押える。
ランスが寝ているのだから!
我慢した結果、ホークは鷹の姿になり、悶絶する。
「だから触らない方がよかったのに」
「な、何事も経験なんだよぉ。……これ、どーすんのさ」
鷹の姿のホークが、涙目で尋ねる。
「そうねぇ。普通の人間が触れたら、これ、呪いがこもった魔力だから……。触れた人間が呪われてしまうわ。魔力持ちの私やホークだと、呪われることはないけど、触れるとビリッときちゃう。かといってこれ自体、魔力なだけに破壊もできないし……。まさに無用の長物ね。使い物にならない。どこかに埋めようかしら?」
そこでホークはこんな疑問を提起する。
「殿下は? 殿下がこれに触れたら、再び呪われたりするのか?」
「それはないわ。ランス殿下は……だから、その、殿下は私と結婚するでしょう? 魔女の伴侶なのよ。魔女の伴侶になると長命になるだけじゃない。体内に微量ながら魔力を宿すことになるでしょう。人間なのに微量な魔力持ちになる。呪いが入り込もうとすると、拒絶反応が出ると思うわ」
「なるほどな。じゃあ殿下はもう二度と呪いにかかる心配はないんだな?」
ホークのこの問いの答えは「ノー」だ。
「直接呪いをかけられると、それは一瞬の出来事で抵抗できないと思うわ。でもこの魔力の塊は、直接呪いをかけるのと違い、じわじわ浸透する感じだから……。よって抵抗が可能で、排除できる。よってランス殿下ならこれを持っていても、呪いにかかることはない……と、思うわ」
「そっか」とホークが言い、これで会話は終わると思った。だがホークは頭が回る。
「殿下とサラが婚約しているのは分かっているよ。でもさ、まだ結婚していないのに、なんで殿下は魔力を有しているんだ?」
鋭すぎるホークに困ってしまう。
だからといってランスとのキスの詳細を語るなんて無理!
「ホーク、細かいことは気にしないでいいわ。それより、ランス殿下はポーションの効果もあるから、夕方までは起きない。一旦、外にでましょう!」
お読みいただき、ありがとうございます!
ホークの問いかけにたじたじ~
次回は「第79話:目覚めの時」です。