77話:助けたいの。お願い
ルビーのように輝く正二十面体の塊。
これのせいでランスは血を吐くことになった。
おそらく内臓が傷ついているというより、正二十面体の頂点により傷ができたのだと思う。
「ホーク、私はいいから、回復のポーションを用意して。見て、今、ランスが運ばれているでしょう。救護室があると思うの。そこへポーションを持って行って。私もすぐに救護室へ向かうから」
「オッケー、任せとけ。……サラは大丈夫か!?」
「気絶でもしたいところだけど、それよりもランスを助けたいの。お願い」
「さすがサラだ。気丈だな」
ホークはウィンクすると、すぐに馬小屋へ向かってくれる。
そこに荷物の預かり所があるのだ。
一方の私は、落ちているルビーのように輝く正二十面体の塊を拾おうとするが――。
「!?」
雷に打たれたような衝撃を受ける。
「な、何……!?」
仕方ないので風魔法を詠唱し、地面から浮かび上がらせ、その正二十面体をよく見ると……。
「これは……」
ルビーなどの宝石ではない。これは魔力の塊。
魔女や魔法使いなら、体内から魔力を塊のようにして取り出すことは、できなくはない。そうやって魔法アイテムを作る者もいる。でもランスは魔法使いではない。それなのに魔力の塊を……?
どうして?
いや、これは、そうか!
分かったわ!
私はルビーのような魔力の塊をハンカチに包み込み、ポケットにしまうと、ランスの所へ急いで向かった。
◇
「サラ、ポーションを持ってきた!」
「ありがとう、ホーク!」
ランスは救護室のベッドに寝かされていた。
口の周りの血は看護婦さんが拭ってくれていたが、純白の乗馬服についた血は落とせない。私はそっと呪文を詠唱し、その血を綺麗にしてしまう。
ランスにポーションを飲ませようとするが……。
意識のない人間に水を飲ませるのは至難の業だ。
何より、口の端から零れ落ちてしまう。
それが水なら仕方ないが、ポーションでは困る。
ポーションは簡単に量産できるものではないし、手元に材料がない。
森の中の家にいるなら、材料は揃っているが、ここでは素材集めから始めなければならないのだ。よってポーションの無駄遣いはできない。
そこで。
ランスと婚約しているからこそできる方法で、ポーションを飲ませることになる。
「ランス殿下、今から私がポーションを飲ませます。ちゃんと飲んでくださいね」
まずは自分の口に含み、そしてランスにゆっくり飲ませる。くれぐれも気道に入り、窒息するようなことがないように、最善の注意を払う。
「できた!」
魔法で起こしていた上体を横に戻し、掛布団をかける。
「サラ、大丈夫か?」
ベッドの周りにカーテンを引いており、今はぐるりと閉じた状態だ。
そのカーテン越しにホークが声をかけてくれた。
「ええ、終わったわ」
シャーッとカーテンを開けると、そこには真剣な表情のホークと、心配顔のマークがいる。
「ポーションは即効性の高いものを使いましたが、今日は大事をとって、ここで一泊できればと思います。宿の手配はできますか?」
「それは任せてください。すぐに手配します」
マークがすぐに救護室を出て行き、私はホークに尋ねる。
「ここの医者や看護師にはなんて話したの?」
「ああ、そんなの単純。彼はとある高貴な身分の方だから、万が一に備え、回復のポーションの用意がある。だからそれを飲ませると言ったら、納得で退出してくれたよ。他に病人や怪我人もいないから」
医者や看護師と言えど、ポーションの効果について認めざるを得ない。
ポーションがあるとなれば、その使用を認めていた。
「ちなみに医者の見立ては、どんな感じだったのかしら?」
「とりあえず口の中を確認しただけでも、傷が沢山あった。医者曰く、『イガグリのイガでも口に入れたのですか?』って言っていたよ」
やはり。
そこで私はポケットから、ハンカチに包んだルビーのような正二十面体の塊を取り出し、ホークに見せる。
「見ての通り、魔力の塊よ。これをランスが吐き出したの。こんなのが口の中にあれば、傷もできるわよね」
「それはそうだ。喉や内臓は大丈夫かな?」
「例え内臓に傷があっても、ポーションを飲んだから、そこは大丈夫よ」
これを聞いて安堵する様子のホークを見て、微笑ましい気持ちになる。
なんだかんだで、いまだにホークとランスは火花を散らすことがあるが、お互い嫌っているわけではない。こんな風にランスが突然倒れれば、ホークは心底心配してくれる。
「それでサラ、ポーションを飲んだから、その魔力の塊でできた傷は回復するとして。なんで魔法使いでもない殿下の体から、魔力の塊が出てくるんだ?」
「これは、魔力は魔力でも、ただの魔力ではないの。呪いの正体よ」
「呪いの正体って、え、あの殿下を老化に追いやる、北の魔女ターニャの呪い!?」
その通りなので私は頷く。
「ターニャは『老人姿のお前に対しても、心から尽くす女がいるならば。さらにはその女と手を取り合い、真実の愛を以てして私を倒すならば、その呪いは解けるだろう。だが無理だろうけどね。そんな女、見つかるはずがない』と言っていたわよね。実はさっき、ホークとマーク団長がいない時に、ランスと私は……お互いの愛を強く確認しあったの。それで呪いが解けたのだと思うの」
お読みいただき、ありがとうございます!
呪いが解けた……?
次回は「第78話:ちょ、ちょっと待って!それは誤解よ」です。
【新作】人気シリーズ最新作登場
『 断罪終了後に悪役令嬢だったと気付きました!詰んだ後から始まる大逆転』
https://ncode.syosetu.com/n7805jo/
断罪終了後シリーズ第六弾が遂に始動!
まるでジェットコースターに乗ってしまったかのように、怒涛の展開で物語が進んで行きます!
しかも、まさかの推しを●●し、強引にある場所へ連れ込んで……。
果たして詰んだ悪役令嬢は、ここからどうやって逆転していくのか!?
ぜひ最後までお楽しみください!
ページ下部に目次ページへ遷移するバナーを設置済みです☆彡
よかったら本作もよろしくお願いいたします!
【お知らせ】章ごとに読み切り!
第七章スタート:併読の読者様、お待たせいたしました~
『転生したらモブだった!
異世界で恋愛相談カフェを始めました』
https://ncode.syosetu.com/n2871it/
新章は喜怒哀楽全ての感情を揺さぶる物語になっています。
ただの転生ものではなく、乙女ゲームのモブとして転生していた私が
ついにゲームの世界の呪縛と向き合い、乗り越える。
そしてその先に待つのは●●ルート!
その道中、恋のお悩み相談もちゃんと行っています。
ということで第七章、完結まで執筆済です。
最後まで物語をお楽しみくださいませ~
ページ下部にバナー設置済みです!