76話:魔法を使えますよ
間違いなく、私に甘えることができると思っていたのに。
私が魔法の練習をしたいと伝えたので、ランスはしゅんと分かりやすく元気をなくしている。さすがに老化は起こしていないけど。
「魔法の練習。魔法も練習が必要なのですね」
「私の魔法は、生活に役立つようなものばかりで、戦闘向きではないのです。ですから」「サラ!」
ランスが焦った様子で私の両肩を自身の手で掴む。
「戦闘のための魔法なんて、必要ないです! 生活に役立つ魔法。それで十分です」
「ですが北の魔女ターニャを倒すためには」
「サラは僕をサポートしてください。僕が、ターニャと戦います。サラは僕の剣を魔法で強化してくれたり、防御となる盾を展開してくれたり、そういった手助けをしてください」
そう言うとランスは私をぎゅっと抱きしめる。
「サラにもしもがあったら、僕は生きていけません。本当はターニャの近くにも連れて行きたくないくらいなんです」
「でも殿下は私に助太刀を依頼しましたよね!?」
「それはサラにそばにいて欲しかったからです。僕がサラのそばを離れたくなくて……。結果的に相思相愛となり、サラと共にターニャを倒すことになりました。でも前線に立つのは僕だけでいいです。サラは自身を守ることを第一に考え、僕の」「嫌です!」
思いっきり否定すると、ランスは困り顔で私を見る。
「ランス殿下は、私に何かあったら生きていけないと言いましたが、それは私だって同じです! 私だって殿下に何かあったら、もうこの世界にいる意味がなくなります!」
「サラ……」
「それに相手は魔女で、魔法を使えるんです。でも殿下は使えません。勿論、サポートをします。防御だって頑張りますよ。でもいざという時、私も戦えた方がいいと思うのです。戦闘向けの魔法を使えることは、殿下を守るだけではなく、自分自身も守ることになると思います」
ランスは泣きそうな顔で再び私を抱きしめる。
「僕が……僕も魔法を使えたらサラを守れるのに。どうして僕は魔法を使えないでしょうか」
「ランス殿下は魔法を使えますよ」
「え……」
ランスの背に腕を回し、ぎゅっと彼に抱き着く。
「殿下に会えなかったら、私はホークとココとずっと、ずっと、ずーっと長い月日をあの森で過ごしていたと思います。森の外で何が起きても、知らんぷりで。でも殿下に出会い、私は森を出ることになりました。人間なんて嫌い、魔女を利用しようとしている。そう思いましたが、そんなことはありませんでした」
「サラ……」と私の名を呼ぶランスの声が、心なしか震えていた。
感動していることが伝わって来る。
「レヴィンウッド公爵令嬢には驚かされましたが、彼女だって根っからの悪人ではないですよね」
この一言にランスは「そうですね」と笑顔になる。
「殿下が私に魔法をかけ、森の外へ連れ出してくれたのです。殿下の言葉で私は、人間も魔女と変わらない存在だと思えるようになりました。何よりも殿下が、私に恋をすることを教えてくれました。愛の魔法をかけてくれたじゃないですか!」
「ありがとうございます、サラ。僕は君に出会えて本当に良かったです。愛しています。心から」
もうそれは自然な流れで、ランスと私はキスをしている。
今、この瞬間。
世界はランスと私の二人きり――そう思えていた。
前世で大好きだったアニメ映画のプリンスとプリンセスのように。
真実の愛を見つけ、悪い魔女を倒しに行く。
過酷な戦いを前に、愛を誓いあう二人。
そんな気分だった。
長く、深い、初めてのキスを終え、ランスと見つめ合った時。
視線を感じる。
「!」
森へ向かったマークとホーク以外の、騎士達がみんなぽーっとした表情でこちらを見ていたのだ! そして口々に「恋人欲しい」「結婚したい」「嫁さんに会いたい」と呟いている。
これにはランスと顔を見合わせ笑ってしまう。
幸せでいっぱいだった。
だが――。
「げほっ」
突然、ランスが咳き込んだ。
「ランス殿下、大丈夫ですか?」
ランスは手で口を押えたが、その指の隙間から血が流れている。
「どうしたのですか、殿下!?」
がくっと両膝を折るようにして、ランスは座り込む。
心臓が止まりそうになり、騎士達も一斉に駆け寄る。
その間もランスは咳を続け、そして――。
口の中から何かがカラン、コロンと転がり出た。
同時にランスの体は、左側を下に向け倒れる。
私より先に騎士達がランスの体を支え、そのまま担ぎ上げると「誰かー、医者はいないか!」「どこか体を休める場所はないか!」と叫ぶ。
私は目の前が真っ暗になり、地面に残る鮮血に意識が飛びそうになる。
「サラ、一体何があった!?」
「ホーク!」
崩れ落ちそうになる体をホークに支えられ、そこで思い出す。
ランスが何かを吐き出していた。
あれは何!?
目を凝らし、見つける。
ルビーのような、赤黒く輝く正二十面体の塊が、地面に転がっていた。
大きさはビー玉ぐらい。
これのせいで傷ができ、血を吐いたのでは!?
お読みいただき、ありがとうございます!
幸せの絶頂からの急転直下、殿下はどうなる!?
次回「第77話:助けたいの。お願い」です。
【お知らせ】完結:一気読みできます~!
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~辺境伯のお父様は娘が心配です~』
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なろう表紙を飾った本作をぜひお楽しみいただけると幸いです☆彡