74話:朝まで一緒に。
――「サラ、今日はもうそばを離れたくありません。朝まで一緒にいたいです」
ランスのこの言葉を聞いた時。
ど、どういう意味ですか!と大パニックだった。
いろいろ想像してしまい、王族は乙女の純潔を重視していませんでしたか!?と汗をかくことになったけれど。
すやすや健やかに眠るランス。
サラサラのブロンドは少し乱れ、きりっと眉毛が見えている。
閉じられた瞼と長い睫毛。
頬と唇は淡い珊瑚色。
高い鼻といい、シャープな顎のラインといい、見事に整っている!
私を腕枕して、抱き寄せて横になったはずなのに。
今はランスが私に鼻を摺り寄せるにしている。
その姿はただ一言。
可愛い!
甘えて眠っている子犬みたいで、たまらない!
頭をなでなでしたくなるが、起こしてしまいそうなので我慢する。
「朝まで一緒にいたいです」と言われてパニックになり、「一緒のベッドで休みたいです」と請われ鼻血が出そうになり、「ただ一緒に眠りたいだけです」と耳元で甘々な声でささやかれ、さらに耳たぶや首にキスをされると……。
もはやまとまな思考などできず、気づけば順番に入浴を終え、ホテルで用意されている寝間着に着替え、二人でベッド!
でも本当にランスは私を抱きしめ、額にキスをしただけで眠ってしまった。
年齢十八歳。お年頃だと思う。
それなのに大好きな私を前にして天使のような寝顔でいることに、最初は危機感を覚えた。
もしかすると、レヴィンウッド公爵令嬢のようなメリハリボディではないので、そんな気持ちにならないのかしら!?と。
でも“そんな考えをしてはダメだ、私”と、自分自身に言い聞かせた。
ランスは誠実で真面目。
そして王族の婚姻では、乙女の純潔が求められていると思う。
だからきっと我慢してくれているのだと。
そう考えることで、ざわざわする気持ちも収まり、私も熟睡できた。
こうして自然にカーテンから漏れ差し込む陽射しで私は目が覚め、ランスの寝姿を鑑賞していたわけだ。
朝から眼福だわ……。
ぴくっと瞼が痙攣したと思ったら、すっと長い睫毛が動き、静謐な碧い瞳が私を見た。すぐにとろけるような笑顔になると、ランスは「サラ」と私の名を呼び、抱き寄せる。
「おはようございます、サラ。ゆっくり休むことはできましたか?」
「おはようございます、殿下。ぐっすり眠ることが出来ました。殿下も素敵な夢を見られましたか?」
「サラのおかげで熟睡出来て、夢は見なかったです。でも今が夢のようですよ。目覚めたらサラがいて、こうやって抱きしめることができているのですから」
そこでランスは上半身を起こすと、サイドテーブルのカラフの水をグラスに注いで渡してくれた。
朝一番で飲む水は、なんだかとても美味しく感じる。
冷蔵庫に入れているわけではないのに、よく冷えているのは、外の気温が相当低いからだろう。でもランスと一緒に寝ていたことで、ぽかぽかだった。
ランスはサイドテーブルに懐中時計を置いていたようで、時間を確認すると。
「サラ、朝食は七時からです。着替えは魔法で時短できますか?」
「はい。殿下の着替えもできますよ」
「そうですね。僕はサラに何度も服を脱がされましたが……。着せる方も、勿論できますよね」
そう言ってランスはくすくす笑うが、あれは介護の一環だったのだ!
もうドキッとするような冗談を言うのだから、ランスは!
「では着替えは魔法を使っていただくということで、少し甘えてもいいですか?」
ふわりと抱きしめた上で、そんな風に尋ねられ、「ダメです!」と答えられるわけがない。
それに昨晩、あっさり額へのキスだけで眠ってしまったので、物足りない気分もあった。よってその胸に顔を寄せてから、少し顔を上げ……。
「!」
まさにバードキス。
唇がほんの一瞬触れるようなキスではあるが、キスに変わりはない!
ということで新年早々、私からキスをしてしまった。
「サラ……」
ランスの瞳がうるうる状態になっている。
「……あまりにも一瞬過ぎます。あれでは……サラを感じる時間がありませんでした」
拗ねるような、甘えるような声で言われ、「えええっ」となるが、ならば!と頑張ってしまう。
つまりもう一度、私からキスをしてみたのだけど。
多分、さっきよりは3秒ぐらい長いキスができたと思う!
「サラ、これは……何かを試されているのでしょうか?」
さらに瞳をうるうるされ、ランスが「足りないです」という顔で私を見る。
そうよね。4秒は短い……のかもしれない。ならば目指せ10秒かしら?
ということでもう一度!
確かにこれまでと違い、ランスの唇をはっきり感じることができる。
温かく、薔薇の花びらのような触れ心地。
しっとりして、吸い付くようで、離れがたい……。
「!」
ぽすっと私は仰向けにされ、ランスが私を覗き込んだと思ったら……。
「サラ、もう焦らさないでください……!」
我慢の限界になってしまったランスのキスの雨が降ってくる。
新年早々、こんなに甘くていいのかしら!?
でもそれこそ本当に。
嵐の前の静けさだった。
~第三章「すれちがい編」完 ・To be continued……~
お読みいただき、ありがとうございます!
甘々タイムは終わり、北の谷へ!
次回は四章「第75話:決戦の地を目指し」です。
来週から新章スタートとなります。
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