73話:真実と希望
「サラ……。ありがとうございます。君の優しさに負けないぐらい、君を愛します」
そこでいきなり爆音が聞こえ、花火が打ち上がり、新年を迎えたと分かった。
でもその花火を見る前に、ランスと私はキスをしている。
甘く、温かく、穏やかなキス。
幸せで心が満たされる。
「ハッピーニューイヤー、サラ。花火も見ないとですね」
「ハッピーニューイヤー、ランス殿下!」
そこで窓から外を見て、夜空に輝く打ち上げ花火を目にした。
明るく黄色の花火がしゅるしゅると、クラッカーから飛び出したように、夜空を踊っている。
遠くで聞こえる喧噪や鐘の音、軽快なメロディも聞こえてきた。
「座りましょうか」「はい」
ソファに座っても、一面天井がガラスなので、花火は余裕で見ることができる。
ランスがグラスにクランベリージュースをいれてくれたので、それで乾杯をした。
「サラ」
「はい」
「改めてですが、プロポーズをさせていただきます」
「!」
ランスはその場で片膝を床につき、跪いた。
「エヴァレット王国、王太子のランス・エドワード・エヴァレットは、サラ、君を妻に迎えるため、ここに求婚します。僕の婚約者になってください」
そこでランスがテールコートの胸ポケットから取り出した小箱を開けた。
それは指輪。
ピンクゴールドのリングを飾るのはパライバトルマリン!
「殿下、これは……」
「そう、いつぞやかに渡しそびれた指輪です。聞いたところ、結婚指輪としても、婚約指輪としても使えるとのこと。本当は一度撃沈しているので、新たに作り直すことも考えたのですが……」
これに関しては申し訳ないことをしたと思い謝罪すると「大丈夫ですよ。今日でその出来事も払拭されますから」と優しく微笑む。
「何よりもパライバトルマリンの石言葉は『真実』そして『希望』です。僕の真実の愛と、サラとの将来への希望を託すには、やはり思い出もあるこの宝石しかないと思いました。受け取っていただけますか」
「勿論です! この指輪を受け取り、そしては私も殿下を生涯愛すると誓います」
「ありがとうございます、サラ」
ランスはこの瞬間、激甘な表情になり、私の指に指輪をつけてくれた。
ランタンの淡い明かりだけなのに、パライバトルマリンは星のように輝く。
「綺麗ですね……」
「はい。サラはとても美しいです」
うっとりと私を見つめた後、ランスは指輪をつけた右手にキスをした。
パライバトルマリンの美しさを褒めたのに!
私を絶賛してくれるなんて……!
頬が緩むのが止まらない。
そこで私は思い出す。
「殿下、私も贈り物を用意しているんです」
「うん。知っています。マーケットにわざわざ買いに行ってくれたのでしょう?」
「そうなのです! ……でもここにはなくて。部屋にあるのです」
するとランスは「ではサラの部屋にプレゼントを受け取りに行きましょう」と提案してくれる。でもまだ花火は打ち上がっているし、用意してもらったフルーツもスイーツも手をつけていない。
「では花火が終わったら、部屋へ行きましょう」
「はい、そうしましょう!」
こうしてソファに並んで座り、花火を眺め、フルーツとスイーツを楽しんだ。
◇
「ランス殿下、まだですよ、まだ、目を閉じていてくださいね」
「はい。サラの言うことはちゃんと聞くので、安心してください」
打ち上げ花火が終わり、一度パーティー会場にランスと戻ったが、もうホークとマーク団長と騎士たちはその場にいたみんなと大いに盛り上がっている。もはやランスと私がいなくても、問題ない雰囲気だった。そこでそのまま私の部屋に、ランスはやって来ていた。
そしてソファにランスを座らせると、私は寝室に置いていた作りかけのマフラーが入った籠を手に、隣室へ戻った。
ランスの隣に腰掛け、マフラーを取り出し、それを彼の首にかけた。
「殿下、目を開けていただいていいです」
長い睫毛がゆっくり動き、瞼を開けると、そこには透き通るような碧い瞳。
その碧眼はすぐに首に巻かれたマフラーに気が付き、「これは」と笑顔になる。
愛する人が笑顔になる瞬間。
いつ見ても幸せな気持ちが込み上げる。
「それは手編みのマフラーで、見ての通り、まだ編み掛けなんです。頑張ったのですが、時間が足りなくて……今はまだ、ここまでしか編めていませんが、北の谷に着くまでには完成させます!」
「編み掛け……つまりこれはサラの手作りなんですね!」
「そうなんです」
ランスはマフラーに優しく触れ、瞳をうるうるさせる。
「サラの手作りの……感無量です! ありがとうございます……!」
本当に泣き出しそうなので、泣かないでとぎゅっと抱きしめる。
「時間が足りなかった……きっと僕のせいですね。僕がつい、甘えてしまい……」
しゅんとうなだれる子犬ランスになってしまうので、「殿下のせいではないです」と思わず頭を撫でてしまう。
「魔法を使えば、とっくに完成しているんです。でも私が手編みにこだわってしまい……」
「嬉しいです。これからはサラが編み物をするのは邪魔しません! 応援しています」
「では一旦外しますね」
外したマフラーを籠に戻すと、ランスが私を後ろからぎゅっと抱きしめる。
「僕のために一生懸命編んでくれたのだと思うと、愛しさが募ります」
「完成品を渡せたら良かったのですが……来年は計画的に編みますね」
「来年も手編みの品をいただけるのですか!? とても楽しみです……!」
喜ぶランスは私の耳元に顔を近づけ、甘い声でおねだりをする。
「サラ、今日はもうそばを離れたくありません。朝まで一緒にいたいです」
お読みいただき、ありがとうございます!
ドキドキドキ……(*´艸`)
次回は「74話:朝まで一緒に。」です。