72話:私が守ります!
サンルームに来てと言われたものの。
どこにあるか分からないので、ホールを出て、廊下を歩きながら、案内板を探す。
「あった!」
ホールなど宿泊以外の利用者が多い場所には、ちゃんと案内板が用意されていた。
サンルームの位置を確認し、歩き始める。
パーティーが行われているホールからは結構離れており、途中、暗い廊下を通過することにもなった。本当にこの廊下を進むのであっている?と不安になりつつも――。
ぽわんと明かりが灯っているのが見えてきた。
磨りガラスの窓が、内側からの柔らかい明かりに照らされている。
白のペンキで塗られた扉を開けると――。
そこにはホワイトガーデンが再現されていた!
シルバーリーフを中心に白い花がランタンと共に飾られている。
ホワイトローズ、スイートアリッサム、クレマチス、ノースポール、ビオラ……。
「サラ、待っていました。こちらへ来てください」
シルバーとホワイトで彩られたサンルームにいるランスは、新雪のような色合いのテールコートに、アイスブルーのマントを着ている。もうその組み合わせが完璧過ぎて、絵になる! スマホはないので今すぐ絵師を呼び、この美しい姿をキャンバスに描いて欲しいと思ってしまう。
逸る心を抑え、なんとかゆっくりランスのいるところまで向かった。
ランスのそばにはラタン製のソファとテーブルが用意されており、そこには飲み物とフルーツやスイーツが用意されている。
つまりサンルームはホテルのスタッフに頼み、この時間、特別に使えるようにしてもらったのだと理解できた。
「サラ、ちゃんと来てくれてありがとうございます」
ふわりと私を抱き寄せると、ランスは額へキスをした。
いきなりの甘々な様子に、胸がキュンと高鳴る。
「ここは特等席なんです」
私をその胸から離すと、サンルームの天井近くを見上げた。
サンルームの天井はガラス張りになっている。
「あ、もしかして花火が」
「そうです。あと五分で、ニューイヤーになります。ここから丁度、打ち上げられる花火がよく見えるそうです」
「そうなのですね……! そんなすごい場所を二人だけで利用できるなんて、ビックリです」
するとランスはこんなこと打ち明ける。
「本当はVIPの宿泊客に、サプライズで案内するはずだったのです。でもそこは僕の身分を明かし、利用目的を伝え、そしてきちんと支払いをすることで、独占使用を認めてもらいました」
認めてもらう……。
そんな上からな態度、地方都市のホテルが王族に対し、できるわけがないと思う。
ホテルとしては「無料で貸し出します! いくらでもご利用ください!」だったのでは?
でもランスは誠実だから、ちゃんと利用料を払い、使わせてもらうことにしたのだろう。
きっと打ち上げ花火を二人きりで見たいから。
「夏の終わりにサラと出会い、あっという間に時が流れました。あっという間。そんな風に思えるようになったのはここ最近です。それまではずっと片想いをしていたので、もどかしい時間を過ごしていました。今はいくら一緒にいても時間が足りません。僕は一日中サラと一緒にいたいぐらいです……」
ここに来て「きゅうん」と甘える子犬の顔になるので、思わずその胸に身を寄せてしまう。
「殿下、それは私も同じ気持ちです。北の魔女ターニャを倒して、その後、私は王太子妃教育を受ける必要があると聞きました。できれば殿下の執務室の向かいの部屋で。窓からお互いが頑張る姿が見える部屋で、その教育を受けたと思います。そして休憩になったら、転移魔法でズルして殿下に会いに行きますよ」
「それは夢のようなプランです。ぜひそうしましょう。そういう配置で部屋を用意するよう、伝えおきます」
そこでランスは私をぎゅっと抱きしめ、尋ねる。
「サラ。北の魔女ターニャとの戦いに君を巻き込むことになりました。絶対に倒すと誓っていますが、本当に、いいのですか?」
ランスを見上げ、その澄んだ碧眼を見て、私は答えを口にする。
「むしろ私が絶対に倒すという気持ちです。大好きな殿下に呪いをかけた魔女を、私は許すわけにはいきません。殿下のことは私が守ります。呪いは必ず、解かせます!」
ランスの顔はとろけそうな甘さとなり、碧い瞳がランタンの明かりを受け煌めく。
「サラ……。ありがとうございます。君の優しさに負けないぐらい、君を愛します」
お読みいただき、ありがとうございます!
二人の未来のために、北の魔女を倒す――!
次回は「第73話:真実と希望」です。
忘れられないカウントダウンの瞬間。