67話:束の間の休息
「しかしサラが王子様の嫁になるなんて。でも殿下は分かりやすくサラに好き好きアピールしていたから、こうなることも俺はなんとなく予期できていたよ。でもココの奴は疎いから……。魔女の綿毛の返信で『腰が抜けました!』って連絡来たしな」
「でも最初から気づいていたのはホークだけよ。私自身、殿下への恋心を自覚したのは最近だし……。何より私自身が驚いているのだから!」
ホリデーシーズンに入り、今日はホークと二人で街のマーケットに買い物に来ていた。
私もホークもいつもの装い。人の多いマーケットでオシャレをしたり、高級なものを身に着けたりすると、スリにも遭うので、普段通りが安心安全なのだ。
そんな人が多いマーケットへわざわざ出向いたのには、理由がある!
ニューイヤーを迎える時、家族や恋人同士など親しい者の間でギフトを贈る習慣が、この世界にはあった。そして私はランスやホーク、マークや騎士団のみんなに渡すプレゼントを買うために、マーケットに来ていたのだ。
やはりランスへのプレゼントは、サプライズにしたい。そこで護衛も兼ねたホークと二人でマーケットに来たのだが、そのことをランスに伝えた時は……。
「えっ……。そうですか。そうですよね。うん。仕方ないですよね……」
まさに「きゅうんんん……」と泣きそうな子犬になってしまうので大変だった。
「それで騎士団のみんなの分はもう買っただろう? 俺はブラックオニキスのペンダントを買ってもらったしな。で、肝心の殿下にはどうするんだよ?」
「そうね。迷うのよ……」
マーケットにはホリデーシーズンに使う飾り、ジンジャーブレッドやシュトーレン、手作りのクラフト品など様々な物が売っていた。女性が男性に贈るホリデーシーズンのギフトの定番は、マフラーや手袋が多かった。
そこで私もそういったお店を眺めていたのだけど……。
ピンと来るものがない。
マーク団長たち騎士団のものやホークのギフトはすんなり決まったのに。
ここはサプライズにせず、ランスにも同行してもらい、いくつか気に入った物を教えてもらい、後日買うようにすればよかったかな。
そう思った時。
「これは……!」
手編みのマフラーや手袋、セーターが並ぶ一画に、毛糸が売られていたのだが。
そこにランスの瞳を思わせる碧、白、濃紺、藤色がグラデーションしたような毛糸が売っていたのだ! 私が命名するなら“銀河”という名が相応しい毛糸だった。
「店員さん、この毛糸で男性用のマフラーを作りたいのですが!」
「おや、これに目をつけるとは。いい色合いだよね。マフラーを作るなら5~6玉用意した方がいいけど、在庫はあるかねぇ」
五十代ぐらいのご婦人が木箱を探り「あったよ、お嬢さん!」と毛糸を出してくれる。
「ください!」
「もちろん!」
こうして毛糸を手に入れた私は、ほっこり気分で歩き出す。
「そう言えばサラ、よく冬になると編み物していたよな」
ホークの言う通り、私は前世同様、編み物が得意だった。
市販のセーターが高いということで、自力で編み始めたのをきっかけに、毎年冬になるとワンアイテムずつ編んでいた。前世の私の部屋にはマフラー、帽子、手袋、膝掛け、セーターといろいろあったし、現世でもティーポットカバーまで編んでいた。
何せ冬の森では畑もお休み中で、時間があったから……。
「殿下には手編みのマフラーか。……俺もサラの手編みが」
「ダメよ、ホーク。我がまま言わないで! 今回は極力魔法を使わないで、自力で編むつもりなんだから!」
「え~」
「あ、見て! あのぐるぐるソーセージ、美味しそうよ!」
ぐるぐるソーセージは前世でもお馴染み。
ペロペロキャンディーのように、長いソーセージが渦巻き状になっている。
「! 確かにいい香りがすると思ったら! 良し、昼ご飯にしようぜ、サラ!」
ホークが花より団子の性格で良かった。
かくいう私も断然、団子派です!
こうして買い物の後は、食い倒れをして滞在しているホテルに戻った。
◇
「サラ!」
「!」
「!?」
ホテルに戻り、早速マフラーを編み始めると、ノック同時に私の名を呼ぶランスの声が聞こえ、扉が開けられた。
普段のランスはこんなに性急なことはしない。
留守番となり、私に会いたい気持ちが高まっていたのだろう。
私は編み途中のマフラーと毛糸をすばやく籠に戻すと、座っていたソファの下に隠す。
同時に魔法を詠唱し、ランスの顔をめがけ、ふかふかのクッションを放っていた。
マフラーを編んでいたとバレないために。
このクッションなら当たっても痛くないし、俊敏に動けるランスならギリギリ避けるか、キャッチできるはず!
「サラ、どうしてクッションを投げるのですか!?」
「ええっと、新しい遊びです。クッションが当たると負け。殿下も雪合戦をなさいますよね? それの室内バージョンです」
「どうして急にそんな遊びを……?」
ランスは見事にクッションを避けた上でキャッチしていた。
さすが運動神経がいい!
「負けたら殿下、部屋を出て行っていただきます!」
「えええええっ!」
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次回は「第68話:溺愛タイム」です。
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