66話:彼の優しさ、有能さ
間もなくホリデーシーズンであり、そしてランスはいろいろとやることがあった。
それは一体何か?
「レヴィンウッド公爵令嬢が王都に戻り、そこで彼女は父親にいろいろと聞かれることになります。騎士団を置いて王都に戻るのですから、そのことも含めてね。彼女からは迷惑をこうむりましたが、おかげでサラと心を通わせることもできました。本人は心外でしょうが、彼女が僕とサラとの橋渡しの役目を担ってくれたようなものです。彼女が騎士団を置いてくることになった経緯など含め、僕は書簡にまとめ、父上に、国王に送るつもりです」
ランスは優しい。
なんというか、懐が広く、寛容だった。
それに確かにレヴィンウッド公爵令嬢は、まさに悪役令嬢だったが、どこか憎めないところがある。いろいろ恵まれているはずなのに、どこか不器用なのだ。
「勿論、北の魔女ターニャを倒す算段が立ったことも報告します。ターニャを倒し、呪いを解き、サラを連れ、王都へ戻るとね。だからサラとの婚約を進めたいと書簡には書くつもりです。それに僕はサラのおかげで、呪いは解けていませんが、元の姿を取り戻せているのです。このことも知らせ、大々的に発表します」
急に王宮から姿を消した王太子。
多くの人が心配していることだろう。
その無事を知らせ、元の姿を一時的であろうと取り戻したことを知らせれば、皆、安堵するはずだ。きっと明るい気持ちでニューイヤーを迎えられるだろう。
「廃太子計画を進めるレヴィンウッド公爵や彼に影ながら寄り添う貴族たち。彼らのことも報告し、牽制します。ターニャを倒し、王都に戻ったら、僕の居場所がない……なんてことにはしません」
優しいけれど、しっかりして、有能であることも間違いない。
ランスは膨大な書簡を書き上げ、それを王都へ届けさせた。重要な書類だ。そこは少しずるをして魔法を駆使し、早めに国王に届くようにしている。
書簡を受け取った国王夫妻は驚きだったようだ。でも中身を確認した国王は、迅速に動いてくれた。レヴィンウッド公爵には、自身の娘がランスに協力していることを伝え、私設騎士団を遣わせたことを含め、感謝の意を表明している。こうなると公爵も、娘であるレヴィンウッド公爵令嬢を責めることはない。
さらにランスは無事であり、呪いも一時的に抑えられている。さらに真実の愛を見つけ、婚約話も進んでいる。王太子は万全であるから、これからも忠臣として支えるようにと、レヴィンウッド公爵を国王は牽制したのだ。もはや公爵は、大人しくするしかない。甘い蜜を吸う予定だった貴族たちも、だんまりを決め込んだ。
ちなみに私とランスの婚約。
これはどうなっているのかというと……。
以前ランスが私に話した国王陛下夫妻は、こんな対応をする方々だった。
――「僕はこっそり王宮を抜けて来たので、旅をしていることがバレると、まずは戻って来いとなるでしょう。でも戻ったところで何も変わりません。逆に王太子妃の座を狙う女性と無理やり婚約させられ、愛することを強要されるかもしれないのです。そしてなんとかして北の魔女を倒せと言われる可能性も……」
かなり塩対応をする親に思えた。
でもこれは嘘。
国王陛下夫妻は毒親などではなく、ランスを心から愛していた。
なぜなら夫妻は、王太子妃狙いの女性達を牽制し、ランスにこう言っていたのだ。
――「ランス。王太子であるからと、結婚相手は王侯貴族と思う必要はない。身分を問わず、真実の愛に出会えるなら、その相手と結婚するがいい。国中の女性を集め、舞踏会をしても構わない。そこから運命の相手を見つけることができるかもしれない」
よってランスが私と婚約したいと伝えると、大喜び。
早急に私へ爵位を与える話が進められることになった。
そう、王太子の婚約者に相応しい身分として、私には侯爵位を授けられることが決定した。名目は森で倒れていた王太子を救ったから。そしてそこに「北の魔女ターニャを共に倒したから」も加わる予定だ。
なお、なぜランスは国王陛下夫妻について、嘘をついたのか。
それはランスを想うご両親の話を当時の私に聞かせたら「ならば今すぐ王都へ戻りましょう!」と言い出すと、ランスは分かっていたからだ。しかもランスの想像は正しい! 私は絶対にそう言っていたと思う。だがその時、既にランスは私を好きだった。よって王都に戻り、私以外の女性と恋を育むつもりはない。ゆえについた嘘というわけだ。
「両親を盾にしたのは申し訳ない気持ちでいっぱいです。サラも僕がヒドイ親に育てられたと、心配しませんでしたか?」と聞かれたが、まさにその通り! その時はなんてひどい毒親!と思ってしまったけれど。これも誤解と分かり、今はこんな素敵なランスを育てたご両親に、早く会いたい気持ちでいっぱいだ。
こうして一通りの書簡のやりとりが終わると、数日かけ、少し大きめの街へ移動した。そして年内の移動はここまでだ。ホリデーシーズンに向けた飾りつけでにぎわうこの街で、ランスやホークと共に、ニューイヤーを過ごすことになった。
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次回は「第67話:束の間の休息」です。
甘えたい殿下に私は……。
「負けたら殿下、部屋を出て行っていただきます!」
「えええええっ!」