61話:なんて触れ心地がいい……
天使のように微笑んでいたランスが、ハッとした表情になり、私に尋ねる。
「まさか……今も……誤解されていないか心配です。『真実の愛を育む女性がなかなか見つからないから、身近にいる私で済まそうとしている』――そんな風に考えていませんか!?」
「……違うのですか?」
「違います! 僕はね、サラ。君のそばにいられるなら、呪いはかけられたままでもいいとさえ思えているのです。それは間違った考えかもしれません。ですがそれくらい、打算などなく、君を愛しているのです!」
ランスが私の両手を自身の両手で握りしめ、必死に「君を愛しているのです!」と言っている。
そう。
もう何度も「好き」「愛している」を繰り返し言ってくれている。
「私のことを好きで愛しているのですか?」
「そう。純粋に、サラのことを好きで、愛しているのです」
心臓がドクドクした状態で、私は上目遣いでランスを見て尋ねる。
「私は……どうすればいいのでしょうか?」
「えっ!?」
「サラ、そういう時は殿下と過ごした日々を思い出すんだ! 殿下を見て、ドキドキしたことはなかったか!? 俺はバスタブの中でイチャイチャしていた二人を見た時、恋人同士のように思えたぞ!」
もう、ホークの言葉に、心臓が爆発しそうになる!
でもホークだけではない!
「バスタブでイチャイチャ!? それはもう恋人同士がすることですよ」
ピーターソン医師までそんなことを言うと、ランスが盛大な抗議をした。
「申し訳ないのですが、しばらく二人きりにさせていただけないでしょうか。僕はサラと二人で話したいのです!」
王太子の主張。
ピーターソン医師は「勿論です、殿下」と言い、控えているメイドや騎士に退出を命じる。ホークは「俺はサラの保護者だぞ! 二人きりにしたらバスタブの続きを始めるだろう!」と訳の分からないことを言い出し、結局、ピーターソン医師にずるずると引きずられ、退出した。
「……ようやく二人きりなれました」
そこでランスは不意に甘い笑顔を浮かべる。
「サラ、ここに来てください。並んで話しましょう」
「!? ベッドで横に並んで座るのですか!?」
「そうです。クッションもあるので、もたれることもできるでしょう」
ランスは「当然のことです」という顔をしているが……。
「な、なぜ、ベッドで!? あちらにソファがありますよね!?」
「ソファ……そうですね。でもこのベッドは温かいですよ。それにリラックスできます」
うるうるの瞳でランスが見つめてくる。
恋愛なんて知らないと言っていたのに!
こんな顔ができるのに、恋愛を知らない!?
絶対に嘘だと思います!
結局。
ローブを脱ぎ、ワンピースだけになった私は、ランスとベッドで横並びになっている。
ベッドボードの前にクッションを並べ、そこにもたれて。
こうすると、なんだかコタツに仲良く二人で並んで入っている気分だ。
「僕はサラに告白しましたが、返事をすぐに求めているわけではありません。きっとサラは僕を異性としては見ていなかったでしょう。常にホークみたいな者がいたら、男性を見る目も厳しいと思います」
さりげなくホークを認めているランスに胸が熱くなる。
ホークは私の家族だから、褒められると、自分のことのように嬉しい。
「……北の谷まで来ていただかなくてもいいです。ですがもう少し僕と旅を続けませんか。その旅を通じ、僕を好きになっていただけたら……とても嬉しいです」
今の言葉でいろいろなことを思い出す。
ランスの告白に対する答え云々の前に。
いろいろ知りたい、話したいことがある!
「旅の件の前に。ランス殿下、お聞きしたいことがあります」
「何ですか、サラ。君の問いには全て誠心誠意で応えるつもりですよ」
そう言うとランスは私の手を取り、甲へと「ちゅっ」とキスをする。
いきなりのこの動作に、頭が噴火。
一瞬、自分が何をしようとしていたのか、分からなくなる。
「なんて触れ心地がいいのかしら……?」
「? 何ですか、サラ?」「い、いえ、何でもありません!」
慌てて否定し、脳を秒で再起動し、言葉を紡ぐ。
「レヴィンウッド公爵令嬢と婚約は」「しません」
秒で返された。
「レヴィンウッド公爵令嬢は、確かに婚約者候補の一人です。ですが僕の心は既にサラにあるので、彼女とは婚約しません。サラ以外の女性と結ばれたい気持ちはないです」
キッパリ断言された。
「王太子なのに……将来国王になるのに、結婚しなくてもいいのですか?」
「サラと結婚できないなら、独身で構いません。それに王族の系譜を紐解くと、独身の国王も女王もいましたから、問題ないです」
「そうなのですね……」
聞きたいことが終わってしまった。
違う、違いまーす!
そうではないです。
「レヴィンウッド公爵令嬢と婚約するつもりはないのですよね? でも殿下は朝帰りをされました。この件をレヴィンウッド公爵令嬢は、一晩かけ、殿下を説得したと言っていましたが……。何を説得しようとしたのか、不明です。それに『夜が明ける前に、ね。まだ婚約もする前だから、どうしましょうと思いましたけど』――なんだか男女の一線を越えたかのような発言をさ」「サラ!」
優しくランスに抱き寄せられた。
お読みいただき、ありがとうございます!
溺愛ルートに突入!?
次回は「第62話:私、見たんです」です。