5話:おじいさんは盗人?
夏の終わりにおじいさんを森で拾い、長い残暑が落ち着き、十月が始まる頃。
おじいさんが変化してきた。
白髪ぼうぼう、皮膚はかさかさ、痩せ細っていたのに。
なんだか髪に金髪が混じってきたような?
皮膚のかさかさは落ち着いている。
がりがりに痩せていたが、程よく肉がつき始めている。
それは入浴を手伝う時にもはっきり分かった変化だ。
最初はろくに話すこともなかったが、今は短い会話もできてきている。
だがあの森に置き去りにされた経緯や名前などは、語ることがない。
やはり語りたくないのを無理に聞くのはやめよう。
自分がその立場ならそう思うから。
そんな時だった。
線引きしたエリアの外側で、魔法に反応がある。
「ココ、留守番を頼んでもいい? おじいさんの様子を見ていて。今、ロッキングチェアに座って、昼寝をしているから」
「はーい、任せておいて!」
おじいさんは最初の二週間、ベッドで寝ていることが多かった。食事の時はちゃんと起きてくるが、基本、休息。ガリガリだったし、体力も落ちていたからだろう。
でも今は起きている時間の方が長い。
自力で食事ができるのは勿論、体を洗うのも自分でやるようになっていた。
さらに家事も積極的に手伝おうとするが、不慣れなのだろう。薪割りもできないし、洗濯物も干せない。
でも魔法があるし、ココやホークがいるから、それでも構わなかった。
ただ、紅茶をいれるのは得意なようだ。
ちゃんと茶葉を蒸らし、私みたいに適当に淹れるのではなく、砂時計も使い、時間を計っている。
そんなおじいさんが入れてくれた紅茶は……。
美味しい!
安物の茶葉なのに。いつもと違い、渋みも少ないし、普通においしく飲める。しかも蜂蜜やジャムをいれることを提案するなど、意外とお上品なところもあった。
それに夜寝る前は、見回りをしてくれる。
我が家の周りに獣や怪しい者がいないか、点検してくれるのだ。その際はあの剣を腰に帯び、背筋を伸ばすようにして、しかもしっかりとした足取りで歩いている。初めてこの家に来た時は、自力で歩くこともできなかったのだ。この変化は大きい。
そうやって点検をしてくれるが。
獣が出ようが誰かが来ようが、たいがいはどうにかなる。魔法があるし、ココもホークもいるからだ。
それでも。
男手がいるってこういうことなのだろうな、と実感することになった。
そんな感じで少しでも恩返ししようとする姿は、見ていてほっこりする。私にお世話になっていると、自覚しているのだ。感謝の気持ちで行動してくれていると分かるから……。
そんな頑張るおじいさんですが。
お昼ご飯を食べると。
いつも二十分くらい、テラスに置いたロッキングチェアに揺られ、昼寝をする。
これがおじいさんの日課だった。
ひざ掛けに両手を乗せ、気持ちよさそうに目を閉じている姿は、なんだか平和の象徴に思える。
前世で祖母は健在だったが、祖父は早くに亡くなっていた。ある意味、おじいちゃんを知らない私にとって。今、一緒にいるおじいさんが、祖父のように感じられた。
ということでホークを連れ、箒に乗り、上空まで向かう。
その後は一気に線引きエリアを目指す。
「見えてきたな。あれは……騎士だな。サーコートをつけているだろう。それでもって俺様(鷹)と剣の紋章。あれはエヴァレット王国の、直轄の騎士団じゃないか?」
ホークは私が疎い分、そういった情報に明るかった。
「人数も六人。大勢ではないわね。人を探しているのかしら?」
「もしかしてあのじいさんとか?」
ホークは冗談っぽく言ったが。
その可能性はある。
何せその風貌に不似合いな、宝石が鞘や柄に埋め込まれた剣を持っていたのだから。
「もしかしたらあのじいさん、盗人なんじゃないか? 王家の宝物庫から盗んだ剣を手に、この森に逃げてきた、とか」
「えええ、あのおじいさんが!?」
「だって人減らしで老人を森へ置き去りにする時は、情けとしてパンと水袋は一日分持たせるというじゃないか。パンは食べていたとしても、水袋は捨てないはずだ。川があればそこで補給できるから。でもあのじいさん、それすら持っていなかった。それなのに剣だけ後生大事に持っているって、おかしいだろう?」
「そう言われると……」
今、あのおじいさんを騎士の前に連れて行ったら、罪人として捕らえられたりするのかしら?
おじいさんの日々頑張る姿を思い出すと、騎士に捕らえられ、牢屋に入れられるのは……。どうしたって同情してしまう。
何も持っていなかったのだ、あのおじいさんは。
みすぼらしいローブをまとい、所持品は剣だけ。
唯一の持ち物が剣なのだ。
王家の宝物庫には、山のように宝があるのでしょう。剣の一本くらい、許してあげなさいよ。
そんな風に思ってしまう。
「……なあ、サラ。あのじいさん、物を盗むだけじゃなく、盗む過程で人殺しもしているかもしれないんだぞ」
「……!」
それは想定外。
でも初めて会った時に見せた、潤んだ碧眼の瞳。
人を殺すような目には思えなかった。
「冬になる前に。秋の間に森の外へ出て行ってもらうわ。もう体の方はほぼ回復できたと思うから。そこから先、捕まろうが、野垂れ死にしようが、それは知らない。でも森の中にいるうちは、手出しさせないわ」
こんな言い方になるのは、おじいさんが罪人である可能性もあったから。その罪人を庇うことを、ホークに何か言われたらと心配し、こんな突き放すような物言いになっていた。
「まあ、それがいいだろうな。このままずっと一緒に暮らすわけにはいかないだろうから」
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おじいさんの正体は!?
次回は「第6話:この世界の人間の謎」です。
おじいさんと魔女、そして使い魔たちは、これからどうなるのか!?
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