58話:本当に生きているのか!?
「えっ、サラ様が魔じ」
「しーっ。そのことは部下の皆さんには秘密にしておいてください。マーク団長を信じているから打ち明けました」
ハッとした表情のマークは「分かりました」とすぐに頷く。
「これから転移魔法で瞬時に街へ戻りますが、部下には一足先に出発すると話し、皆には休憩をとるように指示を出してください。マーク団長、ホーク、私の三人になったところで、転移魔法で移動します」
「分かりました。辻褄合わせは自分の方でいかようにもできるので、安心してください」
こうしてホークと私は部屋にトランクを取りに戻り、マークは部下に指示を出す。
そしてロビーに集合すると、既にそこに騎士の姿はない。
つまりロビーには人がいない。
この時間、みんな街のワイン祭りに行っており、この町自体が、閑古鳥が鳴いている状態だった。
「ではこの魔方陣の中に入ってください」
鷹の姿になったホークを肩に載せていると、マークは「本当に君があのホーク!?」と目を丸くしている。すると「おうよ。俺様のこの姿、見惚れたか?」と問われ、マークは「!?」と驚愕していた。人間の言葉をしゃべる鷹なんて、初めて見たのだろう。
「では発動させます!」
こうして次の瞬間には。
街へ戻ってきている。
「こちらへ」とマークは私たちを先導して歩き出す。
向かったのは馬車乗り場。
マークは惜しみなく金貨を使い、すぐに馬車一台を調達した。
そしてレヴィンウッド公爵令嬢が滞在するホテルへと向かわせる。
ホークは転移が終わると同時に人の姿に戻っており、「使い魔。なんて便利なんだ。自分も君のようになりたい。自由に空を飛べるなんて……」とマークから尊敬の眼差しを向けられていた。
こうしてホテルに着くと、他の兵や騎士は驚いている。昨晩出発し、まさにトンボ帰りでもしないと、ここへは戻って来られないからだ。でもマークがうまいこと言ってくれたおかげで、あまり詮索されず、レヴィンウッド公爵令嬢の部屋まで案内してもらえた。
「失礼します。主様、サラ様を連れて参りました」
彼女がいる部屋の扉をノックして、マークがそう告げた瞬間。
ものすごい勢いで扉が開けられた。
そして開いた扉から顔をのぞかせたのは……。
レヴィンウッド公爵令嬢?
茶髪の縦ロールは元気がなく、ヘーゼル色の瞳の下には、クマができている。
釣り目のはずなのに、垂れ目に見えるぐらい、勢いがない。
顔色も良くなかった。
ドレスも、目にも鮮やかなマゼンタ色のフリル満点なものではなく、深みのある落ち着いたワイン色。フリルやレースなどの装飾もほとんどなく、宝飾品もブローチしかつけていなかった。
「遅いわよ、あんた。調子に乗っているんじゃないわよ!」
憔悴しきっていると思ったら、いきなり上目線の発言。
しかし。
「殿下が、殿下が、殿下があんな状態なのに!」
そこでボロボロと涙をこぼし、レヴィンウッド公爵令嬢は、大泣きを始めた。
侍女が慌てて駆け寄り、慰めるが、それは逆効果。
レヴィンウッド公爵令嬢は、さらに大声でわんわんと泣いている。
「主様、一刻も早く、殿下の元へサラ様をお連れした方がいいと思います」
マークがなんとか鼓舞すると、泣き続けながらもレヴィンウッド公爵令嬢は「マーク、あんたが案内してあげて!」と叫んだ瞬間。ガクリと倒れそうになり、マークとホークが二人で支えた。
「泣き過ぎて気絶するなんて……。えらく気性の激しい公爵令嬢だ」
結局マークが抱き上げ、ベッドに運ぶことになった。
ホークと私は寝室の手前の隣室で待つことに。
「お嬢様は昨晩から睡眠をとることができず、度々涙をこぼされ……。食事も喉を通らない状態なんです。まるで殿下と同じです」
そう言うと侍女はハンカチで涙を拭う。
「殿下と同じ……。殿下は意識をずっと失った状態なのですか?」
「時々、目を開けるそうですが、すぐにまた閉じてしまい……。昨晩から何も召し上がっていない状態です。かろうじて水だけ、飲ませることはできていますが……」
そんな状況では、ますます衰弱するだけだろう。
元の姿に戻すことができたら、まずは食事を摂ってもらわないと……。
「お待たせしました。今すぐ、ご案内します」
寝室から出てきたマークが歩き出し、その後をホークと二人で足早に追う。
「こちらです」
レヴィンウッド公爵令嬢がいる部屋の、廊下を挟んだ斜め右にある部屋だった。
ノックをすると、すぐに扉から騎士が顔を出し、マークを見ると「団長!」と目が輝く。
「どうぞ、入ってください」
騎士が扉を大きく開け、マークを先頭に、ホークと私が続き、中へ入った。
ここは寝室の手前の部屋だ。
「こちらです」
騎士に促され、すぐに寝室へ通された。
寝室は、葡萄酒を思わせるダークマゼンタ色で、絨毯やカーテン、天蓋付きのベッドが統一されていた。暖炉により部屋は暖かく、窓からは午後の陽射しが届き、明るく感じる。
だが……。
ベッドに寝かされているランスは――。
「おいおい、あれはじいさんというか、ミイラみたいじゃないか。本当に生きているのか!?」
ホークの声に、ベッドのそばにいた白衣の人物が振り返り、指を手に当てた。
「静かに」と言われている分かり、ホークはすぐに口を閉じる。
私は……ランスのあまりにもヒドイ状態に、涙が溢れ、目の前が滲んで見えてしまう。
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次回は「第59話:荒唐無稽な方法を提案したのは」です。
「まずは殿下を回復させようぜ、サラ」
ランス、どうなる!?