49話:俺が温めてやるよ
「サラ、俺の体温で温めてやるよ」
「えっ!?」
「サラ、俺たち鷹はさ、他の動物に比べても、体温が高いって知っていた?」
ホークの体温が高い。
知っていたかと言われると知らなかった。
でも。
「ホークとぎゅっとする時、いつも温かいとは思っていたわ」
「そうだろう。鷹の体温は40度から42度ある!」
「! それ、人間だったら危険信号よ」
私の言葉にホークは楽しそうに笑う。
「俺たちは空を飛ぶから、筋肉が発達しているし、その筋肉を維持しなきゃならない。代謝をよくする必要もある。よって体温が高めなんだよ。鷹なだけに」
「くだらないことを!」
「大真面目に話しているよ。ともかく飲み物がきたら、俺の膝に乗せてやるから、ぎゅっとしばらく俺に抱き着いていろ」
なるほど。そういう風に温めてくれるのね。
あ、でも、それなら……。
「ホーク、鷹の姿に戻って。そうしたら湯たんぽみたいに、ぎゅっと抱きしめられる」
「ゆたんぽってなんだよ!? それに鷹の姿かよ……。しゃーねーなー」
そこで先程のバトラーが戻ってきて、ホットミルクココアを出してくれる。
御礼を言い、早速ホークと飲むと。
「うわあ、スイーツ食べているみたいに甘いぞ」
「そうね。でもなんだかホッとするわ」
ホットミルクココアを飲み終えると、ホークは希望通りで鷹の姿になってくれる。
そのホークを抱きしめると……。
「あったかいわ、ホーク。あなた、最高よ!」
「ふん。俺様はいつだってナンバー1だからな!」
ホットミルクココアも飲んだおかげで、気分も落ち着いていた。
そしてホークはあの庭園で何をしていたのかと私に尋ねる。
そこで私は自分が体験したままを話すことになった。
「なんだよ、性悪公爵令嬢め! 俺はアイツ、嫌いだからな!」
ホークが暴れそうになるので宥める。
「それにあのじいさん、そんな性悪公爵令嬢に骨抜きにされたのか!? 信じられないな!」
そこでホークは猛禽類らしい金色の瞳を私に向ける。
「約束通り、じいさんの毛は、全部俺の嘴でむしり取る」
「やめて、ホーク」
「でもヒドイだろう!」
その背中を撫で、私は淡々と告げる。
「レヴィンウッド公爵令嬢は、性格にやや難ありだけど、それ以外は揃っているでしょう。家柄もいいし、お金持ちだし、グラマラスだし。しかも兵と騎士を引き連れているのよ。魔法使いまで。それにランス殿下をずっと探して、最終的に見つけ出したのよ。その粘り強さと行動力は、賞賛に値するわ」
するとホークは鷹の姿なのに、明らかに納得いかないという顔になった。
「家柄とか身分なんて関係ないだろう。人としてあの性格は致命的だ。それなのにそれ以外の条件がいいからって、性悪公爵令嬢をじいさんは受け入れるなんて……。人として許せない!」
「まあ、落ち着いて、ホーク」
「嫌だ。というか、このまま旅を続ける必要はないよな?」
ホークの金色の瞳がじっと私を見た。
その目は「帰ろう、森へ、サラ」と訴えているように思えた。
一緒に旅を続ける必要はないだろう。
もし老化が起きても、レヴィンウッド公爵令嬢が抱きしめれば済む話だ。
「……帰ろうか、ホーク。森へ。ココも待っているわよね」
ホークはコクリと頷き目を閉じ、私の胸にもたれる。
「大丈夫だよ。サラ。森へ戻ればまたいつも通りさ」
「そうね」
心臓がドキドキしていた。
「帰る」と口にしたことで、実現に向け、動き出すしかない。
その事実に武者震いしていた。
ホークには私の心音が伝わったようだ。
「サラ。顔を合わせたら、決意が揺らぎそうで怖いんじゃないか?」
「それは……」
一理ある。ランスがあの碧眼を潤ませ「サラ、そんなことを言わず、一緒に来てください」と言ったら……。思わず「分かりました」と答えてしまいそうだった。
「裏切り者のじいさんに義理立てする必要はないさ。置手紙を残して旅立てばいい。ひとまず近くの町まで転移して、そこで一泊すればいいよ」
「え、ランスと顔を合わせないで出発するの?」
「森に戻ったら二度と会うことはないだろう、じいさんとは」
そうかもしれない。
でもここまで一緒に旅をして来たのに……。
「サラの決意が固いなら顔を合わせて言えばいいよ。でもあのじいさん、サラが森へ帰るって言ったら、泣いてとめそうだ。例え性悪公爵令嬢と魔法使いがいても、サラが必要だと言い出しそう」
「どうしてとめる必要があるの? 魔法使いがいるなら、魔女はいらないわ。レヴィンウッド公爵令嬢がいれば、老化を起こしても抱きしめてもらえばいいじゃない、彼女に」
「……まあな。そうだと思う。うん。なんだろうな。うーん。じいさん、大丈夫かな。打算で選んでいないよな」
ホークはなんだか考え込み、私の質問に答えていないが、ランスが私を引き留める理由は思いつかなかった。ここまで付き合わせたのだから、最後まで同行させ、褒章をとらせようとか、そういうことを考えているなら……。
褒章なんて、いらなかった。
今はランスのことが、全部忘れたい気持ちになっている。
――「森に戻ったら二度と会うことはないだろう、じいさんとは」
その通りだと思う。
それに。
魔女は長生きするから、もう百年は森から出ない。
人間とは関わりたくない!
「ホーク。決めたわ。帰るわ、今すぐ!」
お読みいただき、ありがとうございます!
次回は「第50話:自由に」です。
このまま殿下とはお別れですか……?
【お知らせ】連載再開☆彡
『婚約破棄を言い放つ令息の母親に転生!
でも安心してください。
軌道修正してハピエンにいたします!』
https://ncode.syosetu.com/n0824jc/
お待たせいたしました!
併読いただいていた読者様、ぜひお楽しみくださいませ。
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