44話:いっそこの姿のまま参加します。。。
エスコートをしたのはランス。
馬車で私の隣の席に座るのは……ホークで落ち着いた。
私の隣に座れたホークは、「えっへん」となんだか鼻高々だ。
こういうところは昔と変わらない。
このホークのどこか子供っぽさを感じさせる言動にほっこりしてしまう。
「よし、よし」と頭を撫でたくなる。
ひとまず言い争いなく、大人しく座り、馬車が出発できたことに満足していると。
「サラ。僕たちは新婚という設定ですから、指輪をつけませんか?」
ランスがテールコートの内ポケットから指輪が入っているらしい小箱を取り出すので「待ってください!」と慌てて止める。
「ランス殿下。舞踏会はホークと私がダンスデビューをする……という目的もありますが、それはあくまで“おまけ”です。一番は別の目的がありますよね?」
私の言葉にランスは「!」という表情になる。
別の目的が何であるか、瞬時に思い出してくれたようだ。
さらにホークも援護射撃してくれる。
「別の目的。それは殿下のお相手探しだろう? 今回、招待状を手配してくれた姉妹は、殿下が既婚者だと思っていないのだろうー? いきなり指輪をつけて登場だとおかしいよな」
「指輪をつける必要があるなら、ホテル内だと思います。舞踏会では不要かと」
私が畳みかけると、ランスはしゅんとして、おずおずと取り出した小箱をしまった。
同時に。
お父さんランスへと老化してしまう。
これは仕方ない。
良かれと用意したものを全否定されたのだ。
凹むだろうし、心を安定した状態でキープできるわけがない。
とはいえ、今、馬車は走行している最中。
席から立つことは推奨されていない。
「殿下、申し訳ないです。馬車から降りる前に抱きしめますから」
「いっそこの姿のまま参加します。。。」
完全に落ち込んでいた。
なんだかこのままおじいさんランスにならないか心配になる。
その一方で、お父さんランスで舞踏会に参加するのは……。
悪くないと思う。
若々しい十八歳のランスは、それは魅力的だ。
フレッシュであるし、きゅんと胸を高鳴らせる令嬢マダムが多いだろう。
でもお父さんランスも悪くないと思う。
ミドルな男性は、それはそれで魅力的だ。
経験を積み、僕がリードしましょうと、ぐいぐい引っ張ってくれそうで、令嬢マダムは胸をドキドキさせるだろう。
ともかくしょんぼりランスに代わり、ホークが舞踏会について話してくれた。
「舞踏会と言えば、ダンスが一番、次に社交。その社交が行われるのが、飲み物を片手に談笑する時だ。それ以外に隣室ではスイーツや軽食が用意されている。マカロンやクッキー、サンドイッチとか。そういった物を少し食べながら会話を楽しむのも、社交の一つなんだって」
そんな正統派な舞踏会についての知識を披露したと思ったら。
「今、この国では仮面舞踏会が禁止されている。それは先代国王の暗殺未遂が仮面舞踏会で起きたからだ。背後から撲殺されそうになった。仮面舞踏会では真剣の所持は禁止されていたけど、木刀の所持は仮装の一環として許されていたから……。これを機にここ、エヴァレット王国では仮面舞踏会は禁止になったんだって!」
こんな「へぇ~」な情報まで教えてくれる。
ホークは情報収集が得意だけど、よくこの短期間でいろいろ調べたわね、と思っていると。
舞踏会の主催者の邸宅に到着した。
ホークが先に降りた後、ランスに一応尋ねる。
「ランス殿下、そのお姿で舞踏会、参加されますか?」と。
すると。
ランスはさっきまでホークが座っていた位置に移動すると、自ら私を抱き寄せた。
それはふわりと優しいもので、私の髪型やメイクが崩れないよう、配慮していると分かった。
優しく抱き寄せられたとしても、ランスの爽やかな香水を感じ、自然と胸が高鳴ってしまう。
「サラ、舞踏会では僕のそばを離れないでください」
こういう甘え声を私にしている場合ではないと思います!
それに社交のために来ているのに。
私がそばにいたら、令嬢は近づきにくいだろう。
「善処します」
私の硬い回答にランスは不服そうだが、その姿はいつもの彼に戻っている。さらにホークが「おーい、サラ、殿下! 降りないのか?」と急かすので、これで終了。
「この舞踏会では殿下とサラは新婚設定ではない。だから俺がサラをエスコートする!」
ここまでは喧嘩はなかったのに、ここに来てホークが爆弾を投下した。
ランスは当然、「いえ、舞踏会慣れしている僕がエスコートします!」と言ってきかない。
二人を仲裁しようと思ったら。
「あ、ランス様!」
声の方を見ると、あのスパで会った姉妹がいる。
姉は金髪の髪に合わせたかのような、明るいカナリア色のドレス。
妹は自身のグリーンの瞳のような、イエローグリーンのドレスを着ている。
結局。
私はホークにエスコートされ、ランスは姉をエスコートしつつ、妹とも並んで歩き出した。
「エントランスでばたついたけど、なんだか緊張してきたわ」
「え、なんで!? ダンスはマスターした。これから旨いスイーツと軽食も楽しめる。緊張する必要、あるか?」
こういう時のホークの楽天思考が羨ましくてならない。
でも確かに言う通りだ。
人生初の舞踏会、と気負うから緊張する。
肩の力を抜いて、気軽に楽しもうと思った方が良さそうだ。
そこで会場となるホールの入口が見えてきた。
お読みいただき、ありがとうございます!
ホークVSランス
読者様はエスコートされるならどっち!?
次回は「第45話:引きこもりには社交が面倒です」。






















































