43話:オシャレは……楽しい!
前世と現世において初となる舞踏会。
自分がダンスを踊れるようになり、舞踏会へ足を運ぶことになるなんて。
想像したことがなかった。
まずは素敵にドレスアップ!
魔女として転生してから、服はアイリス色のワンピースに、プラム色のロングローブばかり。オシャレとは正直、無縁。舞踏会のドレス選びの時さえ、義務感しかなかった。
でもここ最近、毎日ドレスを着て、ダンスの練習をすることで。
その心境に変化もでている。
やはり基本は女子なのだ。
オシャレは……楽しい!
ということで今晩の舞踏会のために、メイドさんの手伝いでドレスへ着替えた。
「まあ、なんて素敵でしょうか! 『冬の湖』がテーマのドレスなんですよね! 透明感のある水色と白のカラーリングが最高です。ウエストのバックリボンはトレーンのように長く、そこに雪の結晶が刺繍されていて……。背中も美人です! それに胸元を飾る繊細なレース! ご自身の肌の色も相まってうっとりしますね」
「それにパライバトルマリンのネックレスとイヤリングも大変お似合いです。旦那様の瞳の色を最大限に意識したコーディネートで、新婚であることがよく伝わりますわ。あ、でもそういえば……奥様も旦那様も指輪をつけないのですね?」
着替えを手伝ってくれたメイドさんは私を絶賛し、そして困らせる。
ランスの碧眼を最大限意識した……つもりはないが、そういう趣旨でブティックの店員は選んでいた気がする。
それに指輪……!
「そういえばこちらの方々は婚約指輪や結婚指輪をつけるものなのかしら?」
メイドさんは珍しい瞳の私のことを異国の女性だから――と思っていてくれる。やはり魔女なんて伝承の存在で、見たことがなければ、自身の人生に絡むことはないと思っているのだろう。それは安心であり、少し寂しくもある。
とはいえ、瞳の色の違いの差別や“魔女だから利用してやろう”がないことで、私はこの街で自由に動けるのは事実。
「庶民では無理ですよ、婚約指輪や結婚指輪も。どちらも王侯貴族の皆さまがつけるものです。……お金に余裕がある平民の方も貴族の皆さまに憧れ、真似することはありますけど」
そうだったのね。でも確かに宝飾品はどれこれも高額で庶民……普段の私を含め、無縁なものだ。
「奥様の国では婚約指輪や結婚指輪の習慣はないですか? ロマンス小説ではプロポーズのシーンで度々指輪が登場するんですよ。素敵な男性が騎士様のように片膝をつき、お相手の令嬢の手を取り、指輪を手に求婚するんです。本当に夢のようで素敵ですよ~」
そういう憧れは前世も現世も共通ね。
まあ、そういう類の指輪とは無縁だと思うけど。
「でもこれだけのものを喜んでご用意くださる旦那様なら、リクエストすればプレゼントしてくださるのでは?」
「そうですよ、パライバトルマリンが埋め込まれた結婚指輪、おねだりしてはいかがですか!?」
メイドさんたちがわいわい盛り上がり始めてしまうので「そ、それもいいかもしれないわ。それより、お化粧と髪を結ってもらえるかしら?」と促すと、「失礼しました!」と慌ただしく動き出す。
こうして姿見に映る私は……。
髪はいわゆる夜会巻き。メイクはナチュラルメイクで、チークもルージュもアイメイクも控えめだ。濃い目のしっかりメイクは娼婦がするものとのこと。
「完璧でございます、奥様!」
「早く旦那様にお見せしたいですね!」
メイドさんは大喜びだが、私だって内心歓喜している。
この世界の下着はない胸も盛ってくれるのですごいと思う。
多少、苦しい……という点は否めない。
ものすご~く寄せて、あげていると思う。
でも自分でもこの体になってから初めてみたわ、この谷間!
ということで準備は完璧に整った。
そこでまさにベストタイミングで扉がノックされる。
「まあ、旦那様では!?」
「ええ、きっとそうですよ!」
メイドさんが扉に向かうと……。
「「まあ!」」
迎えに来てくれたのはランスとホークの二人だ。
ホークは黒檀を思わせる上質な黒のテールコート姿。光沢のある黒のベストに、銀細工で飾られたタイといい、王道の黒スタイルだが、どことなくホークらしさがある。白蝶貝のカフスボタンもさりげなくおしゃれだ。少し長めの黒髪は耳にかけ、その耳たぶには黒曜石のピアスを片耳にだけつけている。いつの間にピアスの穴を開けたのかとビックリしてしまう。
一方のランス。これはもう童話の世界に登場する王子様そのもの。
自身の瞳に合わせたディープスカイブルーのテールコートに合わせたアイスブルーのマント。黄金の宝飾品の数々。何より体にフィットした細身のデザインなので、脚の長さも際立つ。きっと白馬に乗ったら完璧だろう。背景を飾るのは薔薇の花でいい。
何よりも、サラサラのブロンドの前髪が王道王子様でツボです。
「どうしましょう。旦那様も素敵なのですが、護衛の方もワイルドでたまらないですね」
「こうなったら両手でエスコートしていただくといいのでは!?」
メイドさんの二人は興奮を隠しきれない。
「サラ、なんかどこかの国のお姫様みたいじゃん! すごいな。特にそのバス」「ホーク!」
まったく。盛った胸の件について触れるのは、ご法度だ。
「サラ。君のこの姿を見るために、僕はこの世に生まれて来たのだと思いました。涙が出そうになるほど、よく似合っています」
ランスの感情がたっぷり込められたこの言葉に、メイドさんは「「キャー」」と悲鳴を上げ、失神寸前。私もなんとか意識を保つが、頬が緩みそうで仕方ない。
この時ばかりはレヴィンウッド公爵令嬢のことは綺麗さっぱり忘れ、夫役のランスにエスコートされ、部屋を出た。
私は完全に浮かれていたと思う。
まさか舞踏会でとんでもない出来事に遭遇するとは、全く想像できていなかった。
お読みいただき、ありがとうございます!
ディープスカイブルーは明るい空色に対し、深みがある少し濃い目の色です。
次回は「第44話:いっそこの姿のまま参加します。。。」です。
舞踏会に向かう道中で何かが起きる!





















































