39話:様々な可能性
ひとまず夕食をホークと共に食べることにした。
森で暮らしていたが、食べ物で困ることはなかった。
魔法を駆使して畑も耕していたし、森の中の果実や木の実について熟知していた。
でも今日はランスの帰りを待ち、完全に空腹状態だったので、料理が登場すると……。
もうホークと貪るように食べてしまった。
コース料理だったが完食し、食後の紅茶でようやく一息つき、ホークと会話することができた。
「ねえ、ホーク。ランス殿下は誠実な方だと思うの。『夕食には間に合うよう、戻るつもりです』と言っていたのだから、もし帰れないなら、伝言を寄越すと思うのよ」
「それは同感だな。でも伝言はない。となると……」
「何か事件や事故に巻き込まれていたりしないかしら?」
ホークは腕組みをして考え込む。
「殿下は剣を腰につけているよな? 身分証でもあるから、あれは。もし事故だったらあの剣で誰であるかと分かり、大騒ぎになっているはずだ。でもこのレストランで会話している貴族たちは、そんな話題、一切していなかった。よって事故、はないだろうな」
「そうなると事件の可能性は……?」
ランスは単独で動いているので、常に警戒を怠らないようにしていた。だからこそ、レヴィンウッド公爵令嬢の斥候にも気づけたのだ。ゆえに事件に巻き込まれる可能性は限りなく少ない気がしていた。でもゼロではない。
「事件……。どうなんだろう。……よし、サラ。俺は満腹だから、この後、鷹の姿に戻って街の様子を探ってみるよ。殿下が向かったホテルも分かっているし、足取りを探ってみる」
ホークがそう請け負ってくれたことに安堵しつつ、懸念点についても話すことになる。
「ランス殿下はレヴィンウッド公爵令嬢からしつこく言い寄られて、折れた可能性はないかしら?」
ホークは最後の一枚のクッキーを口に入れ、天井のシャンデリアを睨むように眺める。
「それは……ないと思うけどな。殿下に関しては。もし陥落なんかしていたら、俺の嘴で殿下の髪を一本残らず抜こうと思う」
「それはダメよ!」
「冗談だよ。でもさ、殿下も優しいところがあるから、情にほだされて……ということがないとは言い切れないからな」
これには心臓がドクンと反応する。
レヴィンウッド公爵令嬢は、さっきからホークが言う通り、グラマラスだ。あの体で迫られたら……男性なら抗いがたいのでは?
ううん、待って。
この世界は前世と違い、男女の貞操観念はとても厳しかったはずよ。そう簡単に男女の関係にはなれないはず。余計なことは考えない。
何よりも。
もしレヴィンウッド公爵令嬢との間に何かあったとしても、それを選択したのはランスだ。彼がその意志でレヴィンウッド公爵令嬢を選んだのなら、外野である私やホークがとやかく言うことはできない。
もしかするとそうなったら、彼を抱きしめ、老化を戻す役割は、レヴィンウッド公爵令嬢が担うことになるだろう。そうなるとホークと私は北の谷まで同行する必要はなくなる。
「サラ!」
「あ、ごめん」
つい考え込んでしまう。
「心配するなって。じゃあ、ひとまずレストランは出よう。サラは部屋で待っていてよ。あ、別にスイートルームで待っていてもいいぞ」
「ランスが戻ったら邪魔になるから自分の部屋で待つわ。入浴を済ませて」
「そうそう、それが正解。何もせずに待っていると気になるだろうから、何かするといいよ。ダンスの本を読むとかさ」
こういう時のホークは本当に頼もしい。
「ありがとう、ホーク。そうするわ」
こうしてホークと私はレストランを出た。
私は部屋へ、ホークは夜の街へ向け、それぞれ動き出した。
◇
つん、つん。
頬をつんつんするなんてホークしかいない!
体を動かそうとして「首、いた~い!」と叫ぶことになる。
「サラ、ソファに座ったまま寝ているから! 風邪引くぞ」
そう言っている間に、ホークは人の姿に戻っていた。
さらに絨毯の上に落ちてしまった膝掛けをふわりと掛けてくれる。
「ありがとう、ホーク」
これは観光バスで寝た時と同じだ。
白の綿の寝間着に厚手のラベンダー色のガウンを着た私は自分の首に触れる。
首の痛みはしばらく続くだろう。
チラリと置時計を見ると間もなく0時になる。
「ホーク、どうだった?」
私の隣に腰を下ろしたホークは「うーん」と大きく伸びをしながら答える。
「うん……。殿下はさ、王太子という身分なのに護衛もいないだろう?」
「そうね」
「だからいろいろ用心していたよな、何気に」
そうなのだ。
馬車についても、この街に来てから専属契約を結んだ御者を雇い、馬車をレンタルしているのだ。乗合馬車は利用しなかった。悪者が御者になりますし、馬車ごと人を攫う事件も起きているので、その対策だ。
「それでさ、殿下が契約している馬車が、グラマラス公爵令嬢が滞在するホテルの馬車止めスペースにあったんだよ」
「ということは……え、ランス殿下は今も公爵令嬢が滞在するホテルにいるの?」
ホークはコクリと頷く。
「それでさ、人型に戻って、情報収集しようと思ったら……。ラウンジにいたんだよ、殿下とグラマラス公爵令嬢が」
「え……つまりそれは……」
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次回は「第40話:どうして、どうして、とループしている」です。
エンディングイメージ曲は
ポルノグラフィティ『今宵、月が見えずとも』!





















































