38話:……図星だ。なぜ分かるの!?
「なあ、サラ。休憩しようぜ。もうすぐティータイムの時間だろう? 殿下だって今頃、あのグラマラス公爵令嬢と、美味しいスイーツ食っているんだろう? 俺たちもホテルの一階のカフェでお茶しようぜ!」
昼食を終えると、ランスは身支度を整え、そしてホテルを出発していた。
一方のホークと私は、スイートルームのエントランスでダンスの練習をしていたのだが。
ホークは休憩&ティータイムを提案してきた。
「もう、ホーク、まだ一時間も練習をしていないわ。お互い正装に着替えていたでしょう。確かに十五時に近いけれど、練習はまだまだ足りないわよ!」
すると!
ホークは「もーっ」と言って、ピカピカに磨き込まれた大理石の床に、あぐらをついて座り込んだ。
「だってさ、サラ。全然、集中できていないよな? ずっと心ここに在らずだ。一体、何を考えているんだよ!」
うっ、それは……。
「俺、当てることができるぞ。殿下とグラマラス公爵令嬢がどうなっているのか、気になるんだろう?」
……図星だ。
なぜ分かるの!?
「グラマラス公爵令嬢はさ、金持ちだろう、あのボディだろう、でもって見た目より殿下の中身を見るタイプ、で強引とも言えるぐらい積極的。彼女から好かれたら、悪くはないよな? しかも殿下の場合、魔女と対峙しなきゃならないんだ。『あなたのこと愛していますが、一緒に戦うのは無理ですぅ~』なんてタイプでは困ってしまう。その点、あの公爵令嬢なら、『殿下のために戦います!』って剣を手にとりそうだもんな」
ホークの読みは私と一緒だ。
例えレヴィンウッド公爵令嬢の父親が反対していようと、ランスと彼女が真実の愛を育み、北の魔女ターニャに打ち勝てば、それで万事OKだった。
呪いが解けたランスはまごうことなき王太子。
レヴィンウッド公爵も難癖をつけることはできない。
しかも娘とランスが相思相愛であるならば、それこそ手の平を返しそうだ。
ランスを廃太子しようと画策したことなどなかったことにして、娘とランスの結婚を推し進める……。
それがいいことなのか、悪いことなのか。
人間の世界のことであり、政治の話だ。
一介の魔女に過ぎない私が、とやかく言うことではないだろう。
「でもさー、サラ。俺は、殿下は好条件グラマラス公爵令嬢を選ばないと思う」
「どうして?」
「どうしてって……。グラマラス公爵令嬢、話だけ聞くといい奴っぽく思えるけど……。なんか胡散臭いんだよ。殿下へのアピールだってさ、なんか無駄にドラマチックって言うか。それに殿下の心は別のところにあると思うし」
胡散臭い。無駄にドラマチック。
それは私も感じていたことだ。
ホークも感じていたということは……。
思い出すとランス自身も、彼女に思うところがあるようだった。
そうならば、ランスはレヴィンウッド公爵令嬢と真実の愛を育むことはないのでは!?
「ホーク、私も同感よ。ここまで来たからには、ランスには幸せになって欲しい。レヴィンウッド公爵令嬢とは会話もしたことがないし、どんな人物かよく分かっているわけではないわ。だから彼女について断じることはできない。ただ直感で、レヴィンウッド公爵令嬢は違う――と思ってしまったの。つまりこのままランスと彼女がうまくいって大丈夫なのか、心配だったの」
「はは。ようやく本音を話したな、サラ!」
私はコクリと頷く。
「ホークと私が感じているぐらいだもの。ランスだって何かをレヴィンウッド公爵令嬢に対し、感じているはずだわ。そんな簡単に彼女を受け入れることはないと思うの」
「俺も同感。まあ、だからサラがそこまで心配する必要はないさ」
そこでランスは立ち上がり、お尻のごみを払う。
「というわけでだ、サラ! 甘い物、食いに行こうぜ! で、その後は夕食まで練習再開。今度こそ、みっちりやる! これでどうだ」
「いいわ、そうしましょう、ホーク!」
これまでずっともやもやしていたことが、嘘のようにスッキリしていた。
ホークはまるで貴族がそうするみたいに私の手を取り、いわゆるエスコートをして、一階のカフェへ向かう。そこでホールでマロンケーキを注文し、ホークとシェアして食べてしまった!
これだけがっつり糖分を摂取したのだから。
ダンスの練習を頑張らないと!
ということで、スイーツを満喫した後、ホークとダンスはきっちり二時間。
ダンスの練習に取り組んだ。
「サラ! これなら舞踏会へ足を運んでも、ちゃんとダンスできる気がするぞ、俺」
「同感よ。付き添いで行くとはいえ、一曲ぐらいはダンスできないとだし」
「……付き添い、な。ランスにはその舞踏会で、真実の愛を育むことができそうな相手を見つけろって、発破を掛けるつもりか?」
この問いに、私は素直な気持ちでこう答えていた。
「発破を掛けるつもりはないわ。見つかるといいと思うけれど、そこはランス次第だろうし……。それに焦りは禁物だろうから」
「それを聞けて安心だ。案外、殿下、もう見つけているかもしれないぜ?」
「えっ!?」
レヴィンウッド公爵令嬢以外で、そんな接点がある女性がいるのかしら?
でも婚約者候補の一人だったはず。
ということは、候補は複数いるわけで……。
「とりあえず夕食に向け、着替えよう」
「そうね。冬なのに少し汗をかいてしまったわ」
こうして着替えを終えると、私はホークと二人、スイートルームでランスが帰るのを待った。
でも……。
「なあ、サラ。マロンケーキ食ったけど、さすがにお腹空いた。それに一階のレストランは二十三時で閉店だろう? 夕ご飯食べよう」
夕食の時間に帰ってくるとランスは言っていたのに。
その時間になっても、その時間を過ぎても、ランスは……帰ってこなかった。
お読みいただき、ありがとうございます!
帰らない殿下。残されたホークと私。
次回は「第39話:様々な可能性」です。
……彼がその意志で彼女を選んだのなら
外野である私やホークがとやかく言うことはできない……。