33話:なんで断言できるの!?
「え、それで殿下はその二人の女性と、おしゃべりをしているのか?」
私が渡した木製マグのお水を飲みながら、ホークが尋ねる。
「そうよ。今回の旅の目的は、北の魔女ターニャがいる北の谷まで同行すること。でも同時に。ランス殿下には、真実の愛を育める女性と出会ってもらわないと。ターニャを倒すことができないでしょう」
ホークはマグの中の水に視線を向け「それはまあそうだけど……」と呟く。
「……俺、別に殿下のために戦ってもいいけど。サラはどうして嫌なんだ、北の魔女と戦うの」
「! それは……だって同業者だし」
「同業者、ね。でもさ、サラは呪いを人間にかけたりなんかしないだろう? 同業者でも、あっちは悪徳業者だ。遠慮する必要はないと思うけど」
それは……その通りだ。
ターニャとお前も同じ魔女だ!なんて言われたら、心外です!と抗議したくなるだろう。
「殿下はさ、俺に聞くんだよ。ポーションから魔法アイテムまで、それぞれの使い方を。一人でなんとかしようと思っているのかなぁって。なんだか健気でさ。あんな姿みたら……。助けてやりたくなるよな」
「……。……。でも、魔女だからって利用されるのは嫌だもの」
「本当に? 殿下に利用されているって思うの、サラ?」
ランスは……私を利用してやろうなんて魂胆は、全くないだろう。
「今だってさ、老化した殿下を元に戻しているのはサラだろう? 殿下を抱きしめる――それ、命じられているわけではないよな? 自発的だろう。俺、思うけど、サラは絶対、殿下を助太刀すると思う」
「なんでホーク、断言できるの!?」
「断言できるさ。だって子供の頃から俺たちずっと一緒だろう? サラはさ、困っている奴を見ると、放っておけない性格なんだよ。『私、知らないからね、ホーク!』って突き放す。けど、『もう、ホークってば!』と言いながら、最後は手助けしてくれる。だから今回も同じ。助太刀しない!と言っても結局は助けると思う」
使い魔ではあるが、家族でもあるホーク。
十年間、共に育ってきたのだ。
私のことをよく分かっていた。
今のランスを見ていると、真実の愛を育むことができる女性を見つけられるのかというと……。どうだろう。本人が積極的ではないので、見つかるはずが、見つからない気もしていた。
その状態で北の谷に辿り着き、一人北の魔女ターニャに挑もうとするランスを見たら……。懸命に魔法アイテムの使い方を覚え、魔女に立ち向かおうとする彼を見てしまったら……。
助けたくなるだろう。
「それにさ、真実の愛を育むことができる女性。それって探して見つかるものなのかな?」
「え、どいうこと、ホーク?」
空になった木製マグをベンチに置き、尋ねる。
「気づいたらそうなっていたんじゃないの? 恋愛という感情は、意図的に操作はできないだろう?」
「……ホークは恋愛経験があるの?」
まさかと思いながら、ホークに尋ねる。
「あるわけないだろう! でもさ、もしも俺が『よし。俺、今この瞬間から恋愛するから』って宣言して、とにかく女性に声かけまくって上手くいくと思うか?」
「そんなの上手く行くわけがないわ!」
「だったら殿下もそうなんじゃないの? やれ社交場、舞踏会だ、って令嬢と話しまくって、それで運命の相手が見つかるか? 絶対に見つからない、とは言わない。でも見つからない可能性が高いと思う」
それは……その通りに思えた。
「でも、何もしないよりはましでしょう? だって殿下は放っておいたら淡々と旅を続けてしまいそうよ」
「あ、殿下、戻って来たぞ」
ホークから視線をサウナの入口へ向けると、少し疲れた表情のランスがこちらへ向かって歩いてくる。その様子にどう考えてもさっきの二人の女性とは、うまく行ったようには思えない。
「二人とも、待たせてすまなかったです。飲泉エリアへ行きましょう」
「殿下、どうだったんですか? 素敵なお嬢さんとお話していたとか」
ベンチから立ち上がり、並んで歩き出しながらホークがランスに尋ねた。
「ワイン祭りに参加するため、この街へ両親と一緒に来ていたご令嬢と話しました。二人は姉妹で、ホーソン男爵の三女と四女とのこと。年齢は十五歳と十六歳で、可愛らしいお嬢さんでしたよ。……サラ、僕のことを思い、彼女たちに声をかけていただき、ありがとうございます」
「殿下、昼食でも一緒にって、誘わなかったんですか?」
ホークの問いにランスはフッと笑う。
「……そうですね。お二人とも可愛らしくて、妹のようにしか思えず……。それにサウナが終わったら、入浴して、昼食は両親と街で食べると言っていたので」
「つまりちょっと違っていたと。まあ、北の魔女と戦うには若いですよね、十五や十六では」
「年齢はそこまで極端に離れていないので、気にしませんでした。ただ、もっと話したい、一緒にいたい……残念ながらそんな気持ちになれなかっただけです」
ホークがチラリと私を見た。
「ほらな、そう簡単にうまくいかないぞ、サラ」と目が語り掛けている。
「せっかくサラが紹介してくれたのに。……次こそは頑張りますよ」
そう言って笑うランスの笑顔は、限りなく寂し気だった。
お読みいただき、ありがとうございます!
次回は「第34話:飲泉に挑戦!」です。
ランスが笑顔になり、私のお腹も鳴っている。
でもそこに――。
【完結】一気読みできます☆彡
『悪役令嬢です。
ヒロインがチート過ぎて嫌がらせができません!』
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ラストは”絆”を感じ、ほっこりできます。
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