32話:落ち着こう、私。
なぜランスは呪いが解けなくても、なんて言い出したのだろう。
しかも「サラとゆったりした時間を過ごせるなら」と言ったのだ。
それはつまり、さっきの足湯みたいなのんびりした時間を私と過ごせるなら、もう呪いなんて関係ない――ということでは?
現在のところ、百パーセントの確立で、私が抱きしめるとランスの老化は止めることができていた。もし私がランスのそばにいれば、もう老化を恐怖と感じない……ということなのかしら?
「!」
プールみたいな大浴場の湯船に浸かっていたが、午前中であり、かつワイン祭りが行われていることもあり、スパ施設は混雑していなかった。
今いる大浴場にもぽつり、ぽつりと女性がいるぐらいだったが。
五段の階段をとん、とん、と裸足で降りてきた女性は、タオルで前を隠すこともない。
隠す必要もないのだろう。
だって。
茶髪にヘーゼル色の瞳と、顔立ちはこの世界の人間らしいものなのに。
ものすごいメリハリボディなのだ。
胸はボンとして、多分、使い魔のココより大きい。
ウエストは見事にくびれている。
階段を降りる度にぷるんと揺れるヒップの形もいい。
これならタオルで隠す必要は……ないわね。
思わず見惚れてしまうと、ヘーゼル色の瞳でキッと睨まれ、慌てて視線を逸らすことになる。
これは思わず見てしまった私が悪い。
居心地の悪さを感じ、また十分浸かることができていたので、そのまま湯船から出る。
少し早歩きになり、タオルで前を隠しながら、脱衣所へ戻った。
◇
「お、サラ、こっち、こっち!」
サウナと言えば、十名程度が入れるようなものしか、前世で利用したことがなかった。でもここのサウナは広い! 入口のプレートには七十名が利用できると書かれていた。
中に入ると、早速、もわっと熱気と蒸気を感じる。
そして大浴場とは違い、男女混合。
結構、人がいる。
皆、館内着である白のバスローブ姿だ。
ホークとランスはいるだろうかとキョロキョロすると、「お、サラ、こっち、こっち!」とホークに声をかけてもらえたのだ。
そのホークの声の方を見て、ドキッと心臓が反応してしまう。
ランスはいつもサラサラの前髪をおろしているのだけど。
あのバスタブつるつる騒動の時のように、濡れた前髪を後ろへ流していた。
ツーブロック分けされた前髪が、後ろに流れることで、凛とした眉と額が見えている。いつもの甘い感じの印象とは全然違う。ホークのようなどこかワイルド感もあり、見ているとなんだかドキドキしてしまった。
しかもその姿で白のバスローブが似合い過ぎている。
長い足を組み、腰掛けているだけで絵になっていた。
落ち着こう、私。
今、ドキドキしているのは、バスタブつるつる騒動を思い出してしまったからだわ。
なにせあの時、ランスの上半身裸を見て、引き締まった体に、その素肌に触れてしまったから。そもそも男性に対する免疫がないのだ。ホークなんて弟みたいなもので、男性のうちに入らない。それなのにいきなりあのシチュエーション。
しかもお互いの額が近づき、鼻が触れ合い、あと少しで唇が……。
違う! そこ、思い出す必要なし!
真っ直ぐホークとランスのところへ向かおうと思ったが、気持ちを静める必要があると感じた。そこでその場でUターンし、サウナを一度出る。その足で、無料で飲めるお水のコーナーへ向かう。水を木製マグに入れる。トレイを手に、ホークとランスの分の水も用意しようと思ったその時。
「サラ」の甘い声音の呼び掛けに、全身から力が抜けそうになる。
凛々しい姿のランスが、こちらに向かって来ていると思うと、全身が熱くなっていた。
深呼吸をしよう。
「ねえ、見て。あの方、とても素敵ですわね」
「本当~。凛とされているのに、随分甘い眼差しをされているわ」
すぐにピンと来る。
これはランスのことを言っているに違いないと。
「あの、彼、私がお仕えしている方です。とある高貴な身分の方なのですが、お話されてみます?」
こんな風に見知らぬ女性に声をかけることができるなんて。
しかも人間嫌いだったのに!
自分が一番ビックリしている!
「え、いいのですか?」
「ぜひお願いします!」
何も知らないランスは私の所へ来て、そばにいる二人の女性をチラリと見る。
でもすぐに視線を私に戻す。
その碧眼は「サラの知り合い?」と問いかけている。
「ご主人様、こちらのお二人は今、知り合ったばかりなんです。少しご挨拶でもされませんか。こちらのお水をお持ちになって」
手早く残り二つのマグにも水を入れ、トレイごと差し出す。
「……ありがとう、サラ。……そうですね。ではそちらのベンチで」
そこはサウナを出た人がクールダウンできるように設けられたサンルームだった。
私の一言で、ランスはすぐに思い出してくれたようだ。
自身が真実の愛を育む女性を見つけなければならないことを。
そもそもスパに来た目的の一つに、ランスの社交も含まれていたのだ。
でも足湯はホークと三人で楽しみ、入浴は男女別と、社交なんてできていない。
だがランスを気になる女性が現れたのなら、交流しない手はないだろう。
三人がベンチに座るのを確認すると、水を入れた木製マグ二つを手に、私はホークの所へ向かった。
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次回は「第33話:なんで断言できるの!?」です。
「俺、思うけど、サラは絶対――」






















































