31話:そうなったら私……
ダンスの練習をしっかり終えた後。
私はホークが滞在する予定だった部屋で休むことにした。
スイートルームは、部屋は立派だけど、ベッドは一つしかない。
そして尾行者の正体も分かっているのだ。
ソファでは熟睡できない。
それにランスは王太子なのだ。
本来ソファで眠るような立場ではない。
寝室の天蓋付きのベッドできちんと休息をとってもらうことにした。
「鷹の姿で休むなら、スイートルームではなくてもいいだろう? 俺、サラと同じ部屋がいい!」
「ダメです! ホークは僕とスイートルームで休んでください。そうしないと僕が廊下で寝ずの番になります!」
もうこれはいつものこと。
しばらくホークとランスは押し問答。
でも最終的にホークが折れた。
私も目で合図している――「ホーク、殿下の言うことを聞いて」と。
ちなみにホークは人間の姿で休もうと、鷹の姿で休もうと、そこはあまり差がないという。
「鷹というか、鳥類の多くがそうだけど、どのみち脳の片方しか寝ていないんだよ。で、それは人型になっても同じ。左右の脳を交代で休ませて、不測の事態に備えている」
鳥類が実現している不思議な睡眠メカニズムを、人型になっても維持できるホークはすごいと思う。
「もしかして人間の姿のまま、立って寝られるのかしら?」
「寝られると思うけど、傍から見たら異常だよな。やらないぞ、俺は」
「やらないでいいわ、ホーク。気になって聞いてみただけだから」
そんな会話をしたのは、いつのことだったか。
ちなみに。
私がドレスを買うため、あのブティックにランスといる間。
ホークが観察したところ、尾行者はただ、その様子を見張っていただけだ。
さらに定期連絡のため、伝書鳩を飛ばした。
ホークはその鳩を捕え、手紙を奪い取り、ランスに渡している。
「当然と言えば当然です。暗号が使われています。簡単な暗号なら僕でも解読できますが、そのためには本が必要です。明日行くスパには図書館が併設されているので、そこで少し調べてみます」
スパ施設は、飲泉エリア、入浴エリア、休息エリアに分かれていた。
休息エリアにレストラン、仮眠デッキ、図書館があるというのだ。
スパに行くと決まってから、ランスはホテルのスタッフに頼み、施設の情報もちゃんと把握していた。そのあたりは本当に。抜かりないと思う。
ということで翌日。
朝食をホテルで終えると、早速、そのスパ施設にやって来た。
「入浴エリアで男女が共に行動できるのは足湯とサウナです。まず足湯を楽しみ、入浴を行い、サウナに集合しましょう。その後、飲泉エリアに行き、そのままレストランへ移動しましょうか」
ランスの完璧プランに従い、まずは館内着(厚手バスローブ)に着替え、足湯にやってきた。
足湯……と言われると、前世日本のベンチに座り、横並びで長方形の足湯を楽しむを想像してしまったが。ここの足湯は全然違う!
ホーローのウォッシュボウルを手に、蛇口が並ぶ場所に向かう。そこにはベンチがあるので、まずは腰掛ける。そして蛇口の下にウォッシュボウルを置く。蛇口をひねると温泉水が出てくる。そこへ用意されているハーブや花びらを好みで入れ、足を浸けるのだ。
「サラは薔薇の花びらを入れたのですね。とても芳醇な香りがします」
右側に座るランスが微笑む。
「サラ、俺はオレンジの皮を入れた! なんかジューシーな匂いがするだろう!」
左側に座るホークは、オレンジやレモンの皮をいれたようだ。
確かに柑橘系のいい香りがする。
「殿下は……ミントですか?」
「そうです。爽やかな香りがいいかなと思いまして。少しだけユーカリの香油とレモンの皮も混ぜています」
「ブレンドされたのですね!」
するとランスはふわっと優しい笑顔になる。
「紅茶をブレンドする感覚で試してみました。サラの場合、このゼラニウムの花が合うかもしれませんね」
そう言うとランスは、自身が用意していたピンク色の花を取ると、私のウォッシュボウルに入れてくれる。
「あ、フローラルな香りにスパイシーさが出ました。全体的にフレッシュで優雅な香りで……なんだか気分が華やぎます」
「それは良かったです……! ホ、ホーク!?」
「何だよ、二人で楽しそうに! 俺様も仲間に入れて欲しいっ!」
ランスが寂しがり屋だということは、度々の老化により分かっていたが、ここに来てホークまで甘えん坊になっているような?
「ではホークの柑橘系は……。そうですね、爽快さを出すために、ライムの皮とレモングラスを足してはどうでしょう?」
ランスがアドバイスすると「取ってくる!」と、ホークはハーブが並べられた棚に向かう。
その時だった。
ランスの手がベンチに置いている私の手にそっと触れた。
「こうやってのんびり足湯を楽しんでいると、呪いのことを忘れます。……たとえ呪いが解けなくても、こうやってサラとゆったりした時間を過ごせるなら。悪くないな、と思ってしまいます」
急にランスからそんなことを言われ、驚くのと同時に。
トク、トクと鼓動が速くなっているのを感じる。
それに呪いが解けなくても、だなんて!
それは絶対にダメだ。
だって……呪いが解けなかったら、いつ老化するか分からない。
そうなったら私、ランスのことが放っておけなくなる……。
お読みいただき、ありがとうございます!
次回は「第32話:落ち着こう、私。」です。
殿下の言動に心が揺れ、そして――。
……ランスのことを気になる女性が現れたのなら、私は






















































