30話:そもそも舞踏会って
三時間近くホークを待たせてしまった。
これは絶対に怒っている!
と思ったら。
店を出るとすぐに表れたホークは予想外にご機嫌。
「いやー、旅に出てから狩りしてなかっただろう? 街ってさ、意外と獲物がいるんだよ。森だともぐらとか蛇だろう? でも街にはネズミが沢山いるから。あ、俺な、もう満腹!」
ホークは鷹の使い魔で、私と同じ食べ物も摂るが、一日一回は狩りをしていた。野生の餌を捕まえ、食べていたのだ。そして確かに旅に出てからは、その狩りをお休みしていたが……。
「え、もぐら? 蛇? ネズミ!?」
人型のホークがしれっとそんなことを言うから、ランスの目が点になっている!
旅に出てから人型でいる時間が長いから、きっとランスの中ではホークは“たまに鷹に変身する人間”になっているのだと思う。だから蛇とかネズミを食べる姿は……想像しちゃダメ、ランス!
「ホ、ホークは満腹でもランス殿下と私はお腹が空いているから、レストランに行くわよ! ね、殿下、そうしますよね」
「え、ええ、そうですね。そうしましょう」
ランスは気持ちを切り替え、私の手を取り、歩き出した。
◇
少し遅めの昼食後、ランスとホークのテールコートを手に入れるため、紳士服店に向かった。よくよく考えると二人とも王子様系、ワイルド系で顔良し・スタイル良しなのだ。テールコートが似合わないわけがない!
ランスは白やスカイブルー、パールシルバーのテールコートを試着したが、問答無用で似合っている。はっきり言ってかっこいい!
ホークは王道の黒、ダークグレー、濃紺と試着したが、なんだかバーテンや執事みたいで大変素敵だった! マダムキラーになりそうな予感。
すぐにでも舞踏会へ行きたい気持ちになったが……。
「なあ、殿下。そもそも舞踏会って何なんだ?」
無事に買い物を終え、ホテルへ戻る馬車の中でホークがランスに尋ねた。
そこで私も考える。
大好きな童話の世界において。
舞踏会はドレスを着て、宮殿に行き、王子様と出会う場。
様々な人と出会う社交場。
そう思ったが……。
「舞踏会が何であるか。それを聞かれるとは思いませんでした。そうですね……端的に言うと、貴族たちが集い、ダンスをして、社交をする場ですかね」
「ダンス?」
「ええ、ダンスです。ダンスパーティーですよ」
ランスとホークの会話を聞いて「がーん」となる。
前世では勿論、そして転生後も。
ダンスなんてしたことがない。
ダンス、と言っても体育の授業でやったダンスは別だ。
そちらではなく!
あの男女がペアになって踊る、社交ダンス!
あれは踊ったことがない。
「なあ、サラ! サラはダンス踊れるのか!?」
「お、踊れるわけがないわ!」
「なるほど。大丈夫です。ウィンナー・ワルツでしたら、ステップを頭にいれることができれば、トータルで8時間程の練習で、なんとかなります。つまりなんとか踊れるようになると思いますよ。今晩から練習しましょう」
これにはビックリ。
そんな健康的な睡眠時間ぐらいで、ワルツを踊れるようになるのかと思わず尋ねてしまう。
「ウィンナー・ワルツでは、使われるステップがシンプルなので、覚えやすいと思います。二時間ほど、ステップの練習をすれば、足が覚えてくれるでしょう。ステップを覚えることができたら、パートナーと練習です。ここで姿勢や目線についてもマスターしていきます」
ほ、本当にそれで覚えることができるのかしら!?
「最終的に大勢がいる中で踊る練習ですが……。こちらは舞踏会当日に、初めて大勢と踊った……となっても仕方ないかもしれませんね。いくつもの舞踏会に参加し、経験を積み、慣れていくというのが一般的なので」
そこで私は数少ない社交ダンスに関する記憶を思い出す。
男女ペアで踊るということは。
男性と女性では踊り方が違うのではないかと。
「ええ、サラ、その通りです。リードする男性は、前進するためのステップが多いですね。女性はリードされることになるので、後退するステップが多いと言えるでしょう。通常、女性であれば、フォローとしての動きを覚えることになります。男性であれば、リードとしての動きを覚える」
リードされる女性の動きはフォローというのだと、この時初めて知ることになる。
「ですが僕はよりダンスを上達させるため、女性のフォローとしての動きも学びました。女性の動きを知ることで、リードする技術も向上しますからね。よって安心してください、サラ。僕がきちんと教えるので」
さすがランス! 頼もしいわ!
こうしてホテルに戻ると、スイートルームのエントランスで、ダンスの練習となった。
そこは床が大理石になっており、余計なものも置かれていない。
まさにミニダンスホールなのだ。
ホークと私、それぞれ指導する内容は違うのに、ランスは上手にレッスンをつけてくれる。
こうして夕食までみっちり二時間練習をして、夕食後も一時間練習をした。
その間にドレスなどの衣装が到着したが、それはホテルのメイドが受け取り、クローゼットにしまってくれた。ホテルのサービスの良さに感動だ。
三時間のダンス練習を終えた結果。
基本となるステップは、確かに頭ではなく、足で覚えることができた!
ホークも天性の勘の良さで、しっかりステップを習得している。
「二人とも勘がいいですね。数日で、舞踏会で一曲踊れるレベルになると思いますよ」
ランスからもお墨付きをもらえた!
そして明日は、ホークが楽しみにしているスパに行く日だった。
お読みいただき、ありがとうございます!
次回は「第31話:そうなったら私」です。
……ランスの手がベンチに置いている私の手にそっと触れた。
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