2話:森でおじいさんを拾いました
二十歳になった!
前世だと大人になりました、おめでとう~!と家族も国もお祝いをしてくれる。成人の集いなんかがあったりして。でもこの森の中で私が二十歳になっても、それはいつも通り。
「サラ、誕生日だろう! 俺様が釣った魚で、今晩はアクアパッツァを作ろう!」
「サラ、お誕生日おめでとう! 私のもふもふの毛で作ったマフラーと手袋をプレゼントするわ! ケーキも作る?」
八月の終わりに私が二十歳になっても、それが大人の仲間入りであるとは、ホークもココも知る由もない。毎年の恒例行事として、私の誕生日を祝ってくれる。
でも二十歳だから大人なんて慣習、この世界にはきっとないのだろう。
「だろう」と曖昧な言い方になるのは、結局私の二十年の人生は、この森の中で完結しているから。つまり森の中で引きこもりをしている魔女=私だった。ゆえに転生したこの世界について私は……大変疎い状態。
森の外へ出たくないのか、森の外に興味がないのか、というと……。
魔法も使え、家族となるココとホークがいる私は、それで満足できていた。「結婚したいのですが!」とならない限り、この森の中で引きこもって生きて行くことができる。そして猛烈に恋愛したいモードでもなかった。
うん。森の外への興味、ないかもしれない。
とはいえ、一年に何度かは町へ出向くこともある。
チョコレートとか紅茶の茶葉とか、嗜好品や舶来品を手に入れるため。でもそれも人の少ない時間帯を狙い、さっと買い物をすると、レストランなどで食事することなく、すぐに森へ戻ってしまう。
究極の引きこもりになっているが、これにはもう一つ理由がある。
この世界で精霊は言わば絶滅危惧種。そして魔女もまたその数が減る一方だった。だが世界は魔女を求めていた。
魔法を使えるのだ、魔女は。
権力者が放っておくわけがない。魔女や魔法使い(魔法を使える男性は魔法使いと呼ぶ)がいるとなれば、彼らは利用しようと近づいてくる。言葉巧みに手懐け、魔法を戦争や権力の座にしがみつくための道具として、使おうとするのだ。
そんな風に利用されるなんて、嫌だった。それなら限りなく平和なこの森の中で引きこもって暮らしていきたい!というのが私の考え。
ただ、そうは言っても森というのは、完全に私が独り占めできるわけではない。そもそも多くの獣も住んでいるし、その獣を求め、どうしたって人間は森にやってくる。果実や木の実だってあるのだ。木々は薪として利用され、建材や家具にも活用される。
ゆえに私の中で線引きをしていた。
ここから先は私の住処。だから人間の皆さんは入ってこないでね――と魔法を張り巡らしている。通常、そこの線引きした場所に到達すると、回れ右をして帰るはずなのだ。
何せそこから先に足を踏み入れたら、絶対に生きて帰れませんよ、という雰囲気にしているのだから。不自然に曲がりくねって生えている木とか、獣が残した鋭い爪痕とか、獣の骨も散りばめているのだ。
でもそれでも時々、人が迷い込む。
迷い込む、ではないかな。
この世界は貴族がいて剣と騎士が存在するような、前世に比べ、文明がうんと昔。不作だった年や、病が流行すると、人減らしが行われていた。そういった老人を、あえて私の魔法が作用しているおどろおどろしい森の中へ、置き去りにしているのだ。
これには本当に困ってしまう。
置き去りにされた老人は、健康で元気なのだ。だからこそ森へ置いていく。つまり死期は先だが、もう養えないから、森で獣にでも襲われてくれという趣旨で残していくのだ。
これには本当に腹が立つ。
前世ではなんとか祖母を生かそうと必死だったのだ。それなのに元気な老人を森に置いていくなんて!
そういう老人を見つけると、私はたっぷりの食料と水袋、そして金貨の入った巾着を渡し、森の外へ送り出す。これだけの金貨があれば、家も土地も手に入る。体は元気なのだ。森に置きざりにするような身内のことは忘れ、新しい場所で第二の人生を始めて欲しいと送り出していた。
ちなみにこの金貨、狐が木の葉を小判に変えたように、魔法で用意したものではない。ポーションや魔法アイテムをたまに人間に販売し、手に入れた本物の金貨だ。
それはさておき。
今日、二十歳になったばかりの私への誕生日プレゼント?なのか。
線引きしたエリア内で人間の気配を察知した。
「ココ、留守番を頼むわ。ホーク、一緒に来てくれる?」
「箒で向かうんだろう?」
「ええ。だから鷹の姿でいいわ」
魔女ですから、空を飛ぶ時には定番の箒を使っている。
「サラ、ホーク、気を付けてね。晩御飯の用意は任せて!」
「ありがとう。ココ。では行くわよ」
「おうよ、行こうぜ、サラ」
こうして家を出て、空を一飛びで、線引きしたエリアへ向かう。
速度を上げてもホークは問題なくついてくる。
「あの辺りね。下降するわよ」
「了解!」
こうして森の中へ降り立ち、発見する。
「あれぇ、なんだかいつもと違うぞ」
「そうね。ここに迷い込む老人は、みんな元気なのに。あれは……髪は長いけれど、髭も生えているからおじいさんね。どう見ても衰弱しているように思えるわ」
「まさか病気のじいさんを森に捨てたのか!? それは許せないな」
「ええ。ちょっと確認するわ」
もしも。
もしも、このおじいさんが既に息がなかったら。
ここに放置した人間に、相応の報いを受けさせると思った。
そんなことを思いながらも私の体は震えている。
祖母がぐっすり眠っている時。
ちゃんと息をしているのか、何度も確認した。
その時のことを思い出し、そっとおじいさんの鼻と口の辺りに手をかざす。
かすかに息を感じるが確信を持てない。
生きていて、お願い!
手をとり、脈を確認する。
「生きているわ! 良かった! 連れ帰るわよ、おじいさんを!」
お読みいただき、ありがとうございます!
衰弱したおじいさんの運命やいかに!?
次回は「第3話:無我夢中で」です。
明日からの三連休は更新頑張ります!
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