28話:三人でベッドで
昨晩は……本当に大変だった。
誤解したホークはかんかんに怒っているし、「俺だけ仲間外れか!」と拗ねるので、結局。
スイートルームに、三人で泊まることになった。
ホークは鷹の姿で私の枕元のベッドボードで眠り、ランスは初志貫徹。
ソファで休んだ。
ここに至るまでも大騒ぎで、蛙の置物が盗まれた件を話し、尾行者のことを説明し、そして浴室で起きてしまったハプニングについて話すことになった。一応、これでホークは自分が別室だった理由を理解したが、それでも「のけ者にされた!」と言うので、スイートルームで一緒に過ごすことが決定した。
でもスイートルームであるが、大きめの天蓋付きベッドは一つで、ソファはランスが休むことになっている。そうなるとホークはどこで寝るのか、となり「なら俺、鷹の姿に戻る!」となったところまでは良かった。
だが……。
「俺、サラの枕元で寝る。大人になっても、たまにそうしていただろう?」
確かに鷹の姿のホークとは、今もたまに一緒に寝ている。
ホークがベッドボードにとまって寝るのだ。
「!? そんなこと、ダメです! もしも何かの事故で、人型になったらどうするのですか!? 未婚の男女が同じ寝室で寝るなんて、断じて許せません!」
「おいおい、バスタブでイチャイチャしていたじいさんに言われたくないな」
「ホーク! 殿下と呼んで! それに今、おじいさんの姿ではないのだから!」
しばらくはホークとランスが押し問答を繰り広げ、最終的にランスが折れた。
絶対に人型にならないこと。寝室のカギは開けておくこと(何かあった時、ランスがすぐに駆け付けるため)、とまるのはサイドボードの一番端という三つの条件つきで。
そして迎えた翌朝。
寝室の扉のノックの音で目覚めることになる。
「おはようございます、サラ」
既に明るいライトブルーのセットアップに着替えたランスは、トレンチにティーセットを乗せている。
どうやら紅茶を運んでくれたようだが、せっかくの街のホテル。
メイドにサービスしてもらえばいいのに、と思ったら……。
「これはアーリーモーニングティーと言って、朝一番で飲む紅茶なんです。目覚めの一杯として、ミルクティーがおススメ。そしてこの紅茶はベッドで飲むことから、ベッドティーとも呼ばれています。夫が妻のためにいれることで知られ、僕たちは新婚ということになっていますよね。ホテルのスタッフが、僕が出せるように届けてくれたのです」
そう言ってランスは碧眼を嬉しそうに細め、その頬をバラ色に染める。
それを見たホークは……。
「なんでじいさんと新婚設定なんだよ! 俺とサラで新婚でもよかったのに!」
再び喧嘩になりそうだったので、ホークには人型になるよう命じ、三人でミルクティーを飲むことになった。私を真ん中に、広々としたベッドに三人並んで紅茶を飲むなんて! もうシュール過ぎて笑ってしまう。
その優雅な紅茶の時間が終わると、今度はランスが大きな箱を持ってきた。
何かと思ったら……。
「サラは街に着いたら、舞踏会に行くといいと言っていましたよね。まさか僕一人を行かせるわけではないですよね? 支配人に頼み、直近で行われる舞踏会の情報をまとめてもらいました」
箱の上に置かれていた紙を、まず手渡してくれた。
そこには舞踏会の日付と場所がリスト化されている。
「舞踏会にはドレスが必須です。それを今日、買いに行きましょう。そしてこれは街に滞在中に着られるように用意したデイ・ドレスです」
ランスが説明し、ホークが長方形の箱をパカッと開けると、中のドレスを広げて見せてくれる。
光沢を抑えた明るいシルバーの生地に、淡い水色の大輪の花がプリントされている。スカート部分には、水色や青のレースが重ねられ、美しいグラデーションを作り上げていた。
「この後すぐ、メイドを呼びます。着替えを終えたら食堂で朝食。スパは明日にでも行きましょう」
この完璧な段取りにはさすがのホークも「殿下、やるな」と驚いていた。
しかもホークと自身のテールコートも、今日買おうと提案してくれたのだ。
私はこの世界の貴族の慣習について疎かった。
ただ貴族が出会いを求めるなら、社交をする必要があり、その社交の場が舞踏会や晩餐会、スパなどであることは理解していた。そこでランスに舞踏会に行くことを勧めたが……。
舞踏会へ行くには正装する必要があった。
そしてランス一人を行かせるわけにはいかない。舞踏会で何が起きるか分からなかった。ハプニングでランスが老化を起こした場合、私が必要なはずだ。
自身が嬉しくなるような朗報があれば、ランスの心(精神力)は強まるように思えた。でもランスはそうではないと言っている。この件については検証するしかないが、私が抱きしめることで、手っ取り早く元の姿に戻れるのは事実。それで何度も老化の危機を脱している。
よって舞踏会には私が付き添った方がいいだろう。
私とランスが舞踏会に行くとなれば、当然、ホークも「俺も行く!」になるはず。そうなると全員、衣装を整える必要がある。この辺りを事前に把握し、動いてくれたランスは、ホークの言う通り。さすがだと思う。
とにもかくにもこの日、私は転生後初めて、ドレスを着ることになった。
前世では結婚式の二次会に招待され、パーティードレスを着たことはある。だが本格的なドレスは勿論、これが初めてだった。
しかもメイドにドレスを着せてもらうなんて……。
「髪飾りとネックレスとイヤリングも用意されているので、お付けしますね」
「え、そうなのですね……! お願いします」
ランスは宝飾品についてまで触れなかったが、間違いなく、併せて手配してくれたのだろう。
こうしてデイ・ドレスに着替えると、街のブティックに向かった。
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次回は「第29話:僕の妻です。」です。
殿下が迷走中!?