26話:拗ねる殿下
「絶対に僕が阻止します!」
そう宣言するランスは十八歳。
限りなくピュアだ。
私は魔女。
二十年間、自分の身は自分で守ってきた。
人間の追っ手なんて、痛くも痒くもないのに。
「ランス殿下、ありがとうございます。私を守るためのその決意。しかと受け止めました。受け止めましたが……。確か殿下はホークに対し、未婚の男女が同室などあり得ないとおっしゃりましたよね? それなのに今のこの状況。ホークが知ったらどう思うでしょうか」
ハッとするランスに、もし尻尾と耳があるなら。
今の一言で、ぺたんと垂れていそうだ。
子犬化したランスを想像すると、可愛すぎる。
なんだかもっといじりたくなってしまう。
私は見た目、二十歳。でも中身は前世持ちのアラサー女子。
少しランスをからかって見ることにした。
「それに私を護衛するというのなら。使い魔であり、ある程度の魔法が使え、鷹に姿を変えられるホークが同室でも、良かったのでは!?」
「それは……!」
碧眼をうるうるさせ、頬をうっすら赤くするランス。
顔面偏差値の高い男子の困り照れ顔、好物かもしれない!
「……そんな風にホークを出すということは。サラは僕よりホークに守られたいのですね。僕の剣術の腕より、ホークの魔法を選ぶのですか」
「! で、殿下……!」
「僕はこんなにもサラのことを、大切に思っているのに」
今にも泣きそうになったランスは……。
ろ、老化が始まっているーっ!
またもやあっという間に。
お父さんを通り過ぎ、おじいさんになってしまった!
「ごめんなさい、殿下。これは私が悪いです。言い過ぎました。殿下が早朝、剣の腕が鈍らないよう、練習されている姿を、何度か見ています。私は剣に関して素人ですが、それでも見惚れるものでした。よって殿下の剣術の腕は、確かだと思います」
そこでソファから立ち上がり、「殿下」と両手を広げ、抱きしめようとすると。
おじいさんランスはぷいっと横を向いてしまう。
「殿下……?」
「未婚の男女が同室など、あり得ないのでしょう。でもこんなおじいさんと同室なら、問題ないですよね。サラが寝る直前に、僕を抱きしめてください。僕が元の姿に戻ったら、寝室のカギを掛ける。僕はこの部屋で朝まで過ごす。これなら別々の部屋で過ごすのと同じですよね。それまでは、この姿のままでいいです。もしホークがこの部屋を訪ねてきても、僕がこの状態なら、文句も言えないはずです」
さっきまで子供っぽさがあったのに。
今は冷静に、自身がやましい気持ちでここにいるのではないと、主張している。
それはそれで、なんだか不器用過ぎて、可愛く思えてしまう。
さらにいじりたくなるが、ここは我慢だ。
「分かりました。殿下の誠意と決意が伝わってきます。仰せのままにしましょう。……では順番に入浴しますか?」
ランスは素直に「そうします」と応じた。
入浴の準備は、魔法でもできる。
だがせっかくスイートルームに泊まるのだ。
ベルでメイドを呼び、入浴の準備を整えてもらった。
「入浴できるそうですよ、殿下」
「サラが先に入ってください」
「私は髪を洗うと時間もかかるので、殿下が先で問題ないです。それに次に入浴する人がいると思うと、のんびり入浴できないので」
ランスはこの説明に納得し、ソファから立ち上がろうとするが……。
「殿下、支えます!」
「サラ……」
「おじいさんなんですよ。介護は必要です」
ランスは恥ずかしがりながらも、結局は私の魔法で、腰にタオルを巻いているだけの姿になった。そしてバスタブに入り、私は海綿でおじいさんランスの背中を流していた。
こうなるとランスは大人しくしている。
「でも殿下はよく、尾行に気が付きましたね」
「それは……ある意味、僕が王宮から逃げてきたから、というのもあります。誰かにつけられていないか。それはサラと出会う前は、常に気にしていましたから」
おじいさんランスだが、話し方はいつもの青年ランス。
なんだか不思議な感じだわ。
「尾行者を発見したのは、いつなのですか。町宿を出発してからですか?」
するとランスは「違います」と言い、こう明かす。
「心の強靭化計画の後、夕食を摂り、部屋に戻りましたよね。その部屋は二階でしたが、そこの窓から外の様子を見た時、宿を監視している人間に気づきました」
「そうなのですね!?」
「心の強靭化計画が始まる前にも確認したのですが、その時は監視する人間はいませんでした。しかも複数名が二組に分かれて行動していると分かったので、撒くのは難しいだろうと」
そんな風にきちんと観察していたなんて。
十八歳、おこちゃまと思ってしまうが、そんなことはなかった。
「心の強靭化計画を始める前には尾行されていなかった……。もしかするとホークが蛙の置物を取りに行った時、その姿を見て、魔法使いだと気づいたのかもしれません」
私がそう言うと、おじいさんランスは「!」となった。
「サラ……! そうか、その時! 謎が解けました」
「?」
「尾行のきっかけは何だったのか、誰を追っているのか、今のサラの言葉で分かりました」
おじいさんランスの瞳が、興奮気味に輝いている。
お読みいただき、ありがとうございます!
殿下の推理が冴えわたる!
そして思わぬハプニングにより二人の距離が……!
次回は「第27話:サラだけです」。
ということで続きを読みたい!と思われた方は
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