25話:その真意は!?
「殿下、まさかチェックインの時、私と新婚だと話しました?」
「……実は、そうです」
「な」「聞いてください!」
聞いてください!?
目の前の天蓋付きベッドは“新婚さんいらっしゃい”とばかりに、薔薇でハートが描かれているというのに!
「ホークがいる前で、新婚であると話したとなると、大騒ぎになると思いました。よって事前に話さなかったこと、お詫びします。申し訳ありません」
ランスが深々と頭を下げた。
「空き室がスイートルームとシングルルームしかないと言われたので、こうなるようにしました。もしシングルルームとツインルームしかないと言われたら、サラのいる部屋の廊下で寝ずの番をするつもりでした」
「頭はあげてください。それに寝ずの番。一体どういうことですか!?」
するとランスが頭を上げ、大きく息を吐き、苦悩を帯びた碧い瞳を私に向けた。
「今朝、町を出発した時からずっと。尾行されています」
「えっ!?」
そこでランスは「きちんと話すので、ソファに座りましょう」と提案した。
今、薔薇のハートが見える寝室にいたが、確かにここで立ち話はなんだった。
隣室に戻り、対面になるようにしてソファに腰を下ろした。
目の前にフルーツの盛り合わせやチョコレートが見えるが、今は我慢だ。
「手慣れた様子でした。戦時中、そういった任務に就いていた者たちなのでしょう。斥候を得意している者達。エヴァレット王国では二十年前に小規模な戦があって以降、戦争は起きていません。戦時中の英雄は過去のものとされ、褒章で得たお金もそろそろ尽きる頃です。過去の遺物になりつつあるスキルで生き延びるため、犯罪に手を染める者も増えています」
つまりプロが私たちの後をつけていたということだ。
「心当たりがあるのですか? 尾行している者が誰か」
「まず誰を尾行しているかを考えました。僕は公人ですから、何度も姿絵が新聞に掲載されています。記憶している人もいるでしょう。それに僕は王宮から姿を消し、行方不明です。捜索をされているのですから、僕を追跡している可能性は大です」
妥当な推測だと思う。
だが次の予想もあながちハズレではない。
「第二の可能性は、サラの尾行です」
うん。この可能性は捨てきれない。
「僕が名前だけ知る魔女は数名います。ですが実際に会ったことがある魔女は、ターニャとサラだけ。それだけ魔女は希少な存在です」
魔女は希少な存在。
確かに数は少ないが、私と同じような考えをする魔女も多いのではないか。
つまり人間と関わらないよう、ひっそり生きている魔女だ。
おかげで実在より、さらに少なく見積もられている可能性も高かった。
「その数の少なさから魔女の存在は、伝承になりつつあります。精霊やドワーフのように。それでもその存在を信じ、魔女を探している者もいます」
それは散々、精霊から子供の時に教わっている。
だから森の外は危険、人間は恐ろしいと。
「サラは変装を特にしていませんよね。サラのその瞳。人間にはない銀色の瞳は、魔女の特徴とされるものです。一般人は異国の人と思うかもしれません。ですがその瞳を見て、魔女だと気が付いた者がいる。魔女を探す悪い輩です。彼らがサラを尾行し、捕えるチャンスを窺っている可能性もあります」
「それならホークのあの金色の瞳も、珍しいですよね。ホークのことを魔法使いと思い、つけている可能性もあるのでは?」
「そうですね。よって尾行する者は、王太子もしくは魔女や魔法使いを追う者と考えられます。僕を追うなら、王族が手配した者の可能性が高いです。後者を追う者は、あらゆる可能性があり、特定が難しい。ただ、プロを使っているなら、相応のお金も動いていることになります。なんらかの犯罪組織と考えるのが妥当でしょう」
魔女や魔法使いを、専門に探す組織もあると、精霊から聞いたことがあった。
「尾行している者が分かるなら、捕えて吐かせることもできますよね?」
「ええ、それはできます。ですが彼らはプロですから。雇い主との定期連絡をとっているはずです。連絡が一度でも途絶えれば、別動隊が動くでしょう。それに僕たちの手に落ちそうと分かったら、自死を選ぶ可能性が大きいです。そういう訓練を受けているでしょうから」
つまり今、尾行している者を捕え、いろいろ吐かせることができても。
黒幕に辿り着く前に、次の追っ手がかかるか、実際に動かれる可能性が高い。
つまり連れ去るとか、目的のための具体的な行動をとられるかもしれないのだ。
「僕を追う者なら、少なくとも危害を加えることはないでしょう。王太子に怪我をさせたら、大事になります。ですがサラやホークを狙う者は、何をするか分かりません。ただいざとなればホークは姿を変え、逃げることもできるでしょう。ですがサラは例え魔女であったとしても、僕にとってレディであることに変わりありません。守るべき存在です」
……!
私は魔法を使えるのに。
それとは関係なく、一人の女性として見ている。
だからこそ守りたいと思ってくれたのね……!
これはなんだか素直に嬉しい。
「そこで『あとはスイートルームしかない』と言われた時、サラと同室で過ごすことを決意しました。スイートルームであれば、部屋数が多い。サラは寝室で休み、僕はこのソファで休むことができます。それにここは三階。寝室に行くには、僕が控えるこの部屋を通る必要があるのです。もしもの時は、絶対に僕が阻止します」
お読みいただき、ありがとうございます!
次回は「第26話:拗ねる殿下」です。
殿下、どうしました!?
【お知らせ】第二部完結!
異世界転生恋愛ランキング 1位(2024/7/6&7/7)
なろう表紙[TOP]異世界転生恋愛ランキング 2位(7/6_7/8)
なろう表紙[TOP5入り]異世界転生恋愛ランキング(7/4_7/13&7/26_7/28)
『悪役令嬢に転生したらお父様が過保護だった件
~辺境伯のお父様は娘が心配です~』
https://ncode.syosetu.com/n2700jf/
ページ下部に目次ページに遷移するリンク付きバナーがございます。
未読の読者様、ぜひ第三部開始前に一気読みはいかがでしょうか~?