24話:もしかして、この部屋は……!
「なんとか日没前に到着できましたね」
宿泊予定のホテルの前で馬から降りたランスは安堵の表情だ。一方のホークは……。
「いやー、今日は一日掛かりの強行軍だった。でもこの街でしばらく滞在なんだろう? さっき街の案内板を見たら、スパ施設があるらしいぜ。サラ、絶対に行こう!」
ホークによると、この世界のスパは、飲泉が中心。だがこの街のスパでは、入浴も楽しめるという。
ナイト・フォレストには温泉はなかった。
なかった……というか、探したことがない。
もしかするとあるかもしれなかった。
戻ったら探してみてもいいかもしれない。
でも今はこの街にしばらく滞在するのだから、スパに行かない手はない。
「いいわね。スパ。殿下も行きますよね?」
「ええ、勿論です!」
スパは健康のためだけではなく、社交場でもあるという。利用者は貴族が中心だが、裕福な平民も足を運んでいる。スパに行くことで、ランスの真実の愛を育む女性との出会いにつながるかもしれなかった。
「チェックインの手続きは、僕がまとめてするので、そちらに座ってお二人はお待ちください。終わったら夕食にしましょう。街で人気のお店がないか、聞いてみます」
お言葉に甘え、ホークと私はロビーのソファに腰を下ろす。
すると。
さすが街のホテル。
町宿とは違う。
何も言わずとも、スタッフが紅茶とクッキーを届けてくれた。
クッキーを食べると、胃袋が刺激されたようだ。
早く夕食を食べたい!になっている。
「お待たせいたしました! 僕はまだお酒を飲める年齢に達していないので、すっかり忘れていたことがあります。今の時期、この街ではワイン祭りが行われているんです」
「そう言われると、この街に入った時、やたら街灯にブドウを描いた旗が飾られていたな。掲示板には、旗と同じのデザインのポスターも。このホテルに着く途中で通過した噴水広場にも、沢山の天幕が見えたが、そのワイン祭りの会場ということか?」
さすがホーク!
鷹の目を生かし、そういう情報収集が、ホークは得意だった。
「ええ、ホークはよく見ていますね。その通りです。夏に収穫したブドウで作ったワインを、新酒として楽しむイベントです。近隣の街からも沢山の貴族が訪れています。よってこのホテルも、ギリギリで部屋を抑えることができました。これで満室です」
「なるほど。お祭りの最中なのに、予約もせずに部屋を取れたのは、ラッキーですね」
私が応じると、ランスは淡く頬を染め「はい」と返事をする。
「なあ、なあ、その天幕では、何か旨い物が楽しめるのか!?」
ホークの問いにランスは笑顔で答える。
「ワインのつまみになる、チーズ、オリーブの実、生ハム、パン、ナッツ類、フルーツ、ピクルスが楽しめるはずです」
「えーっ、それだけか!? ガツンと肉はないのか!?」
「あると思いますよ。牛肉入りのシチュー、ポトフ、牛肉の赤ワイン煮込みなど、貴族をターゲットにした出店もあると思います」
これにはホークは大喜びで、天幕が出ている噴水広場に行こう!となった。
そして実際に出向くと、ランスが予想した通りの料理の数々が販売されている!
ここはもう花より団子(つまみ!)で、シチューから赤ワイン煮込み、パン、生ハム、チーズ、フルーツ……いろいろと食べまくりだった。
満腹になり、ホテルに戻ると、スタッフが部屋まで案内してくれることになった。
「お客様の部屋はコチラです」
三階建てのホテル。
ホークの部屋は二階にあるという。
お祭りで部屋数が少ないと言っていたが、どうやら一人一室ずつ割り当ててもらえたようだ。
「それじゃあ明日の朝、ホテル一階のレストランでなー!」
ホークはお腹いっぱいなので、ご機嫌でスタッフについて歩き出す。
ランスと私はそのまま階段を上り、三階へ到着。
廊下を進んで行く。
「お客様のお部屋は、こちらでございます」
突き当りの部屋の扉をスタッフが開けてくれる。
これは……ランスの部屋? 私の部屋?
ランスと顔を見合わせていると、スタッフは「お二人とも中へお入りください」と言う。
二人?
そう思うがスタッフはそのまま中に入ってしまうので、ランスと二人、慌ててその後を追う。だが部屋の中に入ったと思ったら、どうやらそこはエントランスになっている。
さらに扉を開けると、そこには廊下があった。
?????
どいうことかしら?
ともかく黒のスーツ姿の男性スタッフの後を追うと、突き当りの扉が開き……。
ドーンと巨大なシャンデリアがあり、一面窓からは、噴水広場が見えている。
というか街が一望できる!
そして部屋にはパチパチと暖炉の炎が燃えており、ゴージャスなソファセットが置かれていた。そしてローテーブルにはシャンパンとフルーツの盛り合わせとチョコレート。しかも豪華な花も、花瓶に飾られている。冬のこの季節、これだけの生花はなかなか手に入らない。温室栽培のものでは!? 温室栽培の花は当然だが、高い!
「専用の浴室も完備してございます」
これはビックリ!
専用の浴室があるなんて、王族か公爵家の屋敷ぐらいかと思っていた。
しかも案内された浴室は、大理石の床で、猫足のバスタブ、そしてシャンデリアがある!
「寝室も美しく飾らせていただきました」
て、天蓋付きのベッド!
しかもそこには薔薇の花びらでハートが描かれていた。
ハート……?
そこで私はハッとする。
もしかして、この部屋は……!
「新婚のお二人が、心ゆくまでお楽しみいただけるよう、ご滞在中は精一杯サービスさせていただきます。わたくし、支配人のカメリオと申します。荷物は寝室のウォークインクローゼットに運んでありますので、お手伝いが必要でしたら、ベルを鳴らしてくださいませ」
お読みいただき、ありがとうございます!
新婚のお二人ですって!?
次回は「第25話:その真意は!?」です。
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