23話:複雑な胸中
寝惚けた顔の蛙の置物を見た僕は、複雑な気持ちになる。
「蛙か……(あまり好きではないが)」
「でもサラがくれたものだ(嬉しい)」
「よく見ると可愛いかもしれない(前向き)」
僕としては、老化を起こしている時も、今と同じように様々な想いが交錯している。
「サラとホークはいつも近すぎる!(嫉妬)」
「僕だってサラともっと距離を縮めたいのに(願望)」
「ああ、また老化を起こしてしまった!(反省)」
「……でも、サラが抱きしめてくれる……!(期待&歓喜)」
というわけで僕が老化を起こす原因はこの二つ。
サラが僕以外の男性と親し気にしているのを目撃した時。
サラの僕への好感度が落ちたのではと感じる時。
この二つに尽きる。
そしてその僕以外の男性とは、ホークのことだ。
ホークはサラの使い魔だとよく理解している。
しかも人型をとっているが、ホークは鷹だ。
それに幼い頃からサラと育ち、家族も同然というのも分かっていた。
何よりサラが、ホークを異性として見ていないと分かっているが……。
もうそこは本能だ。
二人が恋愛感情抜きで抱擁していると分かっていても。
距離が近い様子を目の当たりにすると、どうしても嫉妬してしまう。
ホークは僕が老化を起こす原因にも、既に気が付いている。
気付いている上で、サラに親しく接するのは……。
これまでの慣習だからそうしているだけ、というのが一番だと思う。
ホークはいい奴だから。
その一方で、僕が困惑し、サラが勘違いしている様子を見て楽しんでいる……気もする。
しかしそのホークと抱き合うよう、サラから言われた時は……。
心の強靭化計画?
彼女の天真爛漫さにキュンとしながらも、もどかしくてならなかった。
女性であれば、誰でもいいわけではないのに!
サラだからだ。
彼女の優しさに包まれ、ピオニーの香りを感じ、想いが溢れると……。
全身に力が湧く。
呪いの影響も受けにくくなり、ランス・エドワード・エヴァレット十八歳に戻れるのだ。
結局、僕の老化はサラに左右されており、いくら蛙の置物を渡されても、解決しない。
解決は呪いを解くことが一番。
もう一つはこのサラへの気持ちを打ち明け、彼女と相思相愛になることなのだが……。
サラはこんなことを言い出したのだ。
――「真実の愛を育む女性とは、どうやって出会うつもりですか?」
真実の愛を育みたい女性……それはサラだ。
もう出会っている。
出会っているが、サラは僕の気持ちに全く気付いていない。
僕は恋愛に疎く、経験もない。
自分の気持ちをどうアピールすればいいのかも分からなかった。
それではなくてもサラは僕についていろいろ勘違いしている。
見た目や身分を気にしているのではないか、とか。
最初から好きになる相手なんて見つからないと思っている、とか。
全部、違うのに。
僕の気持ちを打ち明ければ、全ては解決するが、もしもまた誤解されたらと思うと、なかなか動けない。
「真実の愛を育める女性が見つからないから、私でお茶を濁すつもりですか!? それとも私が魔女だから利用するために、好きと言っていますか?」
こんな誤解をされたら、僕はもう立ち直れない……。
しかもサラは、こんなことまで言い出したのだ。
――「偶然の出会いなんて、待っていても見つかりません。次の街は数日滞在し、そういった平民の舞踏会に顔を出してみませんか? 知り合う相手は平民ですが、身分なんてこの際、関係ないですよね?」
身分なんて気にしていない。
サラが平民でも僕は好きになっただろう。
魔女のサラだから好きになったわけではない。
サラだから、好きなのだ。
それにしても。
僕が身分を明かし、街の貴族の舞踏会に顔を出す方法もあるなんてサラが言い出した時は、本当に驚いた。
咄嗟に両親を盾に、身分を明かすつもりはないとアピールしてしまったが……。
父上も母上も。
僕を今も心配していると思う。
なぜなら二人は、王太子妃狙いの女性達を牽制し、僕にこう言ってくれたのだ。
――「ランス。王太子であるからと、結婚相手は王侯貴族と思う必要はない。身分を問わず、真実の愛に出会えるなら、その相手と結婚するがいい。国中の女性を集め、舞踏会をしても構わない。そこから運命の相手を見つけることができるかもしれない」
もしこれをサラに話したら「今すぐ、王宮に戻りましょう! その舞踏会を開いてもらい、出会いましょう、真実の愛を育むことができる女性と!」と即言い出し、旅の目的地を変えてしまいそうだった。
でもこれは僕の望むことではないし、何より時間が無駄になるだけだ。
北の谷に着くまでに。
サラに想いを打ち明け、相思相愛を目指す。
そして北の魔女ターニャの呪いを解く。
これが僕の目標だ。
もしも。
もしもサラから「無理です。好きではありません。殿下は人間ですし」と言われでもしたら……。
その時は悪しき魔女の求婚を受け入れ、寝首を掻くしかない。
ここまで覚悟はできているのだ。
後はこの気持ちをサラに伝えるだけ……。
いきなりは無理だ。
そうだ!
少しずつ、サラを好きだとアピールしていけばいいのでは!?
しみじみ思う。
あれだけ必死に頑張った王太子教育は、恋愛を前にしては、全く役に立たないと!
お読みいただき、ありがとうございます!
天然なサラ。不器用な殿下。
そんな二人が急接近!?
次回は「第24話:もしかして、この部屋は……!」です。
【お知らせ】第六章スタート!
第5回HJ小説大賞前期の二次選考中作品
『転生したらモブだった!
異世界で恋愛相談カフェを始めました』
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章ごとの読み切り作品。
第六章開始です。
併読されていた読者様、お待たせいたしました!
ぜひご覧くださいませ~
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