22話:例の女性の件は?
翌日は夜明けとともに起きると、宿の食堂がオープンする前に出発となった。
目的地の街には、この早朝の出発で日没ギリギリでの到着になる。
冬のこの時期、日の入り時間が早いので、朝一で動く必要があった。
「一時間程馬を進めると、人馬共に休める休憩所があります。そこで朝食にしましょう」
そう告げるランスは、朝一ではあるが、スカイブルーの上衣とズボン、濃紺のマントをきっちり着こなし、実に清々しい。
「「了解!」」
そう応じるホークは、いつもの黒装備。
私もお馴染みのプラム色のロングローブにアイリス色のワンピースだ。
早朝なので、まだ馬車道は混雑していない。
先頭をホークが行き、ランスと並んで馬を進めることになった。
「今朝、目覚めるとすぐ、いただい蛙の置物を見ました」
「そうなのですね。でも老化は……なかったのですね」
ランスは少し苦笑し「ええ、そうですね」と言った後にこんなことを言う。
「ヒキガエルに比べると、いただいた蛙の置物は……リアルですが、嫌悪感は沸きませんでした」
「え、もう克服したのですか!?」
「ヒキガエルですと、まだダメかもしれません。ですが置物のあの蛙は、アマガエルですよね? 眠そうな目といい、そのサイズ。手のひらに乗る大きさで、存外に可愛らしく思えました」
なんと! わずか数時間で、幼少期のトラウマも克服!?
あ、でもヒキガエル……。
難しいわね。
ヒキガエルの置物なんて、部屋に飾りたい人がいない。
つまり、売っていない!
こうなったらリアルなヒキガエルで克服するしかないかしら?
待って!
今は冬眠に入る時期だから無理ね。
「多分、ヒキガエルを見ても、昔ほどは動揺しないと思います。何よりサラに克服するようにと言われているのですから」
ランスはサラサラのブロンドを揺らして微笑む。
「そうですか……」
ならばもう老化は起きないのかしら?
いや、苦手な物はヒキガエルだけではない。
通常は庶民が食べることが多いレバーも、貴族たちの間で一時、珍しい部位として流行したのだとか。ランスも王宮で食べることになったが、あまり得意ではないと言っていた。
次はレバーかしらね。
そんな風に考えていたが、重大なことに気が付く。
「ランス殿下」
「何でしょうか」
「百歩譲り、私がいるので老化については何となるとしましょう。真実の愛を育む女性とは、どうやって出会うつもりですか?」
私たちは今、北の魔女が住むと言われる、北の谷を目指していた。そこは遠い場所なので、到着までにはまだまだ時間がかかる。だがしかし! 目的地は決まっているが、同時にすべきことがある。そう、真実の愛を育む女性を見つけることだ!
北の谷に着いても、くだんの女性がいなければ、意味がない!
「そ、それは……。旅の道中での出会いに期待しています……」
ランスは最後の方は消え入りそうな声になっている。
これは……間違いない。
なんの算段もないのでは!?
旅先での出会い。
それはあるようでない!
そもそもこの世界、まだ移動手段は馬!
船は交易が中心。
そして令嬢は、あちこち旅なんてしていないと、宿屋の主人に聞いている。
そうなると……。
「今日の目的地は村ではなく、結構大き目な街です。街には裕福な平民がいて、彼らは貴族を真似て舞踏会や晩餐会を開くとか。彼らは招待状がなくても、それなりの身分と分かる相手なら、飛び入り参加も認めてくれると聞きました」
昨晩の入浴後、ロビーで寛いでいると、宿の主人が紅茶をサービスで出してくれた。そこでしばらくおしゃべりをして、この世界のあれやこれやを聞かせてもらったのだ。
町宿であるが、街道に近い場所なので、貴族が宿泊することもあった。
よって宿の主人はいろいろその辺についても詳しかったのだ。
「偶然の出会いなんて、待っていても見つかりません。次の街は数日滞在し、そういった平民の舞踏会に顔を出してみませんか? 知り合う相手は平民ですが、身分なんてこの際、関係ないですよね?」
「そ、それは……。そういう問題ではなく……。……。はい、身分。関係ないです」
「別に身分を明かし、その街にいる貴族の舞踏会にい」「ダメです!」
ランスは慌てた様子で「ダメ」と言う。
「僕はこっそり王宮を抜けて来たので、旅をしていることがバレると、まずは戻って来いとなるでしょう。でも戻ったところで何も変わりません。逆に王太子妃の座を狙う女性と無理やり婚約させられ、愛することを強要されるかもしれないのです。そしてなんとかして北の魔女を倒せと言われる可能性も……」
なるほど。もしそうならば、ランスの両親はもしかして毒親なのかしら!?
そこは息子の想いを組んで欲しいと思ってしまう。
そんな腹黒い女性ではなく!
真実の愛を育むことができる相手を見つける。その応援をしてくれればいいのに!
でもこれで分かったこともある。
北の谷へ乗り込む際、兵士や騎士の支援は得られないということだ。
無論、相手は魔女。
万の軍勢がいようと、自然を味方にした力を使えれば、人間なんていくら数がいても関係ないだろう。むしろ兵士や騎士がいても、ろくな成果はでず、怪我をしてお終いになる。それだったら魔法アイテムの使い方を覚えた人間が、数名随行する――こちらの方が、よほど意味があるだろう。
私は助太刀するつもりはない。
となると、道中で傭兵のスカウトが必要かもしれない。
お読みいただき、ありがとうございます!
次回は「第23話:複雑な胸中」です。
ランスが今の心境を熱く語る!






















































