20話:心の強靭化計画
今日一日進むことで、少し大きめの町に到着した。
多くが住宅街だが、旅宿屋や馬小屋やレストラン、居酒屋などは一通り揃っている。だが商業が中心の街と違い、娯楽はない。つまり宿にチェックインした後、夕食の時間まですることはなかった。
そこで。
私はランスの心の強靭化計画を立てた。
事あるごとにランスが老化しては、私の気も休まらない。
ここはランスのメンタルを強くする必要がある。
そこでこの宿に到着するまでに、いろいろ集めておいた。
さらにヒアリングも済んでいる。
荷物を部屋に置くと、ランスとホークの部屋へ向かった。
「! サラ、どうしたのですか!?」
突撃訪問のような形なので、ランスは驚き、でも頬を高揚させ、嬉しそうにしている。
それは中学生が、友達が家に遊びに来てくれて、嬉しくて仕方ない――そんな様子に思えた。
「あ、サラ、どうしたんだー? やっぱり部屋で一人だと寂しいんじゃないか?」
ホークは私のそばに来ると、当たり前のようにぎゅっと抱きしめる。
これはもう日常茶飯事。
森の中で、ココとホークと三人で生きてきたのだから。
「ありがとう、ホーク、大丈夫よ」
そう言って体を離し、大丈夫ではないのはランスだと悟る。
「殿下、また老化(お父さん化)していますっ!」
「! す、すみません……!」
これは一人だけ抱きしめてもらえないから、寂しかったのね。
そこでランスを抱きしめようとして、気が付く。
ただ、抱きしめられたいなら、私ではなくてもいいのでは?と。
お父さん……ランスは、抱きしめてもらえると、碧眼をキラキラさせてこちらを見ている。
「ホーク、殿下を抱きしめてあげて」
「げっ、なんで、俺が!?」
「!? サラ、どうしてそうなるのですか!?」
ホークはランスと負けないくらい長身なので、私は頑張って腕を伸ばし、その両肩を掴む。
「抱きしめることが安心感になるなら、私ではなくてもいいのでは?と思ったのよ。だっていつも私が殿下のそばにいるわけではないでしょう。だからほら、ホーク、早く!」
「えええええっ、サラ、それは大いに勘違いしていると思うぞ!」
「そうですよ、サラ! どうして僕がホークと……!」
「ごちゃごちゃ言わないでください。魔法で強制的に抱き着くようにしますよ!」
“強制的に魔法で。”
これは自分の意志で、抱きしめる行為を止めることができない。
抱きしめられる側も、逃げ出せない。
それを瞬時に理解したランスとホークは、ハグではなく、ひしっと抱き合った。
でも三秒!
三秒で二人は慌てて離れた。
「! どうして殿下、老化(お父さん化)が解けていないのですか!?」
「そりゃそうだろうよ、サラ! 男に抱きしめられて、嬉しいわけがないだろう!」
「なるほど……! 母性を求めているのね! 幼い頃に母親に抱きしめられた記憶。それは心が安らぎ、計り知れない喜びを与えてくれる。確かに心は強化されるわ。そうなると抱きしめる相手は、女性ではないとダメなのね」
私の言葉に、ランスとホークは目が点になっている。
どうしたのかしら?
正解だと思うのに。
「……殿下。サラは時々、無知ゆえの暴走をするんです」
「そのようですね……。驚きましたが、サラらしいと思います」
ホークとランスがなんだかぶつぶつと言っているが、こちらに背を向けている殿下を、後ろからぎゅっと抱きしめる。
「……サラ!」
ランスの声は少し高音で甘みがある。
うん、戻ったわね。
体を離すと、窓際にあるソファセットへ移動するよう促す。
ソファにはホークと私が並んで座り、対面にランスに座ってもらった。
「夕食までの時間を使い、殿下の心の強靭化計画を遂行します」
「「心の強靭化計画!?」」
ランスとホークの声が揃う。
なんだか抱きしめ合って以降、二人の息が合ってきたように思えるのは、気のせいかしら?
「殿下は森を出て旅をしている最中、度々、老化が起きています。それは心(精神力)が弱まり、北の魔女ターニャの呪いに負けているからです。それではダメです! よってこれから心を鍛えましょう!」
ホークは口をぽかーんと開け、ランスは「僕のために……! 嬉しいです!」と碧眼を震わせている。
「これからいくつか殿下には試練を与えます。耐えてください。呪いに負けてはいけません!」
「は、はいっ!」
ランスは幼い頃、飛んできたヒキガエルが頭の上に乗り、以降、蛙が苦手だと言っていた。そこで私は精巧にできた蛙の置物を手に入れていたのだ。
蛙は苦手。
それで老化なんて許しません!
ということで「ご覧ください、殿下!」と蛙の置物をソファの前のローテーブルに置いた。それを見たランスは「!」と息を呑む。
そこからは実に無駄のない迅速な動きだった。
素早くハンカチを取り出し、それで蛙をつまむと、窓を開け、ハンカチごと外へ放り投げた。
「ホーク、回収!」
「ラジャー!」
鷹なのだ、ホークは。
あれが偽物とすぐに分かっただろう。
しかもあれは陶器!
この部屋は二階!
通行人に当たったら大変!
瞬時に鷹の姿に戻ったホークが窓から飛び立つ。
「すみません、反射で」
「い、いえ。殿下がこんな俊敏に動けるなんて想定外でした。でもさすがに目にもとまらぬ早業でしたので、老化はしていませんね」
「……! え、ええ、それは……そう、ですね」
ならば。
次はこれだ!
お読みいただき、ありがとうございます!
次回は「第21話:これを克服すれば……!」です。
【おまけ】
どうしたのかしら?
正解だと思うのに。
「サラは天然(ボケ)ですね」
「はい。森で生まれ育ったので、まさに天然育ちです!」
(……好きです!)ランス心の声
(いやいや、何言っているんだよ、サラ!)ホーク心の声
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