19話:またも勘違いされています!
翌日。
朝食の後、身支度を整え、馬に乗ることになった。
前世でもこの世界でも。
初めての乗馬体験になる。
ランスには魔法を使うと言ったが、実は違う。
精霊に育てられた私は、彼らの言葉を話せた。
そして精霊は、この地上の生物と心を通わせることができる。
それは動物は勿論、植物とも。
「初めまして、私の名前はサラよ。ナイト・フォレストに住む精霊ミヌエを知っているかしら? 私は彼女に育てられたの。お友達になってくれる?」
馬は嬉しそうに鳴き、私に鼻を摺り寄せる。
精霊の言葉は「音」に近い。
そのリン、リンとした音を生物は好む。
馬は喜んで私を背に乗せ、言うことを聞いてくれる。
正直、手綱や鞭は必要ないぐらい。
「驚きました。とても初心者とは思えません。魔法は……便利なのですね」
並んで馬を進めながら、ランスが感心してくれる。
種明かしをしたいが、精霊の件は他言無用。
魔女より精霊の方が、数は少ないと言われている。
彼らは自由を好む。
人間と関わらず、森だったり、湖だったり、山だったり。
自然の中で静かに暮らしているのだ。
そっとしておくのが肝要。
「この馬との相性も良かったのかもしれません」
「なるほど。ところで昨日いただいたニンニクの素揚げ。あれはとても美味しかったのですが、なぜ、新婚向けなのでしょうね」
「殿下は無知だなー。ニンニクと言えば、スタミナ増進、精力増強だろう? ニンニクを沢山食って、夜も頑張ってください、新婚さん――ということだろう?」
まあ、その通り。
私は前世知識もあるので、すぐにピンときたが、この世界でもこの考えは通用するようだ。ランスが私と新婚なんてことを言うから……。
「そ、そういう意味だったのですね。そうとは知らず、美味しくいただいてしまいました」
「殿下はなんだか初心だよな~。顔が真っ赤じゃないっすか! そこまで照れなくてもいいのでは!?」
顔面偏差値が高い人が、こんな風に照れる姿ってなかなか目にしないから。
それだけでもう眼福ね。
そんなことを思いながら馬を進めると、村を出て街道に出た。
沢山の旅馬車や荷馬車とすれ違う。
「馬車にしませんでしたが、疲れませんか?」
「休憩も取りながらなので、問題ありません」
「……お尻が痛くなっていませんか?」
最初、馬と自分の体の揺れが合わなかった。
でも馬の方が、私の動きに合わせてくれたのだ。
これも私が精霊に育てられた子供だと分かったからだろう。
精霊に愛された子供を、生物たちは慈しんでくれる。
私が疲れないよう、お尻が痛くならないよう、馬の方が気を遣ってくれるなんて。
その分、休憩ではたっぷりの水とご褒美のリンゴも与えたりしていた。
そして昼食を兼ね、人馬共に休める休憩所、前世で言うなら道の駅に到着。
馬小屋に馬を預け、ブラッシングなどの手入れと餌やりをまかせ、レストランへ向かう。
案内された丸テーブルに着席すると、ホークが「今日は俺がサラの旦那役だ!」と宣言する。そう言えばその件は保留になっていたと思い出す。
するとランスが「そんな、日替わりで夫が変わるなんてありえないです。この旅は僕がサラの夫役です」と譲らない。その結果、二人は子供のように口喧嘩をしている。
ランスは十八歳。私より二歳下。
こんな子供っぽい一面もあるのね。
ともかく肉料理のランチを注文し、こう告げることになる。
「殿下は旅の同行者、ホークは護衛。私は独身で問題ありません。言い寄る男性なんて、いくらでも魔法で撃退できますから。それに下手に新婚だの言うと、昨日のニンニクみたいなことも起きかねません。ニンニクは美味しくいただけましたが、それ以外で勘違いサービスを受けると困るでしょう」
これを聞いたランスはしゅんとしてしまい……。
え、嘘! どうしてこれぐらいで老化(おとうさん化)が出るの!?
慌ててランスを抱きしめる。
「サラ……」
すぐに老化は収まった。
だが……。
「新婚さんですか! もう美男美女の熱烈抱擁なんて、見ていてドキドキしちゃいます。今朝水揚げされた牡蠣があるので、フライにしました。サービスでつけておきますね!」
店員の女性はニッコリ微笑む。
そのサービス精神はとても嬉しい。
私の人嫌いのハードルはどんどん下がっている。
だが、またも新婚勘違いからの、精力増強に効くと信じられている牡蠣をサービスされるなんて!
ランスは真実の愛の相手を見つけないといけない。
こんな勘違い、されている場合ではないのだ!
「前言撤回します。私はホークと新婚という設定にしますね。ランス殿下は、真実の愛を見つける必要があるのですから。誤解されないように」
「よっしゃー!」「えっ」
「!?」
もうまさにマジックショーを見ているようだ。
ランスが一気に老化(おじいさん化)している!
結局、またも抱きしめ、ホークとの新婚設定は却下となった。
自分一人だけ、仲間外れ……というのが、ダメだったのかしら?
というか、ランスには心(精神力)をもっと強靭にしてもらわないといけないわ!
お読みいただき、ありがとうございます!
ランスの心は乱高下!
次回は「第20話:心の強靭化計画」です。
「げっ、なんで、俺が!?」(ホーク)
「!? サラ、どうしてそうなるのですか!?」(ランス)
二人の身に一体何が!?
【お知らせ】
『悪役令嬢です。ヒロインがチート過ぎて嫌がらせができません!』の第二部がスタートしました!
併読されていた読者様、お待たせいたしました。
ページ下部に目次ページへ遷移するイラストリンクバナーがございます。
ぜひご覧くださいませ~☆彡