1話:物語が始まります!
いきなり意識が覚醒した。
蛍の光のような淡い光が飛んでいる様子が見える。
ここはどこだろう……?
派遣の仕事を終えて、最寄り駅に着いた。
今日はポイント5倍デーだからドラッグストアに寄っておばあちゃんの紙おむつを買って帰ろうと思っていたのだけど……。
疲れたなぁ。
肉体的に疲れたというのもあるけど、いわゆる介護疲れ? 母親と二人で頑張っているけど、いろいろとあるわけで。
なんだかふらっとした瞬間、ものすごく眩しい光とクラクションの音がして……。
「!」
鳩ぐらいのサイズの天使がいる!?
◇
まさか、まさかで。
異世界に転生していました!
前世はアラサー女子で、彼氏なし。
恋人もどきはいたが、まともな恋愛経験はない。
派遣社員として仕事をしており、祖母の介護をする母親を手伝っていた。
疲労困憊し、ふらっとして……交通事故で死亡した模様。
それで転生したこの世界は、貴族や騎士がいるヨーロッパ風な世界ながら、魔法も存在するようだ。
だって私、魔女ですから。
魔女の赤ん坊は、ある日突然、木の樹洞に現れるという。
多分、異世界から転生してくるから?
それとも魔女とはそういうものなのかしら?
ともかく両親なしで、私はナイト・フォレストという森の中で生まれ育つことになる。
魔女と言えど、いきなり赤ん坊では魔法も使えない。つまり自力で育つのは無理な話。そんな私の家族代わりとなり、育ててくれたのは、森にいる精霊たち。
そう、意識が覚醒し、目撃することになった鳩ぐらいのサイズの天使。あれが精霊だった。
その精霊たちが私に「サラ」と名付けてくれた。
でもファーストネームのみ。
ファミリーネームはなし!
成長した私は、自分の髪がシルバーブロンドであり、魔女特有と言われる銀色の瞳をしていることに気付いた。それは何というかとても神秘的だ。
ちなみに森で質素倹約な暮らしをしているので、手足も首もほっそりしている。前世はややぽっちゃりだったので、今の体型には満足だった。
唯一気になるのは……前世に比べ、バストがサイズダウンしていること。
まあ、魔女ですし、ドレスなんて着ませんから、胸はでかくなくても問題ないのですが。もう少しあるといいかなぁ~と。
ドレスの代わりに身に着けているのが、プラム色のロングローブ。その下に着ているのはアイリス色のワンピース。この二つは、プラムの実とアイリスの花を、精霊が服に変えてくれた。汚れにくく、破れることなく、とても丈夫。しかも成長にあわせ、サイズが変化する優れもの!
こんな服を作り出せる精霊は、魔法とは違う力を使える。彼らはその力のことを、ただ「力」と呼んでいた。その力を使える精霊は、植物の成長を促すことや、天候を変えること、物質を自在に操ることまでできる。
この力は基本的に精霊が使えるもの。ただ私にはギフトとして、風と雪を操る力をもらうことができた。プラス魔法を習い 、使えるようになった。
といってもこの魔法、生活に役立つような物が多い。風を使う浮遊魔法は、重い荷物を運ぶ時や入浴の準備に役立つ。温風魔法はドライヤー代わり!
私を育ててくれる精霊たちだったが、その別れは唐突にやって来た。十歳になる前、精霊から告げられたことがある。
「え、私が十歳になった瞬間に、みんなのこと、見えなくなってしまうの!?」
驚く私に精霊はアドバイスをした。
精霊が祝福した子ウサギと鷹の子を使い魔として仕えさせる。普段はウサギ、鷹の姿。だが私の魔力を与えることで、人に姿を変えることもできるというのだ。そしてどちらの姿でも、人間や魔女が理解できる言葉を話せる。
ウサギは雌、鷹は雄。
新しい私の家族として、彼らと暮らすといいと。
精霊たちの姿は見えなくなるが、寂しいことはないと言われたのだ。
前世記憶も持っているので、見た目は十歳でも中身はアラサー。それでも家族代わりだった精霊たちとの突然の別れは、猛烈に悲しい。
あの時の私はわんわん泣いて、泣き疲れ、眠ってしまう。そして十歳の朝を迎えた。
「よお、サラ。俺はホーク。仲良くしてくれよ」
「Hi! サラ。私はココ。よろしくね!」
鷹の子のホークと子ウサギのココ。
目覚めた私に元気よく挨拶をしてくれる。
しかも朝食を用意してくれていた!
こうして森の真ん中にある、青い三角屋根に煙突がついた我が家に、新しい仲間(使い魔)を迎えることになった。
始まった新たな日常。
ココもホークも。
最初の頃は本当に小さかった。
人の姿になっても、十歳の私と同じくらいだ。
三人で川の字になってベッドで休むこともあった。
でも私の成長にあわせ、ココもホークも成獣へと姿を変えていく。
ココはもふもふになり、ホークは凛々しい鷹に育つ。
必要に応じて人の姿になり、家事を手伝い、私の生活を支えてくれた。
でも一番は、ココとホークは私の家族ということ。
ふと精霊たちのことを思い出し、私が悲しそうにしていると。ココとホークは人の姿になり、私をぎゅっと抱きしめてくれる。
抱きしめられることで感じる温もりと、存在感。
それはとても強い安心感につながる。
一人だけど、一人ではない。
ココとホークは精霊の祝福を受け、永遠を生きることができる使い魔だが、私には家族も同然。
家族がいて、私は魔法も使える。
何も問題ない。
こうしてココとホークと共に過ごすこと十年。
私は二十歳になっていた。
お読みいただき、ありがとうございます!
次回は「 第2話:森でおじいさんを拾いました」です。
おじいさんを拾う……!?