18話:ほっこり心が温かく
馬を手に入れるため、村にある馬小屋へ向かった。
ここでは馬を借りたり、買ったり、馬車の修理なども請け負ってくれる。
正直。
森の中の生活で、馬との接点はゼロだ。
町へ行く時も魔法を使っていたので、馬のことは正直分からない。
一緒に馬小屋まで来たものの、どの馬にするかなどは、ランスに任せることになった。
ホークと待合スペースに向かい、私がベンチに腰掛けると、子供たちがこちらへやって来た。待合スペースと言っても、屋根はあるが、壁はない。さらに時計台前の広場に面している。広場で遊んでいた子供たちが、どうやら私に興味を持ったようだ。
「お姉さん、その瞳、すごく綺麗!」
「遊んで、遊んで、珍しい瞳のお姉さん!」
この時は一瞬、しまった!と思った。
ローブについているフードを目深に被り、瞳が見えないようにしていた。
でも子供は身長が低い。
下から見上げられたら、すぐに瞳の色の違いには気づかれてしまう。
だが子供たちは、魔女に会うのは初めてなのだろう。そして私のこの姿を、子供たちは気に入ってくれたようだ。
「遊ぶ。何をして遊ぶの?」
「このね、地面に書いてある丸は片足でジャンプするの。それで四角のところで両足でタッチするの」
三つ編みのおさげをした少女が、嬉しそうに応じる。つまりこれは、前世日本で子供の頃に遊んだことがある「けんけんぱ」と同じだ。
「踏み間違えたり、反応を間違えたりしたら、交代なのね?」
「そうなの~」
少女はこくこくと首を縦に何度も振る。
「よっしゃ。そんなの俺様に任せろ!」
「わーっ、お兄さんも遊んでくれるの~?」
「お兄さん、ハンサムだね~」
子供たちとホークと一緒に遊んでいると、空は次第に茜色に暮れてきた。そこに子供たちの母親が一人、二人と現れる。
「子供たちと遊んでくださり、ありがとうございます」
「お姉さん、お兄さん、また明日、遊ぼう!」
「僕はまだお姉さんとお兄さんと遊びたい~」
子供たちとのふれあいで、心がほっこり温まる。
その母親もみんな、笑顔でお礼の言葉を口にしてくれた。
「魔女に会ったことがないから、こんなに普通に接してくれたのね」
「サラ、それは違うと思うなー。俺だって、金色の瞳だぜ。でも子供もその母親も、何も言わなかった。嫌な顔を一つしていない。村の人間なんて、閉鎖的かと思ったけどさ。子供と仲良く遊んでいたから、警戒心も解いてくれたんじゃないか? 人間と普段接することは少ないけど、やっぱみんながみんな、悪い奴じゃないんだよ」
そうか。
それは……そうよね。
例え私が魔女ではなく、人間としてこの世界に転生していても。その一生を終えるまでに、人間関係で悩むことがないのかというと……。
そんなわけはないだろう。
魔女であろうと人間だろうと、たまたま悪い人物と知り合えば、嫌な思いをするのは避けられない。つまり人間がみんな悪い人ばかりではないというホークの言葉は、真実だ。たまたま悪い人間と接することになっても、それで人間を嫌いになるのは……。
そこへランスが戻ってくる。
「いい馬を手に入れることができました。ところでサラは、乗馬はできるのですか?」
「魔法でなんとかします」
大丈夫。多分、できるはずだ。
ちなみにホークは野生の勘で乗りこなせるはず。
「分かりました。では夕ご飯にしましょうか」
ランスがニッコリ笑顔になった。
◇
宿の近くのレストラン兼居酒屋に三人で向かった。
出された料理はこれ。
野菜たっぷり、肉はひとかけらのシチュー。
三種類の豆のサラダ。
酸味のある黒パン。
黒パンは硬いが、シチューに浸して食べるとちゃんといける。ずっしりとしているから、腹持ちもよかった。
我が家では魔法で作った小麦畑があったので、贅沢にも白パンを食べていた。だがこうやって久しぶりに食べる黒パンも、おいしく感じる。
「美女一人に美男子二人。旅のお三方はどのような関係で?」
少し酔ったおじさんが話しかけてきた。
「彼女は僕の妻で、彼は護衛です」
「!?」
「ほうほう、なるほど。ワイルドな兄ちゃんは護衛か。そしてお兄さんは……なんだか品のある顔をしているねぇ。もしかして貴族さんかい?」
「まあ、そんなところです」
ランスは何を言っているの!?
驚いてその顔を見ると、目で合図が送られてくる。
「とりあえず何も言わず、合わせてください」と。
「……もしや新婚か?」
「その通りです」
「!?」
「ひょーっ。いいね。おい、マスター、こちらの新婚さんに、オレのおごりでビール出してやってくれ!」
酔っ払いのおじさんがそう言うと、すかさずランスは、自身がまだ十八歳だと告げる。
「なんだ、なんだ。若い新婚さんで、しかもほやほやときた! こうなったら、あれだな、あれを、おいマスター、あれを用意してくれ!」
ひとまずビールとジュースで全員乾杯。
ホークも勿論、ジュースだ。
「まあ、楽しんでくれや!」
乾杯を終えると酔っ払いのおじさんは、自分の席へ戻った。
「何も言わずとも大丈夫です。説明します。もしサラが独身だと分かれば、つきまとわれた可能性もありました。面倒ごとは、避けないといけませんよね」
それは確かにその通り。
「ひとまず既婚者だと分かると、おごるだけで去ってくれました。根は悪い人ではないのです。ただ酔っぱらうと、未婚女性に絡みたくなる……という男はそこそこいるので」
そういうことですか!と納得するのと同時に。
カモフラージュで夫婦のフリをされたことに、なんだかモヤモヤする。
「それなら旦那役は、俺でもよくないか?」
ホークがジュースの入った木製のタンブラーを、ダンッとテーブルに置いた。
「! それは否定しません。ですがここは社交に慣れている僕に任せていただきたいです」
「えーっ、俺だってうまくやれる。次は俺がサラの旦那役!」
「もう二人とも、落ち着いてください!」
そこに酔っ払いのおじさんのおごりの「あれ」が届く。
「あれ」の正体。
それは……。
ニンニクの丸ごと一個の素揚げだ!
前世では、居酒屋や焼き肉屋で人気のメニューだ。
ニンニクはほくほくして、塩だけで美味しくいただける。
「これは初めて見ました。どうやって食べるのですか?」
「サラ、分かるか、これの食い方!」
「任せて。これはこうやって……」
三人で岩塩をつけ、揚げたてのニンニクを食べ「旨い!」と大満足。
離れた席の酔っ払いのおじさんとその仲間が、手を振ってくれた。
人間と関わりを持ちたくないと思っていたけれど。
見ず知らずの私たちに、こんな風に接してくれるなんて。
森の中で引きこもってばかりではなく、もう少し、村にも足を運べばよかったかもしれない。
美味しいニンニクのほくほくとした素揚げと同じように。
心もほっこりした。
お読みいただき、ありがとうございます!
ほっこり(*´꒳`*)
次回は「第19話:またも勘違いされています!」です。
「ところでサラ、なぜ新婚向けにニンニクなんですか?」
「「ええっ!?(知らないの!?)」」(ホーク&サラ)