14話:え、誰に!?
「おい、サラ。雪、降っているぞ」
「え」
ホークの言葉に窓の外を見る。
確かに雪が降っていた。
私の力で降らせたわけではない。
自然現象で降る雪だ。
「殿下が出て行って、どれぐらい経ったかしら?」
「あー、それな。俺とココで朝食の後片付けをして、洗濯物を干して、水やりもして、部屋の掃除をして、ベッドメイキングもした。もうすぐ昼になる」
「え、嘘! そんなに時間、経っているの!? それにそんなに家事をやらせていたの、私!?」
衝撃を受け、椅子から立ち上がり、窓の外を見る。
今朝は冬晴れだったのに。
今は曇天が広がり、冬を知らせる雪が、はらり、はらりと舞い落ちてきていた。
「まあ、人型には自力でもなれなるからな。それで家事はまるっと終わらせておいた。 だってサラ、腑抜けになっていたから、じいさんが出て行った後。椅子に座って、頬杖をついて、ため息ついて、ぼーっとしてさ。なんて言うんだ? まるで恋煩い、みたいな」
恋煩い!?
前世では、異性とは手をつなぐのが限界で、キスもそれ以上も経験のない私が、恋煩い!?
え、誰に!?
「サラ、大変よ~!」
ぴょこ、ぴょことココが外から戻ってきた。
「どうしたの、ココ?」
「なんだかランス、悲壮な顔をしていたでしょう。心配だから後を追ったの。そうしたら……」
ランスは歩いているうちにどんどん体が老化していった。腰が曲がり、手足もやせ細り、斜め掛けしていたカバンが重たそうに見える状態になっている。
するとランスは食料の入ったそのカバンを放棄した。次に水袋も捨てた。そこから少し進むと、巨木の根元に座り込んだ。背中を大木に預け、目を閉じ、動かなくなったと言うのだ。
「え、い、生きているのよね!?」
「生きている……と思うわ。でも雪も降って来たでしょう。このままだと凍死するかもしれないわ」
「!」
転移魔法を使い、すぐに移動を開始する。
この魔法は移動した距離の分だけ、魔力を消耗するので、普段は箒に乗って移動する。
でも。
ランスが朝食の後、我が家を出て約三時間。
箒でちんたら移動している場合ではないと思った。
「ココ、この辺り!?」
転移魔法でココが言う方角に転移した。
早速抱えていたココを地面に下ろす。
ココは鼻をひくひくさせている。
使い魔ではあるが、ウサギの姿のココは、その嗅覚が人間の十倍はあった。
「そう、ここだわ。あ、ほら、あっち」
走り出したココを、上空からホークが追う。
鷹の視覚は人間の八倍近いと言われていた。
ホークが一番早く、ランスを見つけられるはず。
「サラ、見えたぞ!」
「本当に!?」
「ああ。じいさんだな、あれは」
「生きている!?」
「生きて……さすがに鷹の目でもそれは……あ、でも呼吸している。わずかに胸が前後しているように見えた。これは……寝ているな」
その言葉に心底安堵する。
だが。
「おっと。イノシシがじいさんのところに向かっているぞ」
「!? ホーク、先に行って、牽制して。人型になれる!?」
「なれるけど、武器がない」
……!
ホークは空を飛べる鷹だから、すぐに移動できる。
ここで人型になれば、私と変わらない。
でも鷹のままでは、武器を出しても所持できない。
「じゃあ、イノシシがランス殿下のそばに近づけないよう、牽制だけして」
「了解!」
こうなるなら箒を持ってくればよかった。
「サラ、転移魔法は?」
ココが走りながら、私を振り返る。
さすがウサギ。足が速い!
「使いたいけど、帰りの分の魔力を残したいの。それにランス殿下は体が冷えているはずよ。すぐに入浴の準備もしたいし」
それにイノシシを追い払うため、多少強力な魔法を使う必要もあるかもしれなかった。
むやみやたらに魔力消費が多い転移魔法を使うことはできない。
さらに駆けていくと、ココが言っていた通りで、カバン、水袋が放棄されている。
ランスはどんな気持ちで、命綱になる食料と水を手放したのだろう。
彼は真実の愛を見つけると、家を出て行ったはずだ。それなのに……。
「ほら、見て、サラ。あそこにいるわ!」
ココの声に巨木が目に入り、確かにその根元にランスが……おじいさんがいる!
せっかく元の姿に戻ったのに。
どうしてまたおじいさんに戻ってしまったの……?
「キイーッ、キーッ」
ハッとしてホークの声の方を見ると、かなり大型のイノシシが、おじいさんの方へ向って来ている。
ホークが牽制しているが、全く相手にしていない。
どうやらイノシシの相手は私がするしかないようだ。
イノシシは屈強だけど、弱点がある。
それは鼻。
敏感な部分だ。
ホークの牽制が効かないなら、そこを狙うしかない。
「氷魔法。風華冷却」
イノシシの鼻をピンポイントで狙った魔法を発動。
敏感な鼻を直撃した突然の氷の塊。
しかもその塊が鼻を覆い隠すような状態だ。
イノシシは驚き、慌てる。
さらに北風を吹かせると、こちらへ来ることをやめ、Uターンしてくれた。
「ランス殿下! おじいさん!」
すぐに木の根元で微動だにしないランスに声をかける。
反応はない。
手首に触れるが、脈が弱い。
ぐっと奥歯を噛み締める。
初めて会った時と同じだ。
衰弱している。
さらに前回より状況が悪いのは、今は夏の終わりではない。
雪がちらついているのだ。
触れた体は冷たくなっている。
「ホーク、ココ。ランス殿下を連れ、家へ帰るわ。転移魔法を発動させるから、こっちへ来て!」
お読みいただき、ありがとうございます!
冷え切ってしまったおじいさんランスの体。
次回は「第15話:もう、二度とは会えない」です。
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