119話:いよいよその時が
以前、ロディに案内された広大なホール。
片面はガラス窓で、その左右の壁が鏡になっているため、ホールがさらに広く感じる。
今日は華やかな舞踏会に合わせ、生花が飾られていた。タペストリーも舞踏会を描いたゴージャスなものになっている。
そして天井は高く、二階まで吹き抜け。その二階には室内バルコニーがある。今回はこのバルコニーで待機し、国王陛下の合図に合わせ、ホールにいる招待客たちに姿を見せることになっていた。ターニャとマーク団長、ホークとココも、ホールで見守ることになる。
「儀礼的なものです。緊張する必要はありません。既にサラの活躍……僕を森で助け、呪いを解き、ターニャと和解する算段を立ててくれた。先の王宮での火災、その後の修復もサラは手伝っており、それが新聞記事にもなっています。美談として王都で語られているので、皆、好意的に見てくれいます。何も心配せずで、大丈夫ですよ」
ランスに励まされ、まずは爵位の授与に臨む。
ファンファーレと共に国王陛下がバルコニーに登場し、ホールにいる大勢の招待客から拍手が起きる。
国王陛下は頭上に王冠をいだき、白いファーのついた濃紺のマントをつけ、その下は青い軍服を着用していた。キリッとしたその姿は、若々しいが貫禄もある。
舞踏会の開催の挨拶の中で、ランスの帰還について国王陛下は発表。
正式に呪いも解け、かつ大魔法使いとして覚醒したことが伝えられ、一斉に拍手が起きる。さらに新しい王室付き魔法使いとしてターニャが紹介され、ホールにいた彼女は優雅にお辞儀をした。
続いてはランスが言った通りで、私の活躍が伝えられ、そして爵位の授与となった。
「……以上の活躍を踏まえ、彼女にはベラトリクス姓を与え、侯爵位を授ける。紋章とこの剣を受け取るがいい」
腰を低くし、両手でまずは剣を受け取り、それを控えている侍従長に渡す。それから紋章が彫られた指輪を受け取り、完了だった。
「次に、この美しいサラを我が息子は王太子妃と定めた。すなわち、ランス・エドワード・エヴァレットは、サラ・ミレナ・ベラトリクスと本日をもって正式に婚約することになる。二人の門出をぜひ、祝って欲しい」
ここは私の手をとるランスと共に、ホールにいる貴族たちに向けてお辞儀をする。
一斉に拍手が起こり、婚約発表もつつがなく終わった。
「それでは最初のダンスを始めてもらおうか。ランス、サラ、二人にお願いしても?」
「「はい」」
ランスにエスコートされ、一階のホールへ降りて行く。
「サラ、緊張しましたか?」
「バルコニー席にいたからでしょうか。思いのほか、緊張することはありませんでした」
「それは良かったです。ダンスも演奏が始まり、踊りだせば、いつも通りですよ。体がダンスを覚えていますし、大丈夫です」
私の緊張をほぐすために。
ランスはいつも適切なアドバイスをしてくれる。
彼が一緒なら問題ない。そう思えた。
ホールの入口の扉の前に到着。
バトラーが扉を開けてくれる。
扉からホールに入ると、ダンスエリアの中央へ移動できるよう、招待客が道を開けてくれた。そこを通り、遂に中央へ到着。ランスと向き合うことになる。
ランスの碧眼がシャンデリアの明かりを受け、キラキラと輝いていた。
微笑を浮かべ、そして「サラ、楽しみましょう」と言ってくれる。
同時に。
曲が始まった。
◇
ダンスはなんだかあっという間だった。
今日までの間、時間を見つけてランスとはダンスの練習を行っていたというのもある。いつも通りで踊ることで、失敗もなく踊ることができた。
ランスと私がはけると、ダンスエリアに貴族たちが移動し、ざわざわとした雰囲気の中、音楽がスタートした。一方のランスと私は貴族達に囲まれ、挨拶タイムとなる。侍従長がそばに来て、順番に貴族達を紹介してくれた。
しばらく挨拶タイムだったが、リフレッシュでもう一度ランスとダンスをするよう侍従長から勧められ、ダンスエリアに向かう。するとホークとココがダンスをしていてビックリ!
ホークはダンスを習っていたが、まさかココが踊れるなんて!
驚きだった。
ダンスの後はまた貴族達を紹介され、挨拶をしての繰り返しだったが「休憩にしましょうか」と侍従長が提案してくれた。知らない人に気を遣いながらの挨拶は、想像以上に疲弊する。一旦控え室へ向かうことになった。
ソファに並んで座ると、すぐにメイドが飲み物を出してくれる。テーブルには軽くつまめるフルーツやスイーツもあるので、喉を潤しつつ、小腹を満たす。そこまで動いた自覚はないが、なんだかで食べられてしまう。
「これだけ正式な舞踏会は久々だから、さすがの僕も少し疲れました」
そう言ってランスは笑うと、私にチェリーを食べさせてくれる。
温室で栽培されたチェリーは甘みが強い。
「あともうひと頑張りだよ、サラ」
ランスのキスと笑顔に励まされ、束の間の休憩を終えると、ホールへ戻ることに。
この後、ホールでとんでもない出来事が待ち受けているとは……この時の私は想像もしていなかった。
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次回は「第120話:これから幸せに」です。
幸せの前に、何かが起きる!?






















































