113話:会いに行こう、彼女に。
王妃、弟、王室付き魔法使い。
この三人が共謀していた。
彼らにより、僕の婚約者、母上、ホーク、そして北の魔女ターニャが命を落とすことになった。父上は辛うじて生きている。だがポーションでもなければ助からない。それだけではない。あの火災で使用人や兵や騎士だって亡くなった可能性がある。
なぜこんなことに?
王妃と王室付き魔法使いは昔、出会っていた。
二人は恋仲だった。
だが王室付き魔法使いなのだ。結婚相手はそれに相応しい者にしろと父上が反対した。
だから復讐を決めた?
この国を乗っ取ることにしたのか?
そのために、母上がまず犠牲になった。
次いで父上が……。
きっとターニャは脅されたのだろう、ソルモンにでも。
父上……陛下を人質にとったから、命令に従えと。
そしてターニャは王宮に火を放ったのでは?
ホークは火柱に近づき過ぎたのか、ソルモンに見つかったのか。
そして僕の婚約者……サラは……。
サラは……。
――「ランスを助けたりしたから。可哀想に。天に召されることになってしまったのね」
僕と出会わなければ、サラは命を落とすことはなかった。
あの平和な森で、ココとホークと三人で、幸せに暮らせた。
サラは人間が嫌いだと言っていた。
森の外に出たがらなかった。
それなのに僕が……彼女を森の外へ連れ出し、そして……。
守ると決めたのに。
そのために魔法も覚えたのに。
魔法があれば守れると思ったのに。
悲しみと怒りで、頭が爆発しそうだった。
もっと強い魔法があれば。
僕がもっと強い魔法を使うことができたなら……。
ドクンと心臓が大きく脈打つ。
急速に体内で何かがみなぎり、力強くなるように感じた。
「さて、我が愛しき人よ。おしゃべりは十分ですか」
「ええ、ソルモン様、満足しましたわ。ランスも絶望しているようですし、もう消していただいて構いません」
消す=僕の命も奪うつもりか。
「どのように消しますか?」
「そうね、ソルモン様。跡形もなくなるよう、消し炭にするのはどうかしら?」
「母上、ボクもそれがいいと思います」
ドクンと再び心臓が大きく反応し、僕は俯いた状態から顔を上げる。
「……なんだか言い知れぬ魔力の反応を……感じます」
「え、何をおっしゃっているの、ソルモン様。ここにはわたくし達以外、あの無能な王太子しかいないはずですよね? まさかターニャが生きているのですか? あんな氷漬けの状態で?」
三人が一斉に後方を向いた瞬間。
「石魔法。石化拘束」
完璧だった。
王妃、弟、王室付き魔法使い。
三人は見事な彫像になった。
王室付き魔法使い。
名ばかりだ。
僕のような素人の手で呆気なく石化するなんて。
そこからは不思議なことに、父上に必要なポーション、そしてそれを作るために必要な薬草や鉱石や素材がすぐに頭に浮かんだ。そしてそれらを召喚し、道具なくしてその場で調合し、それを父上に飲ませることもできた。
「ランス……」
父上がしっかりと目を開け、体を起こそうとするのを助ける。
「!」
石化した三人を見て、父上が固まる。
「あの三人は……」
「僕が石像に変えました。でも魔法はいつでも解除できるので大丈夫です」
「今のあの状態では」
「ただの石です。何もできません」
「そうか。……他の者は……?」
そこで父上はすぐそばで仰向けになっているサラに気が付く。
「……! これは、一体、どうして……!」
父上がサラの様子を確認するのを見て、頭が真っ白になりそうだった。
でも、今は……。
王宮の火災はまだ収まっていなかった。
魔法を使い鎮火。
さっきサラと分担して風と水魔法を使っていたが、今は一人で同時にできた。
しかもさっきより水量といい、風の強さといい、より強い状態で行使できたと思う。
火はあっという間に消すことができた。
次に氷漬けになっていたターニャの魔法を火魔法で溶かす。
ぐったりと僕に倒れ込んだ体を抱き上げ、サラの所へ向かう。
これから……どうすればいいか。
ターニャの遺体は一旦騎士に任せよう。
父上も保護してもらう。
そして僕はサラを連れ、帰ろう。
彼女が生まれ育った森に。
そこに……そうだ、ココが待っている。
ココはホークとサラの変わり果てた姿を見て、どう思うだろう?
こうなったのは僕のせいだと、僕に食って掛かるだろうか?
しばし胸の痛みに呼吸ができなくなる。
二人を森の見晴らしのいい場所に埋葬し、それが終わったら……。
会いに行こう、サラに。
君を失ったこの世界にとどまる理由なんてない。
父上は生きている。
国王は健在。
ならば王宮が燃え落ちても復興はできるはずだ。
それに父上ならまたやり直せる。
再婚し、子供を授かり、その子がこの国を継いでくれるだろう。
だから大丈夫。
僕はサラの元に逝ける。
魔女は何もなければ数百年と千年とも万年とも生きられるはずだったのに。
僕のせいで……。
視界がぼやけて見える。
「殿下、大量の涙が降ってきて、あたし、溺死しそうですわ」
「……ターニャ、君、生きていたのですか?」
「当然です。あたしを誰だと思っているのですか? これでも魔女の始祖の一人です。あれぐらいで簡単にくたばってなるものですか。さあ、もう大丈夫です。下ろしてください」
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次回は「第114話:そんな泣き顔ではダメですよ、殿下」です。
「……もうサラのあの銀色の瞳に僕が映ることはないですから。どんな顔であろうと構いません」






















































