112話:悪夢のような告白
「つくづくおバカさんな殿下ね。あたしが何の魔法を得意としているか、忘れたのかしら?」
「まさか……この火災は君が!?」
「氷魔法。氷結拘束」
ターニャの裏切りを知り、衝撃を受けた瞬間。
サラが氷魔法を詠唱した。
するとターニャの全身が氷で覆われる。
それは一瞬の出来事。
ハッとしてサラを見た。
いつもの輝くような銀色の瞳が、炎を映して赤く燃え、別人のように思える。
もしやホークが……。
その怒りでターニャを……!?
「光魔法。光輝一点」
強力な光魔法は、目つぶしになる――そう、サラの部屋にあった書物で読んでいた。
慌てて目をつむり、さらに手で目を隠す。
それでも光を感じ、数秒の後に目を開けると……。
「え……」
王宮の方からこちらへ歩いてくる者がいる。
母上……王妃、ロディ、そして父上を担ぐソルモン。
ソルモン!
どこへ姿を消したのかと思ったが、家族を助けてくれていたのか。
「サラ、みんな無事だっ」
サラは仰向けに倒れていた。その横にホークの体が転がっている。
もしやさっきの光魔法は大技だったのか!?
全て魔力を使い果たした……?
片膝をつき、地面に跪き、サラの両肩を揺するが不自然さを感じた。
心臓がドクンと嫌な音を立てる。
「サラ……?」
震える手でサラの呼吸を確かめる。
……!
「サラ!」
その胸に耳を当てるが……。
心音が聞こえない。
「殿下。象さえ吹き飛ばす風魔法が直撃したのです。生きていませんよ」
ソルモンの声にゆっくり上半身を起こし、彼の顔を見る。
氷のように冷めた目で僕を一瞥したソルモンが、担いでいた父上を物のようにこちらへ投げた。
慌ててその体を受け止めた。
父上の額からは血が流れ、「ううっ」と呻き声が聞こえる。
「父上……!」
咳き込んだ父上の口から、血が噴き出る。
「折れた肋骨が肺に刺さっているかもしれないわよ、ランス。呼吸が苦しそうね。お可哀そうに」
どこか他人事のような発言をする王妃……母上の顔を見て、震撼する。
笑っているのか……?
「兄上はまだ何が起きているか分からないようですよ。幸せな人ですね。このまま何も分からずに逝かせるのと、全て話して逝かせるのと、どちらがいいのですかね?」
「ロディ。それは当然、絶望を与え、苦しんだ後に逝かせるべきですよ。魔法使いを我が物顔で使役する王族への、いい罰になる」
ロディとソルモンは一体何を話しているのだ……?
「ではお可哀そうなランスに全てを教えて差し上げましょう。一番衝撃的な情報から」
母上は蔑むように僕を見下ろすと、ニヤリと口角を上げた。
「あなたの母上に毒薬を飲むよう追い詰めたのは、わたくしですのよ。飲まなければ、ランス、赤ん坊だったお前を殺すと言ってね。あの女は迷うことなく、毒を飲んでくれました」
な、に……?
「わたくしが幼い頃に出会った魔法使いは、ソルモン様だったの。彼は今と変わらぬ姿でわたくしの前に現れ、その心を奪っていったのよ。将来、ソルモン様と絶対に結婚すると決めたわ。それなのに……。ランス、お前の父上が反対したのよ! 我が家の身分が低いからと言って!」
身分が低い? 公爵家の令嬢なのに?
「この時、ソルモン様を縛るエヴァレット王国を心底恨んだわ。復讐をしてやると決めたの。それから公爵令嬢の身分を手に入れた。ソルモン様も協力してくれてね。本物の公爵令嬢はどうなったかって? それはねぇ、大いなる犠牲よ。実の娘を亡くし悲しんでいた公爵夫妻は、私をすんなり受け入れたわ。そして成長した私は死んだあなたの母親の代わり、後妻としてこの国の王妃に収まったの」
王妃は……ソルモンに身を寄せる。
「もう王家に入り込めたら、後はもう楽園ね。好きな時にソルモン様との逢瀬を楽しめた。その一方で、ちゃんと憎い男の子供も授かった。あんな男の子供とは思えないぐらい、ロディは可愛い子よ」
王妃は手を伸ばし、ロディはその手を取ると、甲にキスをしている。
「後は邪魔な王太子を排除して、ロディが王太子になればいい。陛下はランスを失い、ショックを受け、自死。わたくしはソルモン様と再婚する。こうしてエヴァレット王国はわたくしの手中に収まるはずだったのに。どこから計画は狂ってしまったのかしら?」
ロディのキスが終わると、王妃はその手を頬に添え、首を傾げる。
「ああ、そうね。そちらの魔女のせいよ! ランスを助けたりしたから。可哀想に。天に召されることになってしまったのね」
僕のせいで、サラが……?
「母上、大丈夫ですよ。計画は大幅修正されただけで、すべて上手く行っています。王宮で起きた突然の火災。犯人は北の魔女ターニャ。改心したフリをして宮殿に乗り込み、挙句の果てに火を放った。この火を恐れ、使用人も兵も騎士もみんな避難。でも果敢な兄上とその婚約者の魔女は、鎮火に取り組んだ」
みんな避難……。つまり今のこの罪の告白を聞いているのは、僕だけということ。
「兄上と婚約者は善戦し、火災はほぼ食い止められた。ところが、兄上の婚約者はターニャに返り討ちにされ、死亡。ショックを受けた兄上は後を追う。陛下は既にターニャに害されていた。ソルモン殿はターニャに陛下の命を奪うと脅され、身動きできなかった。でも陛下が死亡し、ターニャを倒し、ボクと母上を救ってくれた」
ロディは……この悪魔は何を言っているんだ……!?
「ソルモン殿は国の英雄だ。傷心だった母上はソルモン殿に励まされ、支えられ、再婚を決意。ソルモン殿は王位に就き、ボクは王太子になる。完璧ですよ、母上。そうでしょう、ソルモン殿!」
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次回は「第113話:会いに行こう、彼女に。」です。
裏切りと悲劇の連鎖にランスは……。






















































