109話:つい……
「サラ!」
部屋に来たランスは白の寝間着に濃紺のガウンを着ているが、髪はなんだかしっとりしている。どうやら早く私に会いたくて、髪はしっかり乾かさないで来たようだ。
「ランス殿下、髪を乾かすので、こちらへどうぞ」
メイドさんが出て行き、ランスをドレッサーのチェアに座らせた。
そして風魔法を使おうとすると。
「サラ、自分でやってみたいです」
そう言うとランスは立ち上がり、私を軽々と抱き上げ、ドレッサーに座らせる。
「顔色がよくなっていますね。表情も明るいです。……ポーションを飲んだのですか?」
ランスが私の頬にそっと触れる。
「はい。どうもデザートワインを飲み過ぎ、酔っていたようなので……」
「では少し、魔力をもらってもいいですか?」
トクンと胸が高鳴る。
「はい」と少し照れながら答えると、そのまま両方の頬を包まれ、軽く顔を上向きにされた。そのまま瞼を閉じると、ふわりとランスの唇が重なる。
お風呂上りのランスの唇は普段より温かい。
潤いもあり、吸い付くような触れ心地。
どんどん心拍数が上がり、体温も上昇し、そして――。
ランスの細い指が髪に絡む。
お互いに息が上がる様子が伝わって来る。
ガタッと音がして、ランスの唇が離れた。
片手でドレッサーの鏡を掴み、肩を上下させながら、ランスが大きく呼吸を繰り返している。
「……サラ、ごめんなさい。ちょっとだけと言っていたのに、つい……」
「へ、平気……です」
全然平気ではない!
ものすごく興奮しているし、鼻血でも出ないか心配なぐらいだ。
ここでセーブしてストップできるランスの精神力の強靭さに脱帽。
以前、心の強靭化計画なんてやったものだが、もう不要ではないかしら!?
何しろ現在十八歳。
勢いに任せて――とならないところが、さすがランスだと思う。
彼の理性もイケメン過ぎて、キュンとしてしまう。
「!」
ぎゅっと抱きしめながら、ランスが私に問いかける。
「……あの明かりのない暗い部屋で、何もなかったですか。ロディは……僕の弟ですし、信頼しています。ロディが言ったことを疑うわけではないのですが……。不自然過ぎて。暗い状態ではそこに何があるのか、誰がいるのか分からないと思います。扉を開けた状態で踏み込むのが妥当です。そうすれば隣室の明かりが届くので。それなのに扉は閉じられていたのです……」
そこでランスが少し体を離し、私の顔を優しく持ち上げる。
「弟を疑うなんて、兄として最低かもしれません。ですがサラの様子も少しおかしく感じてしまい……。言いにくいだろうと思い、聞くことにしたのですが、答えにくければ、無理に話す必要はないですよ」
……!
ランスは勘が鋭いと思っていたが、気づいていたのね、私の表情の微妙な変化に。
彼の有能さに胸が熱くなる。
ロディの件を話すか、話さないか。
迷っていたが、その必要はないようだ。
ランスが気づいているのなら、ここは話した方がいいだろう。
「ランス殿下、ありがとうございます。私から話すべきか悩んでいました。でも殿下から聞いて下さったので、何が起きたか話そうと思います。……ですがその前に髪を」
「! そうでしたね」と言うと、ランスは当たり前のように呪文を唱える。
「風魔法。温風乾燥」
ランスの髪の周囲で温風が踊っている。
「この魔法はサラが何度も使うのを見ていたので、覚えていました。便利な魔法ですよね。生活に役立つ魔法」
すっかり髪は乾き、いつものサラサラのブロンドになった。
「ではサラ、話を聞かせてもらえますか」
「はい。……ではランス殿下。ベッドへ連れて行っていただけますか」
「喜んで、僕の姫君」
さりげないランスの胸キュンな言葉に、テンションが上がる。
そのまま抱き上げられ、ベッドに下ろしてもらう。
ベッドボードにクッションと枕を並べ、そこに二人で並んでもたれるようにして、王妃と二人でおしゃべりを始めたところから、ランスに全てを話した。
途中、相槌を打ち、でも言葉を挟むことなく、最後まで聞き終えたランスは絶句している。そして何度か何か言いかけ、考え込み、そして――。
「……サラ、申し訳ないです。ごめんなさい。僕の身内が……弟がそんなことを……怖かったでしょう」
そう言うと私のことを、ランスはぎゅっと抱きしめる。
「もしやと思い出し、あの隠し部屋に向かって……良かったです。取り返しのつかないことになっていたかと思うと……」
「ランス殿下、そこは大丈夫です。魔法を使える状態だったので」
「そうではあったとしてもです!」とランスはさらに私をぎゅっと抱きしめながら、こんなことを語りだす。
「ロディは……僕とは二歳しか離れていません。よって弟は自分自身と僕を同等のように考える傾向がありました。僕ができることは自分もできると考えるというか……。よって僕が乗馬を始めれば、弟も『僕もやりたい』となるのです。その結果、ロディはその年齢にしては、いろいろとできるようになり、『優秀だ』と皆から褒められていました」
褒められることで、すべてにおいてランスに追いつこうと、ロディは頑張りすぎることが多々あったという。
「今回の魔法もそうだと思います。特に母上は、魔法に強い関心を持っていたので。……以前少し話した通り、僕を産んだのは今の王妃ではありません」
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次回は「第110話:あのことを伝えることに」です。
様々な秘密が明かされていく――。
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