107話:お楽しみの時間(3)
「お義姉さま、大人しくボクにも魔力をください」
魔法を使いたいから。
魔力が必要だから。
そして私が魔女だから――。
魔力を得ても、普通はそのまま体内から流れ出て、魔法を使えない――そう、ターニャは言っていた。ランスだけが特殊なのに。それを知らないロディは魔力を手に入れ、すぐに呪文を詠唱すれば、魔法を使えると勘違いしている!
そして私をただ、自分のためだけに利用しようとしていた。
最後の悪あがき。
動かない体だが、まずは右腕をだら~んとカウチから下す。
体重を右側にかけることで……。
「!? お義姉さま!?」
私の上半身はずるずるとカウチから落ちていく。
頭と背中がふかふかの絨毯に触れる。
一度上半身が落ちれば、下半身も引きずられていく。
重力に従い、ゆっくりカウチから私の体が落ちていった。
ロディは止めようとするが、ランスに比べると非力なようだ。
よし、口が自由になった。
魔法を使うわよ!
「くそっ。カウチだから……。客間のベッドに運べば良かった」
ロディが悪態をつき、カウチから降りたその時。
「風魔ほ」
「「サラ!」」
室内にいきなり明かりが差し込み、眩しさに目を閉じる。
「ロディ!?」「兄上!」
ランスとホークの声に涙が出そうになる。
「そんな暗闇で何をしている、ロディ?」
「兄上。お義姉さまを見つけました。お義姉さまはこの部屋で、母上とお酒を飲んでいたようです。ほら、テーブルにグラスやフルーツとチョコレートが載ったお皿が残っているでしょう」
ロディは、ランスやホークの視線がテーブルに向かっている間に、私のめくりあがったスカートを手早く直した。
「母上はお酒をあまり飲まないから、一足先に部屋に戻り、お義姉さまはそのまま一人で飲み続けて、このカウチで眠ってしまったようです。部屋の明かりはお義姉が消したようですね」
「なるほど」
そこで部屋が急に明るくなり、目を開けられなくなる。どうやらロディとランスが会話し、その間にホークが明かりをつけてくれたようだ。眩しくて、目を開けていられない。
「……! カウチで寝ていたのではないのですか!?」
「カウチはベッドより狭いですからね。どうやらお義姉さまは寝相がよくないのでしょうか。ボクが見つけた時は、この状態でしたよ」
寝相がよくない!? 失敬な!
!?
ロディが私を抱き上げた。
さりげなくアンダーバストに手が触れているし、嫌悪感を覚え、暴れると――。
「サラ、気が付きましたか!? 姿が見当たらないので、どこに行ったのかと探したのですよ! 宮殿はとても広いので、通い慣れている貴族でも迷います。無事で良かったです」
ランスがこちらへ駆け寄り、私は「ランス」とその名を何とか呼ぶ。
でも声は掠れ、なんだか甘えているようになってしまう。
「ロディ、サラを見つけてくれて、ありがとうございます。助かりました。僕が彼女を部屋に運びます」
「ええ、そうしてください、兄上。兄上の大切な婚約者ですからね」
ようやく安心安全のランスに抱き上げられ、安堵することができた。
大好きな爽やかなランスの香りに、帰るべき場所に帰ることができたと安心する。
その胸に顔を寄せ、首に回した腕に力を込める。
「サラ、どうしたのですか、そんなに甘えて……。酔っているからですか? なんだか可愛らしいですね」
甘々なランスの声に、さっきの恐怖が幾分か和らぐ。
というか、ロディはなんて大嘘つきなのかしら!
よくまあ、しれっと嘘を並び立てて!
「ランス殿下、サラは見つかったから、部屋に戻るか?」
「そうですね、ホーク。戻りましょう。ロディ、本当にありがとう。助かりました」
「いえ、御礼には及びませんよ、兄上。お義姉さまはボクにとっても新しい大切な家族ですから」
こうして私はランスの腕に抱かれ、部屋を出ることになる。
「では兄上、サラ様、ホーク殿、おやすみなさい」
「ああ、おやすみ、ロディ」
「おやすみなさい、ロディ殿下」
「……」
私はまだ半分寝ている状態を決め込み、ロディを無視。
ランスはホークと並んで歩き出す。
「しっかし、なんであんな隠し部屋で、王妃とサラは飲んでいたんだ!?」
「ああ、それはですね。男性には遊戯室があるのに、女性にはそれがないからですよ。そこで代々の王妃が女性だけでのお楽しみ――つまりはお酒を女性同士で楽しむ時に、あの部屋を使うんです。男子禁制にして」
そうだったのね。
あの部屋に入る時、扉は開いていたので、隠し部屋のイメージはなかった。
でももしかするとドラマや映画のように、壁にしか見えないスライド式の扉になっていたのかもしれない。
「でもさらは僕と一緒にいる時にお酒を一度も飲んだことがなかったので、まさかあの部屋にいるとは思わず……。母上も入浴中だったので話を聞けなかったのも失策でした。大騒ぎして申し訳ありません」
「いや、そんなことないさ。サラは殿下の婚約者だ。姿が見えないとなって、そうやって探す姿を見て安堵したよ。……しかしサラも酔いつぶれるなんて。王妃が飲ませ上手なのか」
そんなことを話しながら廊下を進むと、どうやら私の滞在する客間に到着したようだ。
「俺の部屋あっちだから。殿下、サラを頼んだぞ」
「はい。ありがとうございます、ホーク」
「いやいや俺はなんもしてないから。じゃあ、サラ、お休みな。殿下、おやすみなさい」
「ええ、お休みなさい。ゆっくり休んでください」
ホークと会話を終えたランスが部屋の中に入る。
ようやく部屋に戻れた……!
お読みいただき、ありがとうございます!
次回は「第108話:待ってください」です。
……恥ずかしくてランスの顔を見ることができない!






















































