99話:一つの可能性
マークたち騎士団のメンバーが城に来ると、別館の大広間で大宴会だった。
騎士のみんなは、ジンジャークッキー……“ジンジャーブレッドマン”にそっくりなゴーレムと、既に仲良くなっていた。戦闘になったゴーレムと違い、見た目が可愛らしく、従順なので、すぐに打ち解けたようだ。
そしてこのジンジャーブレッドマンなゴーレムたちが作る料理は、絶品!
目の前で生ハムをスライスし、ワインは樽で提供され、チーズも種類が豊富。パンは焼き立てで、ビールもある。シチューやパイも運ばれ、もう飲んで食べて、さらには歌い、踊ってと大騒ぎ。
ホークはこのお祭り状態に大喜び。
だがランスと私はこっそり早めにこの大宴会を抜け出し、ジンジャーブレッドマンなゴーレムに手伝ってもらい、入浴を早々に済ませた。その後は二人でベッドへ潜り込み、私を気遣った優しく甘やかなキスタイムから睡眠へ突入。
もう熟睡。爆睡!
ランスに腕枕されて眠ると、睡眠が深くなる気がする。
それは大好きな人がそばにいることで、安心感につながるからかしら?
こうして翌日の朝は、完全に充填された状態で目覚めることになる。
服装はみんな昨日と同じだが、優秀なジンジャーブレッドマンなゴーレムが手入れしてくれていたので、皆、パリッと新品同様の装いになっていた。
そして朝食の席で、ターニャがこんな提案をする。
「皆さん、おはようございます。あたしは一刻も早く、石像にしてしまった女性を元に戻したいと思います。そこで転移魔法を使い、殿下とサラ様とホークを連れ、先に王都へ向かってもいいでしょうか?」
なんと王都まで自身を含めた三人と鷹の姿のホークを転移魔法で移動可能と言い出し、もうビックリ! さすが魔女の始祖の一人だ。それだけ強い魔力を大量に保有しているのだから!
「分かりました。自分たちは馬で王都を目指しますので、殿下たちは先へ王都に戻ってください。国王陛下夫妻も国民もみんな、帰還を待ち望んでいると思いますので」
マーク達騎士団のみんなは快諾してくれた。
こうして私達は一足先に王都へ戻ることになる。
「北の魔女ターニャの魔力は、なんだか無尽蔵だよな。彼女の伴侶になれたら、魔法使いになれるんじゃないか?」
帰還のため部屋で準備をしていると、既に身一つで身支度が済んだホークが尋ねてきて、そんなことを言うが。確かにそう思えた。昨日、ランスは私から魔力を欲しがっていたが、それは無理だった。断絶魔法を使い、私の残りの魔力が少なかったからだ。
でももし、ターニャだったら……。
そんなことを思いながら、城のエントランスに集合していた。
そこには既に、ワイン色のドレスに黒のロングローブを着ているターニャと、昨日と同じシルバーグレーの毛皮のマントに、厚手のウールの乗馬服姿のランスも揃っている。
だが騎士達が見送りをしたいというので、彼らが来るのを待っている状態だった。
ランスは既にエントランスに来ているマークと話している。ホークもその会話に加わっていた。
そこで私はターニャに思わずこんなことを尋ねている。
今朝、ホークに彼女の伴侶のことを聞いてしまい、そこで聞かずにはいられなかったのだ。
「実はターニャさんは覚えていないと思うのですが、ご自身とランス殿下は剣で戦闘されていました。その際、殿下は魔法を使うことが出来たのです。殿下は私の伴侶ですし、呪いを解くために既に私の魔力を得ている状態。そしてその体内に私の魔力が残っていたので、その魔力を使い、魔法を使うことができたのですが」
「ちょっと待ってください、サラさん、それは本当ですか!?」
本当は「魔法を使えるが、私では魔力供給が不足がちになる。もしもっと魔力が強い魔女の伴侶になれば、ランス殿下はもっと魔法を使えるようになるのでしょうか」と尋ねたかったのだが、遮られてしまう。
昨日、いろいろ話したが、戦闘の細かい内容は割愛している。よって今、初めてランスが魔法を使えたことを話したところ……。
「確かに魔女の伴侶が人間の男性の場合、その体内に魔力が流れ込みます。でもそれは流れ込んで、そのまま消えてしまうもの。体内に残るなんてことは……。ましてやその魔力を使い、魔法を使えるなんて。もしや王家には、過去に魔女の伴侶になった方がいるのでしょうか。その血筋であれば……。それでも珍しいことです」
そこで一度言葉を切り、ターニャは全く別の話を始めた。
「この世界には大魔法使いと言われる存在がいるのですが……彼らは皆、元は人間なのです。なぜ彼らが大魔法使いになれたのか、正確には分かっていません。ですが母親が魔女であったとか、魔女の伴侶ではないかと言われているのですが、出自がとにかく不明なんです。それは出自が分かると、狙われる可能性があるからだと思うのですが……」
大魔法使い。
本でその存在については目にしていた。
とても強い魔力を持ち、ありとあらゆる魔法を扱うことができるが、いつの時代にも存在しているわけではない。大変希少な存在であり、どこの国でも彼を求めていたというが……。
ここ数百年、大魔法使いは不在であり、やはり精霊のように伝承の存在になりつつあった。
そして肉親はイコール弱点になりかねない。
これは自明の理だ。
権力者は魔女や魔法使いを利用したいのだから、肉親がいれば捕らえ、脅迫の材料に使うだろう。「この戦争に手を貸せば、両親の命は助けよう」というように。
「殿下はもしかするとその大魔法使いになれる資質をお持ちかもしれませんね」
「! そ、そうなのですか!?」
「ええ。だってサラさんの魔力で魔法を使えるのですから。そう考えると……お二人は、星の定めで巡り合う運命だったのかもしれません。殿下が大魔法使いとしての一歩を踏み出すのは、間違いなくサラさんとの出会いが最初だったでしょうから」
これは朗報であり悲報だ。
ランスは魔法を使いたいと願っていたのだから、もし彼が大魔法使いになれたら……。
そう思う一方で、ランスが大魔法使いになるなら、強い魔力が沢山必要になるはず。だが私は、そこまで魔力があるわけではない。
「ですが私では十分に魔力を殿下に与えられることができません。……殿下が魔法をスムーズに使うためには、ターニャさんのような強い魔力を無尽蔵に持てる人が必要なのかもしれません」
お読みいただき、ありがとうございます!
次回は「第100話:頬にキスをするので……」です。
なんともうすぐ100話!
ご愛読に感謝でございます☆彡





















































