9話:おじいさんは何者?
朝食が終わってしまった。
おじいさんはいつも通り、とても丁寧な手つきで食後の紅茶をいれてくれている。しかもりんご、洋梨、ぶどうを加えた秋のフルーツティーを入れてくれたのだ!
おかげで部屋にいい香りが漂っている。
「このフルーツティーは、レシピがあるのですか?」
「レシピ。特にないですね。強いて言えば、今ある物から思いついた、ですかね。サラも料理する時は全部、勘では?」
「それは……その通りです。でもよく思いつきましたね」
おじいさんはサラサラのブロンドを揺らし、透き通るような碧眼を細め、記憶を呼び出している。
「そうですね。僕は子供の頃から文武両道になれと、勉強と武器を使った訓練や乗馬で、忙しい日々を送っていました。唯一気持ちが和むのが、自分で紅茶をいれる時です。本当はそんなこと、僕がすることではないと言われていました。でもなんとか許してもらい、ティーマイスターに美味しい紅茶の入れ方を習い……」
おじいさんの子供時代。
今、十代後半にしか見えないのだ。容易に想像がつく。間違いなく美少年だったに違いない。
「勿論、伝統的なブラックティーもいいのですが、ハーブティーもブレンドするのが楽しくて。ドライフルーツやドライフラワーを使えば、もっといろいろアレンジできるのではと、ずっと思っていました」
なるほど。というか、文武両道であれと育てられた。つまり英才教育を受けていたのでは? それに紅茶を淹れるのは、おじいさんのすることではない……と。
やはり平民ではない。
それにティーマイスターなんて、初めて聞いた。
そこら辺にいるのかしら?
もしかすると剣を盗んだ……なんて考えてしまったが、持ち主は間違いなくおじさん自身なのでは? かつこうなると剣士でもなく、騎士、確定なのではないかしら?
これまで、言いたくないだろうと聞かずにいた。
でもここに来て、知りたくなっていた。
おじいさんが何者であるのかを。
意を決し、尋ねる。するとーー。
「僕の正体を明かします。僕の名はランス・エドワード・エヴァレット。父上はエヴァレット国王、母上は亡くなりましたが、王妃でした。僕は亡き母上と国王の間に生まれた嫡男です」
「ココ、両親が国王夫妻ということは。じいさん、王子なのか?」
「多分そうよ。王族! サラ、このお兄さん、とんでもない方よ!」
ホークとココが驚きの声をあげているが、私の脳もおじいさんが言ったことをじわじわ理解し、軽くパニックだ!
だって。
青年の正体は、この国の王様の嫡男。
つまりエヴァレット王国の王太子なのだ!
ということは、いつぞやかに森の入口に現れた騎士たち。あれは間違いなく彼を探していたのでは!?
「ええ、そうですね。僕を探していたのだと思います。……何も言わず、僕は王宮を飛び出し、宮殿を去り、あてどなく彷徨い、この森に辿り着いたので……」
「何が、何があったのですか!? 子供の頃から王太子として育てられてきたのですよね? それなのにそれを放棄し、王宮を飛び出すなんて」
「そうですね。これだけお世話になっているのです。それにサラにお願いしたいことがあるので、全てを打ち明けます」
そこでランスは大きく息をはき、こう切り出した。
「僕は呪いをかけられています。北の谷に住む北の魔女に、です。魔女の名はターニャ」
「!? ま、魔女に呪いをかけられたのですか!?」
ランスはコクリと頷く。
魔女の呪いは、かけた本人が解くか、死ぬか、かけられた者が死ぬ以外、解決方法がない。
それだけ強力なので、魔女と言えど、そう簡単に呪いをかけることはなかった。何せ呪いはそれを持続させるため、常に呪い続けなければならない。
つまりは体内にある魔力を消費し続けることになる。魔女の体にかかる負担が大きいのだ。
ということは知っているが、北の魔女。
ターニャ。
同業者であるが、知らなかった。
そもそもそういう情報を、精霊は教えてくれていなかった。
でもこの世界に魔女は、一人ではない。
ゆえにいる、のだろう。
「なんでまた、呪いをかけられたのですか?」
「僕はターニャという魔女と、接点なんてないと思うのです。でもターニャは僕のことを知っており、求婚してきました」
「! そ、そうなのですね……。でも魔女と結婚できるのは、悪い話ではないのでは?」
魔女は人間と違い、長命だった。
外見の成長も好きな時にストップさせ、そこから何百年と生きることができる。そして魔女の伴侶になると、その伴侶もまた永遠の若さと長命の恩恵を受けることができた。
「さすがにご存知ですね。魔女の伴侶になることは、ご指摘の通り、悪い話ではないです。ですが長命となり、共に長生きするなら、心から愛せる魔女がいいですよね? しかしターニャは強引な魔女でした。これからの何百年を、共に生きたいと思える相手ではありません」
「何を……何かしたのですか、呪いを殿下にかける以外のことを」
「ターニャは僕と結婚するために、非情な手段をとりました。僕の周囲にいる女性を、ことごとく石像に変えてしまったのです」
それは……ヒドイ。
そんな魔女と王太子であるランスが結婚したら、なんだか世の中の平和の均衡が崩れそうだ。
「僕が求婚を断ると、ターニャは逆上しました。そして呪いをかけたのです。その呪いのせいで、老人の姿になっていました」
「……! え、でも、今は若いですよね? その姿が本来の姿……ですか?」
「はい。その通りです。ターニャは『老人姿のお前に対しても、心から尽くす女がいるならば。さらにはその女と手を取り合い、真実の愛を以てして私を倒すならば、その呪いは解けるだろう。だが無理だろうけどね。そんな女、見つかるはずがない』と吐き捨てました。でもサラは献身的に僕に尽くしてくれましたよね。そのおかげでターニャの呪いの力の影響を、受けにくくなったのだと思います」
お読みいただき、ありがとうございます!
おじいさんの正体が判明!
次回は「第10話:こんなことをしている場合ではないのでは!?」です。
何やらおじいさんは難題を抱えているようで……。
【お知らせ】完結!一気読みできます。
悪役令嬢やヒロインではなく、中ボスに転生!?
『周回に登場する中ボス(地味過ぎ!)魔女に転生!
~乙女ゲーなのに恋とは無縁と思いきや!?~ 』
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溺愛あり、スリリングあり、キュンあり、もふもふもあり。
ラストは大円団のハッピーエンド!
ぜひお楽しみくださいませ~☆彡
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