はじめまして
それくらいです
「覚えてない?」
「はい。師匠と会う前のことは全部」
視線を受けてトワが頷く。
「...そう」
「でもいろいろ知ってるよね」
「それがなんで知っているのかが僕にもわからないんですよ」
「ええ...」
「トワは知ってたのか?」
「本人から聞いてはいた。聞いたことのないような言葉をしゃべることは今までも何度かあった」
「...一応旅の途中でなにかわかったらいいとは思ってましたけど、なにもわからないままもうずいぶんになります」
「あった。これじゃない?」
借りてきた本を開いてルカが示す。竜の伝承に関するもので、かなり古いが災戦よりは後の時代のものだ。
「ヴェアレア」
そのまま読み上げる。
「でいいのかな読みは。スェトナが滅んだ時の記録があるみたい」
「こっちのには絵があるよ」
別の本を開いていたリアが言った。
「そうそう、こんなんだった」
絵に描かれた竜を見てルカが言う。レタも頷く。
向国スェトナは災戦後の1200年頃には国として成立していたが13世紀後半に滅んでいる。1350年に再び今の国ができた。
「滅んだときも竜が出たのか」
「自然が豊かなわりにそんな人がいないのもそのせい?」
「関係ないと思う。でも魔物の被害は多いところって話はあるね」
「それは小さい森がいくつかあるせいだと思います」
「この妬っていうのは?」
「魔物は感情から生まれたという説がありました。なかでも竜は名前も特定の感情からつけられています。ヴェアレアは妬」
「...何語?」
「メルポトカ語です。災戦より前の古代語ですね」
「「...」」
「...いや本当になんで知ってるんでしょうね」
「というかまず、竜ってそんな何体もいるの?」
「ここに記録があるのは8体かな。それであってる?」
「わかりません」
「...ほかになにか知ってることはないか?」
「...わかりません。きっかけがないとなかなか思い出せないんですよね」
「...本当に何者なのキミ」
「じゃとりあえずは、俺たちはイルテラに行くってことでいいのかな」
「他に手がかりがない以上、そうなりますかね」
「それオレも一緒に行っていい?」
「安全は保証できませんよ?」
「わかってる」
「いいんじゃないか。そっちのみんなから何も言われないなら」
「「そういえば」」
「あっ!」
急な叫び声に幾人かが飛び上がり、叫んだルカは口を押さえる。
「...どうした」
至近距離で叫ばれたレタが軽く耳を叩きながら訊く。
「ごめん。あっちの宿を見たときにさ、あの、エルが連れてた馬がいたんだよ。すっかり忘れてた」
「俺は見た覚えがないな。気のせいじゃないのか」
宿からの帰り道でレタが言った。
「...そうだったのかな...」
「...チレが...いたんですか?」
呼吸を整えながらイヴが訊く。
「名前までよく覚えてたね」
「借馬なんでしたっけ?」
「...そうだっけ?」
「そう言ってたな」
明るくない顔で研究所に戻った3人にリアが尋ねる。
「ねえそのエルっていうのは?」
「なんだそれ」
「別れた後にそんなことがあったんだ」
「なにがしたいのかまったくわかんない」
それはなんだろう