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天地の変  作者: 匹々
零虚の章
55/55

は?

最終話

トワは空を見上げる。雲もなく星がよく見えた。

眼下に見える街はこんな時間だというのに随分明るい。光のほとんどが一か所に集中している。普段はない丸い灯があるのは今日が特別な日だったからだ。

改めて周囲を見渡して、それからため息をついた。

「久しぶりですね」

声のした方に、エルがいた。白い布に身を包み、顔を覆う仮面を着けている。

エルが街を見下ろす位置に立つ。

「どういうことなんですか?」

「知らない」

「いつから?」

「半年くらい前」

「前回と同じですか」

「誰もいないところで目を覚ました。何も覚えていないらしい」

エルが黙る。

「不満そうに見える」

「当然ですよ。自分たちだけが、特別な存在だと信じていたんですから」

「他にもいるのかもしれない」

「信じたくないですね。まだ師匠って呼ばせてるんですか?」

「勝手に呼ばれている」

「教えてやるんですか?」

「必要、というより意味がないと思う。自分だって全部は知らないわけだ」

「あの子は君に似てますよね」

「長いこと一緒にいる。最初に会ったときは君に似ていると思った」

「どのあたりが?」

「誤魔化せないところ、ときどき何も考えていないところ、自分自身さえよければそれでいいと思っているところ、他人を困らせるのが好きなところ」

「着眼点も順番も気色悪いですし、一部はそのまま返します」

「他人をちゃんと見ていないところ、特別だという自負があって他を見下しているところ」

「そうですか。君はあれから何をしてたんですか?」

「旅を続けた。だいたい回りたいところは回れたと思う」

「嘘ですよね」

質問の調子ではない。

「勘で話すのはよくない」

最期は覚えていない。いつも通り。

「君はあの後何かをしたのか」

「今回で何回目ですか?」

「8回目かそこらだろう」

「いつまで続くんですかね」

「考えてもわからない。終わらないかもしれないし、次はないかもしれない。いつ終わってもおかしくない」

「わかってるんですね。そのわりに前回冷たかったじゃないですか」

「ほとんど君のせいだと思う」

「ヒトのせいにするのはよくないですね。結局一対一で話すことなかったじゃないですか」

「その機会はあったのに悉くふいにしたやつがいる」

「ヒトの気も知らないでいい気なものですね。まさか次があるって知っていたんですか?」

「悪魔の力を借りて遊んでいた」

「面白いですよあれ。この世にあっていいものじゃないです」

「それはそうと、最終的にはどうなったのか知らないのか」

「知ってるわけないじゃないですか」

「確かなのは誰の願いも叶わなかったことと、誰もここにはいないことくらいか」

言いながらトワは後ろの墓を振り返る。ニヒツで見たものと違ってまとめられている。

「今戦争がないのはたしかですけど、断言はできないですよ。悪魔がいるんですから。願えば禁域からも戻れるかもしれないですし、認識から変えられてる可能性もあります」

「誰かさんのときみたいに。くだらない」

「それこそ、禁域はもともと出入り自由だったらどうするんですか」

「自分の認識だと禁域は戦後からある。その説だと認識を変える理由がわからない。君の認識は違ったりするのか」

「よくただの戯言をそんなに真面目に考えられますね。自分は今日ずっとここにいたんですけど」

「途中で飽きなかったのか」

「自分たちも一緒に戦ったことになってるらしいですよ」

「問題あるのか」

「戦ったつもりなんですね」

「なんの問題もない。教科書は読まなかったのか」

「書いてあったんですか?気づかなかったです」

「2文だけ。危険思想者の暴走」

「それがそうだったんですか。まあそんなものですね」

「ここまでは何か面白いことあったのか」

エルが仮面を外す。

「特にないですね。この前『義理餅』を読んだんですけど」

「聞いたことはある気がする」

「あれですよ。生命の泉の逆って言えばわかりますかね」

「それでわかるのが悔しい。25年くらい前に結構流行ったやつだったか。いつか読もうとは思っていた」

「最後全員死にます」

「するなら真面目にネタバレしてほしい」

「よくこんな平和なものが流行ったものですね。不思議です」

「当時の読者が偏っていたんだろう。自分は『ある敗者の部屋』を読んだ」

「聞き覚えがないです」

「読んでみたらいい」

「君のおすすめは信用できないんです」

「最近ようやく君のことがわかってきた気がする」

「1000年早いんじゃないですかね」

「1000年経てばいいのか」

「簡潔に教えてもらえますか」

「...戦争兵器の話」

「興味がわかないですね」

「異世界ファンタジー」

「読みます」

「ファンタジーが好きらしい」

「自分はいつになったら別の世界に行けるんですかね」

「最低でもこの世界をひっかきまわした始末をつけてからだろうか」

トワがエルを見てそれから目を逸らす。

「自分はそろそろ帰る」

「自分はもうしばらくいます」

エルが仮面を着け直す。

「...」

再び視線を向けるトワを見返さずに言った。

「飽きないですよ。そういえばあの子にはなんて言って抜け出してきたんですか?」

「彼が先に宿に帰ったから別行動になった。屋台を楽しんでくると言った」

「ドン引きしてもいいですか?」

「怒らない」

「相変わらずの嘘つきですね。恥を知らないんですか」

目を合わすことなく背を向ける。

「では」

2100年1月1。

世界はまだ続く。

なにかわすれてるきがする

いつものことだね

物語は終わり。物語はね

たいした意味はなかった

今回のセリフは信じがたいことにカットなし

謎は謎のまま。最後まで読んだってどこにも書かれてない。答えは匹々の頭にあるのか。ほとんどはない。いつかおまけその他で明かされるかもしれないし明かされないかもしれない。いくつか考えてはいる。断言するけど匹々に計画性はない

ほかにもいろいろなことがあっただろうね。書いてないからといって価値がないと判断したわけではない

それを言えばこれだってだれかの読解力、もっといえば想像力に依存しているわけで。これを滑らかに読めるなら自信もっていいと思う。同族か、もしくはただのバカか、そもそも興味がないだけのなにかじゃないかな

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