面倒だから
見通しのいい空間。天井は暗くて見えないのに地面は昼のように明るい。壁は垂直な平面でいくつかの四角い通路がつながっている。
そのひとつを覆った土煙から濫酩が顔を出す。
「...なにすんねん」
「あ、ごめん」
そちらへ腕を振った体勢で逍喧が謝る。
「でもどうせ治るでしょ?」
「死んだら治らんねんって」
「...逍喧、勝手に動くな」
ラズが言うと逍喧は座り直す。
「わかってるよ」
その隣に濫酩も座る。
「全員動くなよ」
逍喧を見てルカが言う。
「やっぱりソイツは拘束したほうがいいんじゃないの?」
「そうかもな。二度と動けないようにするか」
「いや大丈夫。この通り大人しくしているよ」
逍喧が言うと周りの者はため息をついた。
「イース」
ラズが呼ぶとイースが座っている逍喧の真後ろにかなり距離を置いて立った。
「で、どうだったの?」
「...崔冠」
「ラズだ」
濫酩が呼ぶとラズが訂正する。
「首陵を解放してくれ。このままやと死ぬ」
「...何してたの?」
「しばらく踊り続けるように命じた」
「貴族さんにはしんどいんじゃない?」
「だろうな。だが死にはしない程度のはずだ」
「...いっそ殺してやれ」
「なんならお前たちもやるか?」
「遠慮しておくよ」
「絶対にいやだ。」
ラズが首陵から聞き出した悪魔の力を制御していた装置を破壊したことで戦局は決まった。
ラズの命令によって下僕たちは一か所に固まって座っている。
ここには今ほとんどの者がいる。
ルカ、レタ、ユーリ、ラズ、ローチェ、ルノ、リア、ユナ、濫酩、曠砥、瀕篩、晶創、逍喧がいる。ここにおらず死亡が確認されていないのはセリ、トワ、スーダ、メオ、ミヤ、首陵、エル、そしてイヴ。
イヴと一緒にいたはずのレタもリアもいつからいないのかわからなかった。エルに関しては一つも目撃情報がなかった。
「改めて、我々をどうするつもりや?」
濫酩がラズに向かって問う。
「少なくとも後から悪魔と契約した人間が他の人間と一緒に生きるのは無理だろうね」
ラズが黙っていると逍喧が口を開いた。
「世界の救世主になりたいのなら、全員殺すべき。」
曠砥の言葉に異論を述べる者はいなかった。ただ真っすぐに敵を見ている。
それを見て逍喧が苦笑する。
「見てよほら。覚悟決まっちゃってるんだ」
「ボクたちは」
リアに担がれていたローチェが口を開く。
「世界を救いたいわけじゃない」
「じゃあ?」
ローチェは黙った。
「誤魔化すな。決めたことは貫け」
座ったままユナが言った。
ユナが順番に視線を巡らせ、隣のルノに向く。
「出来ることならみんな救いたいよ...」
「無理じゃないかな」
逍喧の言葉が沈黙を呼ぶ。
「...今更こいつらが考えを変えたとしても、俺は信用できない」
「アタシも。...殺さずに済むならそうしたいけど、これはもう駄目なやつだと思う」
「ルノ」
突然声がした。よばれたルノは顔を上げる。
「どうしてセリを狙ったんですか?」
イヴがいた。
「...。先に仕留めておかなきゃと思ったんだ...」
イヴの後ろにトワがいた。
「セリは?」
誰かが訊いた。複数人だったかもしれない。
「死んだ」
トワが答えた。その場から音が消えた。
彼らと同じ喋り方の人間は他にいるのだろうか




